第四幕-11
「死ぬなよ……祐美」
「死ぬわけないでしょ! だって私……」
祐美は切羽詰った顔つきで千敦を見つめるが、言葉はそれ以上続かなかった。
「今はいいや」
「はぁ?」
「でも……いつか絶対言うから、そのときはちゃんと聞いてよね」
「あぁ……分かったよ」
千敦の言葉に祐美は顔を上げると小さく笑う。その笑みは今まで見たことがないくらい、綺麗で大人で思わず見惚れてしまう程だった。
「それじゃ行ってくるね」
祐美はThorを軽々と肩に担ぐとフェンリルに向かって走っていく。
千敦は皆の無事を祈って今はただ見守ることしかできなかった。
「全員まとめて切り裂いてくれるわ!」
フェンリルが地を蹴る。
次の瞬間、あの大きい図体が掻き消え数秒後に梗の背後に出現する。
長い爪が梗を襲うが間一髪のところで体を捻って避ける。
「くらえぇぇぇぇ!」
そこにValkyriesで朱梨が突きを繰り返すが、またもフェンリルの姿が掻き消える。そして朱梨は鮮血を撒き散らしながら吹き飛ばされる。
「阿部先輩!!」
ここでトドメと、フェンリルは爪を振り下ろすが間に素早く莉穂が入り込み、爪をFreyrで受け止める。だが力負けして莉穂は激しく壁に叩きつけられる。
壁が割れて莉穂の顔が歪む。
「ぐっ! ま、まだまだ!」
莉穂はすぐに立ち上がって剣を構えながらフェンリルにつ突っ込んでいくが、フェンリルの姿が再び掻き消える。
今度は祐美の背後に出現し爪を振るう。
祐美はその小さな体を生かしてしゃがみ込むと、何とか一撃を間逃れた。
そこに梗が滑り込んできてTyrで突き刺そうとするが、突いたのはフェンリルの残像だった。
「山之内先輩、横です!」
祐美が叫ぶ。
一瞬のうちに梗の横に移動したフェンリルは爪で梗を振り下ろすが、それと同時に祐美のThorがフェンリルの顔面を襲う。
さすがに相打ちは好ましくないのか、一度後ろに大きく飛んだ。
だが、そこには沙夜子が待ち構えていてVidarで斬りかかるが、フェンリルは空中で体勢を変えてそれを避ける。
そして沙夜子の横に降り立つと、その細い腕を掴んで軽々と捻り上げた。
「……っ! くぁっ!」
苦痛に顔を歪ませる沙夜子。
「死ね」
と身動きが取れない沙夜子に対して爪を振り上げるフェンリル。
爪は体を貫いた。が、それは沙夜子の体ではなく、その身を呈して庇った朱梨だった。
朱梨は体を貫かれていたが、それでもその手はしっかりと長い爪を掴み血が爪の先端を伝って床へと落ちる。
「朱梨!」
「阿部先輩!」
沙夜子が、そして千敦が叫ぶ。
「……て、てめぇは、ちょっと……その場から動くな……」
朱梨は冷や汗を掻きながらもフェンリルの腕に抱きつく。
沙夜子はそれを補佐するようにその太く大きな腕に自分の腕を絡ませる。
千敦は無意識のうちに走り出していた。
梗がフェンリルの足にTyrを突き立て、莉穂はFreyrに火をつけながら走ってきたがもう一方の腕で薙ぎ払われる。
朱梨と沙夜子は大きく腕を振るわれて吹き飛ばされ、梗は蹴られて床を思い切り転がった。
千敦は走りながらOdinを構える。
フェンリルが千敦に襲い掛かる。
が、爪の一撃は間に割って入ってきた祐美のThorによって防がれていた。
「千敦は絶対に死なせない!」
ハンマーの部分を盾にして防いだが、さすがにもう一方の爪の攻撃は避けられない。
「祐美!」
千敦が叫ぶのとほぼ同時に、祐美はあっさりとThorを手放して後ろに飛んだ。
それを見て千敦は躊躇することなく、Odinを槍投げのように一直線に投げる。
「いっけえぇぇぇぇぇぇ!!」
Odinは真っ直ぐフェンリルに向かって飛んでいく。
本来なら喉元に突き刺さるばすだったが、少しだけずれてしまい突き刺さったのは左肩だった。それでも良いと千敦は走り出し、高く飛ぶとOdinを掴んでそのまま下に真っ直ぐ斬り下ろす。
間。
フェンリルの腕が体から外れ、そのまま無造作に床へと落ちる。
「うがあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
耳を刺すような咆哮を上げて苦しみに顔を歪めるフェンリル。
その目には激しい怒りと憎しみに染まっている。
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!」
歯を向き出しにしてフェンリルは威嚇すると、1番近くにいた千敦に襲い掛かってくる。けれども寸前のところでロキの飛び蹴りが入り、軽々とフェンリルが吹っ飛ばされる。
「……今回はお前の負けだ。っうことで引くぞ」
「ロキ様!」
「いいから引け。フェンリル」
背の大きさが5倍くらい違い、明らかに貧弱なそうなロキに対して、フェンリルは身を縮めて明らかに怯えている。軽々とフェンリルを吹き飛ばしたところからも、その実力は相当なものだということが分かる。




