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第四幕‐3

「そうか……高城らしいな」


 放課後、千敦がヴァルに行くと全員集合していたので今朝のうこの様子を話すと、みんな本当に嬉しそうだった。沙夜子と染谷先生は穏やかに微笑んでいて、かすみと祐美は歯を見せて笑っている。


 そして莉穂の目は特に優しい。

 それはとても優しい色をしているけれど、やはりその中にある悲しみの色は隠せない。特別な人を失った悲しみはそう簡単に癒せない。ということなのだろうか。

 

 千敦にはよく分からなかない。だから言葉もなくそっと拳を握ると、莉穂を見つめることしかできなかった。

 でも基本みんなが笑っている中、朱梨は瞳を潤ませて今にも泣きそうになっていた。

 

 「……阿部先輩って本当に顔に似合わず涙もろいですよね」

 

 と何気なく千敦がそう口にした瞬間、瞳を潤ませた朱梨が早足にこちらにやってきて、躊躇することなく右足の脛辺りにトゥーキックしてくる。


 「痛ってぇぇぇぇ!」


 さすが何とかの泣き所。あまりの痛さにすぐさま千敦は床にしゃがみ込む。


 「お前……ふざけたこと言ったから蹴ったぞ」


 朱梨の鋭い眼光が千敦を見下す。


 間。


 「…………わざわざ過去形にして頂いて、あーざす!」


 朱梨は何も言わずに自分の拳に息を吹きかけると、千敦の頭目がけて振り下ろそうとしたが、直前のところでその辺にしておけ、阿部。と莉穂が止めてくれた。 

 胸を撫で下ろす千敦。

 けれどその微笑ましい日常は刹那で、あの耳障りな警報音が突然部屋に鳴り響く。


 テレビ画面の一部が赤く染まる。

 みんなが見つめるその画面には、テレビに映りたい野次馬のようにカメラ目線で笑いながらこちらに手を振る、見知らぬ子どもが1人。


 結婚式にでも出掛けるみたいにお洒落な黒のジャケットを羽織り、白いシャツに白と黒のチェックのネクタイを緩めにつけ、下は同じく白黒のチェックのハーフパンツ姿だった。

 

 「……火魅」

 

 そう莉穂が呟いたのを千敦は聞き逃さなかった。

 少年とも少女ともつかない中世的な顔立ちと、燃えるような真っ赤な短髪は、確かに火魅を連想させる。


 けれどもその子どもは小学校低学年くらいで、火魅とは多分10近く年が違う。でも千敦も火魅だと思った。

 子どもがいるのは2階の南校舎。音楽室の近くの廊下だった。

 

 莉穂が走り出す。

 染谷の制止も虚しく、莉穂の足はエレベータの方へ一直線に向かう。飛び込むようにエレベーターホールに入ると、ボタンを押してすぐに中へと乗り込んだ。

 

 中のボタンを押す。

 ドアが閉まる。

 けれどエレベーターは動き出さない。

 

 「……だろうな」

 

 莉穂は小さな溜め息を吐くと天井を見上げて苦笑する。

 

 「止められてるんですか?」

 「あぁ」

 

 エレベーターはあの司令室みたいな所でかすみが行き場所などを操作しているため、こちらからはドアの開閉くらいしかできない。

 莉穂の視線が天井から千敦に移る。

 

 「関岡、どうして一緒に来た」

 「……いやぁ、それが自分でもよく分からないんですよね。気がついたら副部長のこと追ってたって感じで」

 「そうか。だが私の足に追いつくなんて大した奴だ」

 「足の速さにはちょっと自信があるんで」

 

 千敦はわざらしくあははと笑う。

 

 間。

 

 「私は……火魅を斬る」

 

 その声には全く揺るぎが感じられなかった。

 決心は固く、きっと迷いなく莉穂は火魅を斬るのだろうなと思った。

 

 「佐渡ヶ谷先輩が決めたことなら、きっとそれが正しいことだと思います」

 「そうか」   

 

 莉穂が小さく笑う。

 そのとき突然エレベーターが大きく揺れる。

 

 「どうやらお許しが出たようだ」

 「みたいですね」

 

 千敦がそう言った途端、いつものようにエレベーターは一気に急上昇した。

 女子トイレからから出ると2人はすぐに音楽室に向かった。途中莉穂が走りながら壁にグレープをつける。

 

 その見事な手際に感動しつつ、千敦はその後ろを走る。

 火魅らしき子どもはまだあそこにいるだろうか。居てほしいよな居てほしくないような、正反対の気持ちが千敦の中でせめぎ合う。

 

 廊下の角を曲がる。音楽室の入り口が少し遠くに見えてくる。

 部屋の前に1人の子どもがいた。

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