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明星白亜のX‐レポート  作者: 月讀
レポートNo.0 再開
4/5

 士門が白亜と再会した日の夜、二人は大学の近くの居酒屋に来ていた。決してデートではない。今後のアシスタントとしての仕事について話すのが主な目的でそれに合わせて面談と称したオカルトを語り合いたい会を開くのが白亜の目的らしい。

「先ずは入学おめでとーう! そしてアシスタントの採用おめでとーう! 更に二人の再会と超常現象に乾杯!」

 今日一日白亜のテンションは高い。まるで新しいオモチャを買い与えられた子供のようだ。この話の流れだと士門がオモチャということになるが。

「それにしても士門はなかなかのチキン野郎だね。宴の席で烏龍茶を選んで乾杯するなんて」

「なんとでも言え。未成年の飲酒は犯罪だからな」

「その発言アメリカのドラッグ中毒のクソガキたちに聞かせてあげたいわね」

「それは基準が違い過ぎる」

 白亜は中ジョッキのビールを勢いよく胃に流し込む。なかなか豪快だ。

「話は変わるけど士門。あなた『Xファイル』見たことある?」

「名前は知ってるけど見たことはない。知ってるのは不安を煽る曲とUFOが出る海外ドラマってことくらいだな」

「うー。その程度しか知らないなんて。じゃあアシスタントとして来週までに全シーズン見て来て。DVD貸すからさ」

「そんな暇じゃない」

「えー、じゃあ私と毎日夜に少しずつ見よ! あ、すいませーん! ハイボールください!」

「時間が取れる日はいいけど」

「よーし決定! 事前に予習しておくとFBIのXファイル課に所属するモルダー捜査官とスカリー捜査官が毎度いろんな超常現象事件に関わりながら真相を究明していくの!」

「ストップストップ。それ以上は言わないで。ネタバレになるだろ」

「それもそうね。あーでも早く語り合いたい。この感情はどこにぶつければいいのよ」

「少し待てって。来週には少しは語れるくらいになってると思うし」

 一旦白亜を落ち着かせる士門。そして目の前にある鶏の唐揚げにレモンを絞ってそのまま頬張る。

「そういえば昼にFBIで働いてたって聞いたけどもしかしてそれもXファイルの影響なのか?」

「当然。でも事前に言われてた通りだったけどXファイル課なんて存在しなかった。だから一年で辞めたの」

「勿体ねーな。そもそもフィクションなんだからあるわけないだろ」

「それでも自分の目で見て納得したい主義なの」

「そういうものなのか。俺には無駄にしか感じない」

「過去のことはどうでもいいの。重要なのは未来でしょ。こうしている内にちょっとずつ宇宙人に地球が侵略されてるかも知れないのよ!」

「なんて残念で中二な従姉なんだ」

「残念言うな」

「残念美人。俺は結構嫌いじゃないけどね」

「なになに? 私を口説こうとしてるの? トリノの聖骸布の切れ端でもいいから私にくれたら考えてあげる」

 トリノノセイガイフ? 士門の知らない単語だった。

「知らないみたいだから教えてあげる。聖骸布っていうのはイエス・キリストの遺体を包んだとされる布のこと。現存しているのがトリノの聖ヨハネ大聖堂に保管されているの。気が向いたら取ってきてくれない? キスぐらいしてあげるから」

「まさかのかぐや姫方式」

「冗談はさておきアルコールが回る前に私の仕事を説明しておくね」

「それもそうだな」

「当然大学の先生だからその業務は行わないといけない。論文の査読や授業、勿論研究発表も。だけどそれは全て副業。本業は超常現象のリサーチ、現地調査、データ集め、そしてレポートの作成と報告。士門に手伝ってもらうのは本業の方だけね」

「普通逆な気がするんだけど」

「そんなに雑務がしたいの? 大変よ?」

「いや遠慮しときます」

「調べた超常現象はXレポートとしてアメリカに送ることになってるからそのお手伝いをお願いするわ」

「Xレポート?」

「超常現象研究家たちが集まった研究会がアメリカにあってそこに送るのが論文の代わりにXレポートと呼ばれる報告書。いいネーミングでしょ」

「アメリカには白亜みたいなのがいっぱいいるのか」

「失礼な言い方ね。たしかに多くのソウルメイトはいるけれど私みたいな可憐な女子はレア」

「それはなんとなく想像できる」

 オカルトマニアと言えばやたら知識自慢してくる厄介なガリガリ眼鏡かネットに没頭するコミュ症ポッチャリ眼鏡の二大勢力に大別されると士門は考えている。偏見だが。

「具体的にはなにすればいいの?」

「それは研究対象によって違うわ。妖怪なら文献探し、幽霊ならカメラ置いて出るまで待つとかね。でも重要なのは実際に現地に行って肌で感じること。そして出来れば科学的に解釈できるデータを手に入れることが出来ればパーフェクト。とりあえず日本で最初に手をつけたいテーマは民俗学ね。日本における民俗学と言えば遠野物語が有名だけど独自に日本の様々な地方の奇怪な話を集めたいわ。そのためにまずは民俗学に関する文献とネット上に上がっている現在起きているかもしれない不思議な情報を探してほしいの」

「意外とよくやられている手法を採用してるんだな」

「基本はどの世界でも重要よ。それぞれの事象に対してどうアプローチを取るかはその場で考えて工夫しないといけないけどね」

「なるほど。ところで副業の方だけど学生時代の研究も考古学だったの?」

「いいえ。考古学を専門とするのは始めて。大学では医学、修士論文は地質学、博士論文は行動心理学で通ったわ。考古学を選んだのは士門の研究希望分野が考古学だとパパから聞いてたから。それに古代文明の調査もついでに出来るしね」

「無茶苦茶な」

「人生楽しまないと。それに考古学こそいろんな知識がいるから私に向いてると思うよ。遺骨の鑑定や遺跡の年代、古文書の解読、当時の社会構成。これらを知るにはいろんな学問が必要になると思うけどそのほとんどを私は勉強してきてる。ちゃんと専門以外の論文も読んでるのよ。偉いでしょ?」

「はぁ。なんか悲しくなってくる……」

「なんで?」

「たった三歳の違いでこんなに差があったら普通落ち込むよ」

「そんなしょうもないことでへこたれないでよ。私と同じような人がもう一人いてもしょうがないでしょ。士門は自分にしか出来ないことを見つけて極めればいいの。それでこそ社会にとって有益な人材になるのよ。きっと三年後には私にできないようなことができてるわよ」

「なんてありがたい言葉なんだ。心が浄化される」

「ていうか今日は教えを授けに飲みに来た訳じゃないの! 超常現象について語り合うの!」

「アーソウデシタネ」

「もう! ちゃんとしないと割り勘にするわよ!」

「すまんすまん」

「またっくー」

 白亜は追加で注文したジントニックをちびちび飲みながら士門を睨んだ。

「で、士門は超常現象にどれくらい詳しいわけ?」

「人並以上には知ってると思う」

「ほう。単語を挙げてみて」

「チュパカブラ、グレイ、つちのこ、クリスタルスカル、ノストラダムスの予言、悪魔祓い、黒魔術、フリーメイソン……とか?」

「メジャーどころは大体知ってる感じね」

「テレビで紹介されるようなのならたぶん知ってるかな」

「まあそう言うの大体作り話なんだけどね。95%位が偽情報か勘違いよ」

「俺もそう思う」

「その根拠は?」

「映像とか自称オカルト評論家の言ってることが実物が違うから」

「それってどういうこと?」

「そのままの意味。俺はUFO見たことあるし、変な人型見たいな影も見たことある。海岸の岩が上下に勝手に動いたり、飼っていた熱帯魚が突然蒸発するとかいう訳の分からない現象も見た」

「士門それ本当なの!」

 白亜は興奮した様子で立ち上がり、両手で士門の肩を掴んでいた。白くて細い手なのに意外と力が強い。

「落ち着け。全部この目で見た。頭の病気と言われればそうなのかもしれない。でもこの二つの眼は確かにそれらを見た」

「士門、あなたって最高ね! そうだ、結婚しよう」

「はあ? 早まるな、白亜。俺程度の不思議体験している人は世の中に沢山いるから」

「えー、知らない人より知ってる人がいいもん」

「その基準、全然嬉しくねぇ」

「とにかく士門の話詳しく聞かせて」

「いいけどさ。白亜はそう言った体験したことないのかよ?」

「私? 一度だけしか無いわ。わざわざ自分で足を運んで見た悪魔祓いくらいよ」

「そうなんだ。俺は半年に一回の頻度で奇怪な現象に遭遇してるな。珍しい出来事とは理解していたけど人によってこんなにも遭遇率が変わってくるんだな」

「確かに見える人には色々見えるみたいだし、一生見ない人もいる。この差は何なのかしら。研究する必要がありそうね。ていうか不公平すぎでしょ」

「そう言われてもなー」

「ズルいズルい! 見たい人が見れなくて興味が薄い人には頻繁に見えるなんて神様ツンデレだよ。あっ! でもこれからずっと士門と一緒にいたら六ヶ月以内に見ることができるってことだね!」

 少年の様な無邪気な笑顔で士門を見る白亜。非常に対応に困る。

「四六時中一緒っていうのは無理だろ」

「無理じゃないよ。お風呂だって一緒に入っていいんだよ。だって従姉弟じゃん。子供の時はおばあちゃんの家で一緒に入ったよね?」

「もう大人なんだから無理に決まってるだろ。白亜が良くても俺が恥ずかしい」

「好奇心と羞恥心。当然勝るのは好奇心でしょ?」

「いやいやいや。勘弁してくれよ。俺の体験談聞かせてあげるから今日は許して」

「んーわかった。今日のところはそれで手を打ってあげる」

そして士門は朝まで白亜に付き合わされたのは言うまでもない。


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