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第三幕‐10

 「死んで……るんだよな?」


 震える声にゆっくりと顔を上げると、涙を流している朱梨がすぐ目の前にいた。祐美は床にしゃがみ込み口に手を当てて嗚咽を漏らしている。


 千敦ははい、と言いたかったが、答えたくなかった。答えてしまったらうこの死を認めてしまう、それがとてつもなく怖かった。

 でも誰が見たってうこは死んでいる。


 「くそっ!」


 莉穂が火魅が沈んでいった、今はもう何もない床を拳で殴る。


 「なんで……なんで……なぜ高城を…………どうしてこの子なんだ!!」


 震える声で叫びながら何度も何度も床を殴る。

 莉穂の目から自然と涙がこぼれ、皮が剥けたのか拳は赤く染まっていた。もう何度目か分からない、床を殴ろうと莉穂は高く腕を振り上げる。だがその手は床を殴ることは出来ず、腕を掴まれたため空中で止まっていた。


 「もうやめてください、副部長……それ以上は本当に手を傷めます」


 静かな声で莉穂を諭す沙夜子。

 けれどその声は届いていないのか、莉穂は床を殴ろうと強引に下に降ろそうとする。


 「佐渡ヶ谷先輩!」


 沙夜子が声を荒げるのを千敦は初めて聞いた。

 ようやく声が届いたのか、ふと腕の力が抜けて莉穂の手が床に投げ出される。でもその目は焦点が合っていない。光のない瞳でずっと高城とその名を呟いていた。


 沙夜子は深い溜め息を吐き出すと、間髪入れずに莉穂に平手打ちをする。


 「勝野先輩!?」


 予想外の展開に千敦は思わず声を上げた。

 沙夜子は膝を曲げて莉穂としっかりと目線を合わす。そしてその瞳を真っ直ぐ見つめる。


 「しっかりしてください!……高城はこんな情けない佐渡ヶ谷先輩なんて、絶対に見たくないと思います」


 莉穂は何も言い返さなかった。

 重い沈黙が圧し掛かるように一同の元に訪れる。

 が、沙夜子の言葉は莉穂のしっかりと胸に届いたらしく、少しずつその瞳に光が戻ってくる。


 「…………すまない……いや、助かったよ。勝野」

 

 完全にその目に光を取り戻した莉穂をしっかりと立ち上がると、うこの亡骸に集う千敦達を見つめる。でも千敦にはやはりうこだけを見つめているように思えた。

 莉穂は悲しそうに目を細めたが、すぐにポケットからギャルを取り出すとヴァルにいる染谷に連絡を入れた。

 

 「染谷先生……現状はそちらで見て頂いた通りです」

 

 莉穂の声は既に冷静さを取り戻していた。

 

 『申し訳ありません。私の采配ミスです。あのとき佐渡ヶ谷さんではなく、高城さんを応援に行かせるべきでした』

 「いえ、全ては私の実力不足と甘さが招いた結果です」

 『……佐渡ヶ谷とさん、そして皆さんも、あまり自分を責めないで下さい』


 染谷の声はとても優しかったが悲痛の色は隠せていなかった。


 『とにかく高城さんの遺体は保健室へ。佐渡ヶ谷さんは一旦ヴァルハラに帰還。そして申し訳ないのですが、後の皆さんで現場の後処理をお願いします』

 「了解しました。皆に伝えておきます」


 そう言って莉穂は会話は終了させると、千敦達に指示を出した。


 「関岡。高城を保健室まで連れて行ってもらえるか? 中でかすみ先生が待っているだろうから後は任せて構わない」

 「分かりました」


 千敦はうこを一瞥した後でしっかりと頷いた。


 「私は一度ヴァルハラに戻る。だから申し訳ないんだが、残りの3人でここの後処理をお願いできるか?」

 「はい、分かりました」


 祐美も朱梨も泣き腫らして答えられる状態ではなかったので、代表して沙夜子が答えた。


 「それじゃ頼んだぞ」


 そう言って莉穂は千敦の達に背を向けて歩いていく。その背筋はしっかりと伸びていて、その堂々とした立ち姿は見惚れるほど綺麗だった。


 「……関岡君。高城さんのことよろしくお願いします」


 莉穂の後姿をしっかりと見届けた後、沙夜子は千敦に向かって深々と頭を下げる。


 「はい」


 千敦も大きく頷いて返すと、3人に手伝ってもらってうこを背負わせてもらった。


 「武器は預かっておくわ。後でカードにして返すから」

 「了解です。それじゃまた後で」


 千敦は軽く会釈すると、うこを背負いながら保健室へと向かった。

 不幸中の幸いというべきなのか、ここから保健室へはそう距離はなく、おまけに下校の時刻が近いからか辺りに人気はない。


 うこが怪我しているのは傍から見ればすぐ分かることなので、千敦は誰にも見られないように早足で廊下を進む。すぐに保健室が見えてきた。

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