第一幕‐6
「……俺がどうかしました?」
気になって問いかけてみたが3人とも一斉に目を逸らす。
こういうところは行動が一致するんだな、と口にはしなかったが内心思って苦笑する。
「とにかく行こっか、せっきー!」
うこが小走りでこちらにやってくると、何の躊躇もすることなく千敦の手を掴む。
相手がうことはいってもやはり女の子なので、千敦の心臓は突然の出来事に一気に心拍数が上がる。そして少しだけ頬の辺りが火照っているのを感じる。
「ここからだと、1番近いのって北校舎のやつ?」
「……左に曲がるとすぐにある」
「そんじゃそこだな」
意味の分からないまま話はどんどん進んでいき、千敦はうこに引っ張られるままに歩き出す。廊下の角を曲がると、すぐに横にある女子トイレに連れて行かれた。
「ちょっと待て!」
入りたいと今まで一度も思わなかったわけじゃないが、女子に連れられて入るのは何かが違う気がして、千敦は慌てて立ち止まる。
「うおぉっ! いきなり止まると危ないよぉ、せっきー!」
うこが自分の方に勢い良く振り返る。
「いやいやいやいや、ここに男連れて入るのおかしいでしょ!」
自分は正論を言っていると思う。
どういう理由があるのかは知らないが、いかがわしい理由以外で女の子と一緒に女子トイレに入るのはごめんだ。
「さっさと入れよ、バカ」
という言葉の後に千敦は朱梨にケツを蹴り飛ばされた。
その勢いで、あくまで不可抗力で、自分の意志とは全く関係なく、千敦は女子トイレに足を踏み入れてしまった。
入ってすぐ千敦は辺りを見回した。
それからこっそり匂いを嗅いでみたが、別にバラの匂いとかフローラルの香りとかはしなかった。でも臭くなかったことに密かに安堵した。とりあえず全体がピンク色に塗り変えられているのと、個室の数が半数を占めているだけで、特に男子便所と変らない。
なぜかちょっと残念な気分になった。
そんなとき誰がこいつと一緒に入るんだよ。さすがにこの人数は無理だろ。と朱梨のやや狼狽気味な声が聞こえてきた。
その言葉に何気なく千敦は朱梨の方に顔を向ける。
目が合うと、朱梨は慌てて沙夜子の背中に移動して身を隠す。背が小さいのでその体は綺麗に収まってしまう。
だから萌えるようなことすんなよ! と心の底から言いたくなった。でも言えなかった。
「ならうちが入る!」
と当然のようにうこ手を上げる。
「は、入るってこの個室の中にか?!」
「決まってんじゃん。他に入るところある?」
「ないけどさ…………でもさすがにマズイいでしょ? 一応男と女なんだし。っていうか、中に入って何するっていうんだよ」
心の動揺からか千敦の声が僅かに上擦る。
「うーんと、なんて言えばいいのかなぁ? いやー、ちょっと楽しい所に行こうと思って」
ニヒヒと笑いながら楽しそうに口元を歪めるうこ。
楽しい所って、俗に言う天国ってやつですか? という言葉が喉元まで出かかったが、さすがにこれは表には出すことができずに飲み込んだ。そしてついでに生唾も飲み込む。
うこは茶髪だし明るくてノリが良い。人との距離が近くて、おまけに話すときも顔が近い。そういう子なので黒髪の朱梨や沙夜子に比べると、見た目も含めて少し軽そうに見える。
なのでもしかしたらという期待値も比例してその分大きい。
「とにかくバーっと行っちゃお!」
やけに上機嫌のうこは千敦の後ろに回り込むと、背中を押して奥の個室へと行こうとする。
「まぁ頑張れよ」
「…………気を付けて」
個室に入る直前に2人の方を見ると、朱梨は気まずそうに目線を横に逸らしていて、沙夜子に関しては無表情なので感情が読み取れない。
そうして2人に見送られて千敦は1番奥の個室に押し込まれた。




