[LDI] side R
―――――こんなはずでは無かった。
誰も居ない広い荒野を少年はさまよう。
靴の裏はボロボロに擦り切れ、焼け焦げた服からは痛々しい傷口が露出する。この世界では珍しい黒髪と黒い目。肌は土汚れと鮮血に染まり、その二つのコントラストはどこか美しくさえ見えた。
――――どこで間違えたのだろうか。
少年は一つの『宝物』を探していた。
誰にも渡したくない、失いたくない、それは彼がこの世界で生きているたった一つの支えであり存在する意味を象徴していた。その温もりは、今、命の灯火を消そうとしていた彼の体に鞭を打ち、少しずつ少しずつ前に進ませる。残酷な事に。
―――もう、感じない。痛みでさえも邪魔だ。
地面は、人だった『物』で大量に埋め尽くされ、少年の行く手を阻んだ。
時々それは、少年の足に引っかかりバランスを崩させる。
何度も転びそうになりながらも、体制を立て直し乗り越える。踏み潰す。蹴り飛ばす。
その度に、少年は赤く染め上げられていく。グチャっと音が鳴り楽しくさえ感じてきた。
――あれは・・・もしかして・・・
少年は遠くに光る物を見つけた。
空は雲が立ち込めていたが、一本の光の筋がまるで宝物のありかを教えるかの様に、地面に向けて伸びていた。神様が与えてくれた最初で最後のプレゼントだったのかもしれない。
力を振り絞り、光に向けて歩みを進めた。
もう、それは歩いているとは表現出来ない。四肢全てを寄せ集め、前へ、前へと身体を光へ近づけていく。
普通の人が歩くと30秒程の距離を、永遠とさえ思える時間の中で少年は進んでく。
(やっと、見つけた・・・まだ大切に持ってくれていた・・・)
手を震わせながら、少年は宝物をすくい上げる。
それは、安っぽい金色のネックレスだった。
所々剥がれ落ちたメッキからは錆びた銅が顔を覗かせる。少年と同じように鮮血に濡れ、天から降り注ぐ光を受けキラキラと輝く。
「あ・・・あ・・・あ・・・あ・・・ああああああアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
声にならぬ声を上げて少年は泣き叫んだ。全ての感情を曝け出し泣き叫んだ。
それは喜びだったのだろうか、悲しみだったのだろうか、絶望だったのだろうか。
それとも『希望』だったのだろうか。
―――――――――その答えを知る者は、もうこの世にはいない。




