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第四幕-6

 「阿部先輩……俺に任せてくれませんか?」

 

 フェンリルの動向を視界の端で気にしながら、千敦は朱梨の方に顔を向ける。

 

 「あ?」

 

 朱梨がものすごい形相で睨んでくる。正直言ってチビりそうなくらい怖い。

 

 「そんなに自信はないですけど……でも、本気でめっちゃ頑張りますから!」

 「バカ! 今頑張らないでいつ頑張んだよ」

 「ですよね……」

 

 あははと乾いた笑い声を漏らすと朱梨に舌打ちされた。

 千敦は一瞬怯んだが、自分に渇を入れると朱梨を真っ直ぐ見つめる。

 

 「でも俺、もう誰にも死んでほしくないんです! 死ぬところなんて二度と見たくない!」

 

 脳裏に愛が死ぬ場面。うこが死んだ場面が脳裏を過ぎる。

 気がつくと千敦は痛いくらい自分の拳を握っていた。

 

 「だから俺がみんなのことを守ります! もう絶対に誰も死なせない!!」

 

 この中の誰よりも経験が浅く、きっと誰よりも弱い。それでもこの想いは誰に何と言われようと決して揺るがない、千敦の固い決意だった。

 

 「死んだら終わりのお前が何言ってんだか……でもまぁ、その考え方は悪くねぇな」

 

 朱梨はそう言って千敦から顔を逸らすと、少しだけ後ろに下がってくれた。

 そのとき突然気のない拍手が廊下に響く。

 音のした方に顔を向けると、つまらなそうな顔をしたロキが投げやりに手を叩いていた。

 

 「青春ごっこは終わったか? いい加減待ちくたびれたんだけど。っうかバカワンコなんて待ちきれなくて寝ちまったよ」

 

 ロキは呆れたように笑いながら、足元で丸まっているフェンリルの頭に肘鉄を食らわす。

 痛みで飛び上がるフェンリル。

 

 「何するんですか、ロキ様!」

 「お話終わったってよ」

 「そうなんですか? ふぁぁぁ、あまりに長かったのでつい眠っちゃいましたよぉ」

 

 照れくさそうに笑うフェンリル。幼さの残る少女の笑みは見ていてどこか微笑ましい。

 でも千敦はフェンリルに向けてオーディンを構える。

 

 「ごめんね、可愛い幼女ちゃん。君には何の恨みもないけど……必ずここで倒す!」

 

 その言葉にフェンリルは嬉しそうに嗤う。 

 

 「殺せるものなら私のこと殺してくださいよ、お兄さん」

 

 フェンリルは満面の笑みを浮かべたまま両手を軽く振るう。すると一瞬にして30センチ程爪が伸びた。

 

 「私が前に出る。関岡と松任谷は左右に散れ」

 

 そう言うが早いか莉穂がフェンリルに斬りかかり、千敦と祐美は左右から挟み撃ちの形で回り込む。

 が、フェンリルは左手でFreyrを弾き、右手で千敦のOdinの柄の部分を掴んで止め、祐美のThor(トール)から繰り出される重い一撃をしゃがんでかわす。


 「遅いですよ」

 「っ!」


 フェンリルはお返しとばかりに、立ち上がるのと一緒に祐美に向かって爪を突き上げる。武器の特性上、どうしても攻撃の回避が他の子達より遅くなりがちの祐美だが、そこは上手く莉穂がフォローに入って爪を止めていた。


 祐美のThorは大きな金槌というかハンマーだった。

 でもその槌部分はかなり大きくて、祐美の小さな体の半分くらいあり、初めて戦っている姿を見たときは振り回せているのが不思議でならなかった。


 ともかく大きなハンマーなので、攻撃力は高いがその分どうしても動作が大きくなってしまい、回避行動などが当然他の子達より劣ってしまう。

 ただそれが自分のウィークポイントなのは祐美自身も気づいている。だから攻撃するとき振り切らずに途中で止めたり、逆に思い切り振り回してその勢いに乗って攻撃を避けるなど色々と試行錯誤しているようだった。

 

 「大丈夫か、松任谷」

 「はい。私なら全然平気です」

 

 莉穂の問いに祐美は軽く笑みを浮かべる。どうやらまだ余裕が残っているらしい。

 

 「前に戦った人達よりも全然強いですね、皆さん!」

 

 本当に嬉しそうにフェンリルは笑う。

 それから不意打ち気味に莉穂に向かって手を伸ばす。莉穂はそれを冷静に捌くが、剣などと違って爪は捌き難いようでやや苦戦気味だった。


 祐美もThorは基本一点集中狙いなので、素早く動く相手は苦手らしい。

 フェンリルは長い爪と己のスピートを生かして、素早く辺りを移動しながら四方八方から攻撃をしてくる。

 

 「楽しいですね、お兄さん!」

 「俺は全然楽しくないっ!」

 

 千敦はというと、攻撃を防ぐので精一杯だった。

 それでもリーチが長いので全ては防ぎきれず、腕や腿はいつの間にか制服が裂けていて血で滲んでいる。


 莉穂達が前回全滅しかけた敵、というだけあってトロールとは比べ物にならないほど強い。攻撃を防ぐのがやっとでなかなか反撃に移れないし、朱梨達も援護に入りたいようだがフェンリルが素早く動き回るため機会を伺うしかない。

 

 「どうしちゃったんですか、皆さん。攻撃してきていいんですよ?」


 フェンリルの言葉は完全に防戦一方の千敦達へ向けた、嫌味で皮肉で挑発だった。完全にペースをあちらに持っていかれている。

 

 「くそぉ! あのクソ犬、なめくさりやがって!」

 

 朱梨が後方で声を荒げる。

 だが口に出さないだけで気持ちはみんな朱梨と同じだと思う。せめて1発。できれば大きいのを1発入れて吹っ飛ばしたい。

 

 そのためにはまず足止めするのが必須条件だった。あとは何か仕掛けがほしい。足止めしただけじゃきっと避けられる。何か策はないかと戦いながらも必死で頭を回転させる。

 

 だが最初の頃は防御だけで手一杯だったが、相手の動きに関しては目が慣れてきたのか、千敦は段々と相手の動きが分かるようになってきた。 

 そのとき不意に千敦の鈍い頭が珍しく閃いた。

 

 我ながら悪くはない案だと思うが、色々と欠点がある。まずは1回しか使えないこと。つまりチャンスも1回しかない。そして実行するには千敦とぴったり息が合うことが、最も重要なことだった。

 

 だから相手に祐美を選んだ。

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