第三幕‐12
そのまましばらく校内を走り回った。
どこをどう走ったのかなんて全く覚えていない。ただ息はひどく荒れていたし、足の裏が疲労からか微かに痛む。それでも止まれなかった。止まったら泣いてしまいそうだった。
そんなとき千敦は廊下の角でまた誰かとぶつかった。
ただ、今回はその反動で体が吹っ飛ばされて強制的に足を止める。
顔を上げると須藤が驚いた顔して突っ立っていた。
千敦は相手が女の子じゃないことに安心したが、安心するのもまた微妙な気がして苦笑した。
「……千敦かよ。たっく、廊下は走るなって先生に教わらなかったのか?」
須藤は呆れたように深い溜め息を吐く。
「それな。すっかり忘れてたわ」
「お前なぁ」
須藤は完全に呆れていた。
千敦は静かに長く息を吐き出す。
その息は微かに震えていて、おまけに少しだけ熱を持っていた。
間。
「なぁ須藤。お前さ、もしも自分の大切な人が死んだらどうする?」
「えっ? そりゃ泣くだろ、普通」
「それじゃ友達が死んだら?」
「それでも泣くな」
「じゃぁ…………俺が死んだら、お前泣くか?」
「泣くよ」
またも千敦の胸に熱い何かが込み上げてくる。
今度は堪えられそうになかった。
「……そうか」
震える声でそう呟くと、千敦は頼りない足取りで須藤の目の前まで向かう。それからその厚い胸板に頭をつける。
「ちょっとでいいからさ……お前の胸貸せや」
「あぁ」
須藤は何もかも分かっているかのように、特に驚きの声を上げることはなかった。
千敦は須藤に胸を借りて泣いた。
子どものように声を上げて泣いた。
こんなに泣いたのは、多分10年ぶりくらいだった。
須藤は千敦の頭に手を置いたまま、しばらくの間何も言わなかった。




