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白亜と再会した翌日。士門は早速白亜の研究室に電話で呼び出された。結局昨晩の宴は三次会まであり、アパートに戻れたのは朝の四時だった。いきなり大学生らしいことをやっていると実感する。数日前は健全な高校生だった士門にとっては結構ハードだった。そして今日の呼び出しは朝十時。かなり厳しい。
「どうぞ」
人文学部棟416号室のドアをノックすると、返事が返ってきた。
「おはよう士門。ご機嫌いかが?」
「あんまり良くない」
部屋に入ると白亜は机についてパソコンに何かを打ち込んでいるところだった。室内は相変わらず独特な香草の匂いがする。そしてもちろん四隅のカメラも健在だ。幽霊でも撮るつもりなのだろう。
「そうだと思った。でも早速やることがあるよ」
白亜はパソコン画面から目を離すことなく会話を続けた。
「士門の初仕事として相応しいものを見つけたの! ここに置いてあるA4の紙に目を通してみて」
言われるがまま白亜の机の上に置かれたコピー用紙を手に取る。
「なにこれ?」
「大学から一番近い超常現象スポットについてまとめたもの。ランチ後に実際に行こうよ」
「えー。いきなり? まだ授業の履修登録すら終わってないのに」
「それは今からここですればいいでしょ?」
「そんなすぐ決めれる事でもないだろ? これから半期に渡って受ける授業なのに」
「大丈夫よ。必修科目と士門が興味ありそうな授業とその内容をここにまとめといたから」
白亜は一旦パソコンでの作業を止めて数枚のコピー用紙が挟まったファイルを取り出した。
「マジか……」
「あと1時間でメール処理終わるからそれまでにやっといてね。このパソコン貸すから」
そう言って白亜は士門に新品に見えるノートパソコンを差し出した。これで大学一年前期授業のオンライン履修登録をしろということらしい。いずれやらなければならない作業であるため渋々士門は履修登録することにした。
白亜の書斎机の前にあるローテーブルにパソコンを置いて士門は革張りのソファに腰を下ろした。パソコンを起動しながら白亜がまとめてくれた授業一覧に目を通す。登録ページのURLから方法まで事細やかに記されている。驚くべきことに提示された授業は本当に士門の興味のある授業ばかりだった。こんなことでも白亜との差を感じざるを得ない。
「よく俺の好みが分かってるね」
「私が心理学のプロフェッショナルってこと忘れてない?」
「そうだった」
白亜のおかげで履修登録は非常にスムーズに進んだ。白亜の仕事が終わるまでの残りの時間は大学から一番近いという超常現象スポットについてまとめた情報を読む。
『光の館』
・この地域では言わずと知れた心霊スポット。元々この地域の地主の家だったといわれていて、そのため敷地は300坪を越える。木造平屋の母屋と二つの蔵があるが今は廃屋となり荒れている。
・写真を撮るとオーブが映りこむとのネットの書き込みあり。
・霊感がある人が近寄ると頭痛がするとあるが思い込みと考えられ信憑性は低い。
・その他ネットでは女性の霊、母屋に大量のお札、心臓が撫でられるような感覚など多数の情報が見られる。
・人が暮らしていたのは60年前。この地域では有力な一族であった。
・近隣住民では何故かオヒカリ様の館と呼ばれている。正確な由来は分からない。一説では暮らしていた一族が隠れキリシタンであったためと言われている。
・敷地内には石材を粗く削った菩薩像があるが聖母マリア像とも言われている。
以下、住所と所在地の地図。
よくある都市伝説の類だ。それが士門の印象であった。