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第四幕‐4

 「……火魅か」

 

 足を止めた莉穂が子どもを見つめて呟く。その顔はどこか落胆していて、トーンの落ちた声は寂しげだった。肉眼で見たら一目瞭然で、姿は違えどあれは間違いなく室木火魅だった。


 莉穂がゆっくりと火魅に向かって歩き出す。

 火魅は楽しそうに口元を歪めてこちらを見つめている。2人のちょうど真ん中くらいの場所にあるニダベの前で立ち止まると、莉穂は胸ポケットからカードを取り出し赤い丸の上に置く。


 すぐに剣の塚が出てきて、莉穂それを掴んで引き抜くと間髪入れずに火魅の元に走り出す。塚を逆手の状態で持ちながら走り、剣の先端で勢い良く廊下の床を擦る。

 

 それはマッチに火をつける動作そのもので、突然剣が発火したように燃えた。莉穂のFreyr(フレイ)は現在炎によって金色に輝いている。

 莉穂は反動をつけて剣を1回転させると、塚を両手で握り直す。そのまま火魅目がけて突進した。


 前回は手のひらや指1本で止めていたが、さすがに燃えている状態ではできないのか火魅は莉穂の突きを体を横にして軽く流す。

 莉穂はすぐさま体を反転させる火魅に切りかかるが、火魅は不敵に笑うと自分の右手を発火させてFreyrを直接掴む。

 

 どうやら指輪がなくても火は出せるらしい。でも前は赤やオレンジ色が混じっていた炎だったのに、今は血が変色したように赤黒くて少し不気味な色をした炎だった。

 

 睨み合う2人。

 けれども火魅は相変わらず楽しそうな顔をしている。

 

 「おいおい、いきなり本気モードかよ」

 「……お前は痛みを知らない。だから他人の傷を見て笑えるんだ!」

 「それ、確かロミジュリだっけ?」

 

 莉穂は火魅の質問には答えず、剣を思い切り押し付けその反動で少しだけ後ろに飛ぶ。それから素早く逆手に持ち替えると、剣を腰の辺りに携える。

 

 「お前は私が斬る、そう言ったはずだ」

 

 それは一切迷いのない声だった。

 

 「そういやそんなこと言ってたね。でも今はちょっとお話しない?」

 「断る!」

 

 そう言うが早いか莉穂は居合い斬りのようにしてFreyrで斬りつける。一瞬捉えた、ように思えたが、その火魅は残像ですぐに掻き消えた。

 

 「せめて自己紹介くらいさせてくんない?」

 

 と呑気な台詞が聞こえてきて、千敦と莉穂が顔を後ろに向けると、音楽室の前で火魅はその真っ赤な髪を搔きながら苦笑していた。先程いた場所から少し距離があるにも関わらず、どうやらあそこまで一瞬にして飛んだらしい。

 

 「千敦!」

 「佐渡ヶ谷先輩、無事っスか!」

 

 突然後ろから声が聞こえてきた。千敦が振り向くと祐美、朱梨、沙夜子がこちらに向かって走ってくるところだった。そのとき無意識にうこの姿を探してしまい、胸が思い切り締めつけられて苦しくなったが、逆に戦いから開放されたんだとプラスに考えるようにした。

 

 うこはもう戦わなくていいんだ。その分、俺が戦ってやる! と千敦は決意を胸に火魅を見据える。

 

 「さてと……全員揃ったことだし。自己紹介しようかな」

 

 火魅は全員の顔を見回すと、左足を後ろに下げ右手を胸に置く。

 

「初めまして。私はニヴルヘイムの王ヘルの側近、ロキ。以後、お見知りおきを」


 そう言ってうやうやしく頭を下げる。数秒経ってからゆっくりと顔を上げると口端を上げて笑った、その皮肉めいた顔はやはり火魅を思い起こさせる。


 「火魅。それがお前の本当の姿なのか」

 「だからロキだっつうの! あと別にこれは本当の姿じゃないよ。本当の姿は色々とグロいからさ、ヘーちゃんが怖がるんで会議の結果これになっただけ」


 ロキは手のひらをこちらに見せると困ったように笑う。


 「へ、へーちゃん?」


 千敦が聞き慣れない名前に首を傾げていると、ヘル様って呼ばなきゃダメですよぉ。と何だか気弱な声がどこからか聞こえてくる。

 千敦達が辺りを見回していると、ロキのいるすぐ傍の床に波紋が広まり、ゆっくりと何かが出てくる。


 それは明らかに千敦達にとって有益なものではない。当然莉穂もそう思ったらしく、慌てて波紋に駆け寄ったが素早くロキに間に入られてしまう。

 

 「仲間を呼んだのか、火魅!」

 

 莉穂はFreyrでロキに斬りつけるが、またも赤黒く燃えた手で剣を掴まれてしまう。それから莉穂ごと思い切り投げ飛ばす。

 体勢を多少崩したものの、廊下を滑りながらFreyrで自分の体を支えていた。


 「だ・か・らー! ってもうどっちでもいいや。莉穂ちゃんさ、何か勘違いしてるみたいだから言っとくけど……今日戦う相手は俺じゃなくて、こいつだから」


 ロキは催促するように波紋の広がる床を足で数回叩く。


 「来んのが遅いぞ、バカワンコ!」


 その叫びに答えるように突然白い犬のような耳が床に生え、次に現れたのは土偶みたいな顔をしたトロールではなく、良い意味で予想を裏切り可愛らしい女の子の顔だった。


 その後小さな白い手が出てきたかと思うと、その手は床を掴んでまるでプールサイドに上がるみたいに、一気に体を持ち上げ小さな女の子が廊下に姿を現した。


 「バカワンコじゃありません。ちゃんとフェンリルって呼んでくださいよぉ、ロキ様」


 見た目はロキと同じく小学校低学年くらい。服装も白黒でフォーマルな感じなのは一緒だが、ロキのようにラフな着こなしではなく、ボタンもしっかりと止めて首元のリボンはきつそうなくらいキツく結わきつけられている。


 クセっ毛なのか毛先が四方に伸びた灰色の髪と、頭の真上に犬のような白い耳が生えているのが特徴的な、とても可愛らしい顔立ちをした女の子だった。

 だが人見知りなのか、どこか怯えた顔つきで千敦達の方を見つめている。


 「初めて会う奴もいることだし、自己紹介くらいしてやれよ」

 「あー、はい! え、えっと、あの……わ、わ、我はニヴルヘイムの王ヘルの忠実なる僕、フェンリル、です……よろしくお願いします!」


 女の子は言い終わると礼儀正しく深々と頭を下げる。敵とは思えない程、というか親目線で心配になってしまう程、すごくおどおどした女の子だった。


 「大丈夫なのかなぁ、あの子」


 千敦は呆れたように苦笑していたが、ふと横目で盗み見た莉穂の顔は顔面蒼白。とまではいかないが瞳孔がやや開き気味で、かなり動揺しているのは間違いなかった。


 「どうかしたんですか? 副部長」

 「関岡、早く武器を出せ! あとは全員武器を構えろ!」


 莉穂が怒鳴るように大きな声で叫ぶ。そんな風に声を荒げるところを初めてみた。とにかく尋常ではない雰囲気だったので、千敦は急いでニダベに駆け寄りOdin(オーディン)を取り出す。


 祐美達はここに来る前にどこかで武器を取り出していたらしく、来たときから武器を手にしていて今はそれぞれ臨戦態勢で構えている。どう見ても弱そうなのに、と思いながら千敦はフェンリルの方を見る。


 すると目が合った。

 途端にフェンリルの思い切り肩が上がり、すぐさまロキの後ろに隠れてしまう。でも肩の辺りから僅かに顔を覗かせて、少しだけ睨むような顔をしてこちらを見つめてくる。

 

思わず変な感情が沸き起こりそうだった。一応今のところはそういう趣味はない。

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