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3.持ち込まれた相談事

今日はかなり早い時間に投稿できました。これも昼から執筆していたおかげですね。まだまだ巧い表現などはできていませんが、よろしくお願いします……。

 始業開始のチャイムが鳴り、教室にいた生徒たちが号令で立ち上がる。

「きりぃつ、気をつけぇ、れー、着せーき」

 締まりのない挨拶で始まる今日一日の授業。暑さにやられて皆も気だるげな様子。そして俺も若干へばり気味。今日一日の目標、寝ない。まこと程度の低い目標である。机の上にノートを取り出し、さあ授業に臨むとしよう。


 「————であるからして、ここの式がこういう風に変形できるわけだ。ここの内容はしっかり覚えとけよ。テストに出すからな」

 数学教師が黒板に書いた内容を板書し終え、俺は一息つく。伸びをすると背中と腰がパキパキ、と小気味よい音を立てた。ぐりぐりと肩を回したりしていたら後ろの席の早花から一言。

「おじいちゃんみたい」

 おそらくこの場合の「おじいちゃん」というのは瑞浪家の爺ちゃんの事ではないだろう。単純に俺の動作が爺くさいと言っているのだ。

「なーに言ってんだ。まだまだ若い俺の底力、見せてやるぜ」

 そう言って張り切り出した俺に早花が言う。

「この前なんか、うちの縁側でエリアス抱っこして一時間くらいボーっとしてたくせに」

「ぐふぅ…。それを言われると何も言い返せない……」

 ちなみにエリアスとは早花の家で飼っている猫の名前である。メスなのに男性の名前なのはご愛嬌。

「猫、膝に乗っけて日向ぼっことか暇なおじいちゃんそのまんまじゃない。この季節暑くないの?」

「だって……ねこ可愛いんだもの…」

 可愛いはジャスティス、とはよく言ったものである。

「あはははははっ、おじいちゃん!」

「コラ、そこ。授業中!」

 笑いあっていると先生の喝が飛んだ。

「「すいません」」

 声をそろえて謝る俺達に、先生が告げる。

「まったく、二人揃って…。たるんでるぞぉ」

 一連の流れを見ていた周りのクラスメイト達は、そんな俺たち二人を見て笑いをこぼしていた。嘲るような笑いではなく、微笑ましいものを見るかのような視線だったのはせめてもの救いというべきか。……なぜ微笑ましいのかはわからないが。

 と、そこで授業終了の鐘が鳴る。

「あー、終わっちまったな。まあいいか、一区切りついたし続きはまた次回だな。よし号令」

 先生がそうぼやき、日直が号令を掛けた。

「きりーつ、きをつけえ」

 ガタガタと音を立てながら皆が椅子を引く。

「礼。ありがとうございましたー」

 授業が終わった途端、教室に活気が舞い戻ってくる。次の授業が始まるまでの空白の十分間、仮初めの平和が生徒たちを解放してくれるのだ。生徒たちはその偽りの平穏を享受し、感謝して休み時間を過ごす。決して休み時間中に予習復習などをしてはならない。

「そんなこと言ってるから〝たるんでる〟って言われんだよ」

 こちらに近づいてきた俊喜の至極もっともな突っ込みに返す言葉もない。

「仕方ないだろ、休み時間は休日・放課後の次に自由の約束されるリベレイトタイムなんだから」

「社畜っぽいこと言ってんなよ」

 社畜。そんなことを言われてしまうようになったということは、俺の心も狭くなってしまったということなのだろうか。これも現代社会の闇なんだなぁ。

「…っと、そんな話をしに来たんじゃなくてだな。京太、ちょっと相談に乗ってほしいことがあんだ」

「なんだ、ちゃんとした用事があったのか」

「それじゃあまるで俺がまともな話もできねえ奴みたいじゃねえか!」

「違うのかな?」

「違ェよ!ヒドイこと言うんじゃねえっ!」

 先ほどの登校中にからかわれたお返しをして気も済んだことだし、そろそろまじめに聞くとしよう。

「それで、俊喜。相談って何の事?もしかしてよく俊喜がしてるっていう人助けに関係のあることかな」

 俺の質問に俊喜は軽く目を見開き、

「おう、よくわかったな。そうなんだ。その人助けに関することなんだけどな」


 ―――そう言って俊喜は話を切り出した。



       *


 先日、いつも通りの軽い人助けで、迷子になった幼稚園児の女の子を母親の元へ送ってあげたときのことだった。母親にお礼を言われ、女の子にも笑顔で「おにいちゃん、ばいばーい」と手を振られて満足していたところを、俊喜は一人の少年に声をかけられた。

「あの、すみません」

 見たところ年は自分より一つ下といったところだろう。面識はないが少し暗い顔をしていたので、何か悩みを抱えていそうだという事は長年の勘でなんとなく察した。取り敢えず反応を返さない事には何も始まらない。俊喜は明るい表情でもって少年に向き合った。

「どうした?俺に何か用があるのか?」

「は、はい。あ、いいえ…用というか、その…八神さんですよね?」

 おどおど、としながら少年は訊ねる。

「おう、俺の名前は八神だ」

「よかった…。噂通りの人だ…」

「噂?」

「あ、いえ!…は、はい」

 どうも煮え切らない様子である。もしかしたら久しぶりに暗い相談事がやってきたかもしれない。ならば自分では言い出しにくいだろう。そう思って俊喜は少年に問い掛けてみることにした。

「もしかして悩み事でもあるのか?」

 それに対し、驚いたように少年は返事を返す。

「え?は、はいっ。…あの、どうしてわかったんですか?」

「そんな感じの雰囲気出してたからな。でもどうして俺に声をかけようと思ったんだ?」


 話しかけてきた相手を警戒させないようにこちらはなるべくフレンドリーに話す。これも長年の経験から得たテクニックの一つだ。だんだんと少年の態度からも緊張の色が薄れてゆく。こうしたほうが本音も訊きやすい。


「ええと、その…悩み事というか…僕には何かを相談できる友達と呼べるような人がいないんです。親ともうまくいってないし、だから誰にも相談できないでいたんですけど……。でもこの前八神さんの噂を耳に挟んで、もしかしたらこの人なら僕の悩みも解決してくれるかもしれないって思って…」

 やはり相談事だった。ならばしっかりと応えなければなるまい。

「そうか。じゃあ詳しく話を教えてくれないか?……ここでもなんだな。どこか喫茶店にでも入ろうぜ」

 俊喜がそう言って誘うと、少年は少しはにかみながらも安心したように言った。

「わざわざすみません。ありがとうございます」

 この少年、比較的礼儀正しいようだ。先ほどからのやりとりでも分かったが、対人コミュニケーション能力に欠けるのが周囲との交流を阻害している要因でもあるのだろう。


「ところで俺が八神俊喜だとわかっても普通は声をかけづらいと思うんだが、なんで君はいきなり俺に話しかけてこれたんだ?」

 ふと疑問に思い、俊喜は少年に訊ねる。すると少年は意外な答えを返した。

「あ…それは、見てたんです。先輩が幼稚園生ぐらいの女の子を助けているところを」

「ふんふん」

「……で、この人なら大丈夫だって思ったんです」

「なるほどなぁ。確かに俺の外見じゃあなかなか人助けをしているようには見えねえもんなー」

 俊喜がそう言うと、少年は焦ったように慌てて言った。

「あっ!いえ!そういう意味で言ったんじゃないんです!すいません、すいません!」

「え?なにが……ああ!そういうことか。ははっ、違う違う。こっちこそそういう意味で言ったわけじゃないぜ。ただ自分の外見からは想像つきにくいだろうと思っただけさ」

 どうやらこの少年は自分が皮肉を言ったと勘違いしていたようだ。だがしかし残念なことに自分にはそんな皮肉をきかせたり、理解したりするほどの頭がないことは俊喜も自覚済みだ。思ったことをすぐ表に出すから皮肉を考える時間もないのである。

「っと、そういやぁまだ君の名前を聞いてなかったな。なんていうんだ?」

 まず名前を聞き出さなくては何と呼んでいいかも分からない。

「あ、申し遅れました。僕の名前は佐渡川祐司といいます。14歳ですので、先輩のひとつ下の学年です。特技はこれといって自分では思い当たらないのですが、苦手なことは人付き合いです。趣味は…」

「クラスメイトへの自己紹介みたいになってるぞ」

 俊喜が突っ込みを入れると、祐司は面白いほど赤くなって謝った。

「っ!すすすいません!僕、今まで友達とかにあまり自己紹介する機会がなかったものですからつい…。自分の事ばかり長々と失礼しました」

「はははっ。謝ることはねぇさ。お前、面白いやつだな!」

「きょ、恐縮です…」

 こんな愉快な少年の抱えている悩みとは一体なんなのだろう。愉快なのに悩むということは、案外根の深い話かもしれない。と、俊樹がそんなことを考えているうちに喫茶店ベイ・フォレストに到着した。

 外観は木の深い茶色を活かした落ち着いたデザインになっており、扉を開けて中に入ってみれば客を癒すかのような木目調の壁に、これまた人の心を癒す効果のある暖かいオレンジ色の光が灯されていて、部屋を明るく照らしていた。冬の日の夜とかにここを訪れるとさぞ幻想的であろう。今年の冬には京太達でも誘って下校時に寄ってみるのもいいかな、と柄にもなく俊喜は思った。

「いらっしゃいませ」

 店長の落ち着いた声に出迎えられて、二人は手近な席に着く。ゆったりとした椅子でリラックスして会話ができそうだった。

「さてと、メニューは何にするかな」

 メニュー表には何種類かのコーヒーや紅茶の他にいくつかのソフトドリンク、スイーツと手頃な軽食などが記載されている。

「この、カフェラテセットなんてよさそうですね。カフェラテの他に小さなチョコレートケーキまでついていますよ」

 祐司がそう言いながら、一つのセットメニューを指差した。

「ほう、結構財布にも優しいな」

 俊喜がそう言うと、別に察した訳では無いだろうが祐司が言った。

「ありがとうございます、本当。あの、わざわざ相談に乗って貰って、ささやかなお礼ですがここは僕に奢らせて下さい。どれでも好きなものでけっこうですよ」

「お、いいのか?じゃあここは有難くいただいちまうかな。……じゃあ俺はこのカフェラテセットをお願いしようかな」

「では僕もそれで……。すいません」

 祐司が呼ぶと、ウェイトレスがやってきて注文を訊ねた。

「ご注文の品をお伺いいたします」

 祐司が二人分の注文をまとめて言う。

「カフェラテセットを二つ、お願いします」

 さらさらとウェイトレスが注文を書き込んでゆく。

「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

「はい」

「かしこまりました。では少々お待ちくださいませ」

 そう言ってウェイトレスは引っ込んでいった。

 注文した品物が出てくるまでは少しかかるだろう。そう思い、俊喜は祐司に促した。

「さて、俺に相談したいって事はなんなんだ?どんな用件なのか聞かせてくれないか」

 その言葉を聞いて祐司が顔を上げる。

「はい。それでは……」

 そう言って祐司は話を切り出した。



若干シリアスな要素が詰め込まれ始めたか?といった感じですが、全然そんなことはありません。まだまだ続く予定でございます。

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