第三幕‐4
「……火魅。お前も少しは戦いに参加しろ。愛がいなくなって戦力的に厳しくなったのは、お前もよく分かってるだろ?」
「あぁ、よーく分かってる」
話半分で適当に返事をする火魅。
「火魅!」
「いつも通り気が向いたら参加するよ」
「おい!」
振り向きもせず手だけ軽く振りながら、火魅とうこはエレベーターの方に行ってしまう。
「相変わらずですね、あの人」
2人の姿が見えなくなると、ヴァルに残っていた朱梨が呆れたような口調で呟いた。
「私はちょっと苦手です……室木先輩って」
と祐美もどことなく気まずそうな顔をしている。
やはり一匹狼で気まぐれな火魅のことを快く思っていない人は多い。朱梨もその1人なのだが、体育会系の朱梨にと不良でチャラい火魅が合わないのは当然とも言える。
「本当に勿体ないよ、あいつは。ちゃんとやれば全然できる奴なんだから」
火魅達が出て行ったドアを見つめながら呟いた莉穂の声は、どことなく寂しさと遣る瀬無さを含んでいた。
でも意外にも火魅はそれから戦いに参加するようになった。
と言っても本当に気まぐれなので、大体3回に1回くらいの割合なのだが、今まで全く協力してくれなかったことを思うと大した進歩だった。千敦は火魅が戦いに参加するようになったことにも驚いたが、その強さにも驚いた。
「ほらよ」
火魅が軽く手を振るうと、人体発火のように数体のトロールが燃え出して、そのまま泥が溶けるように廊下の床に崩れ去っていく。
初めて見る技ではないのだが、何度見ても鮮やかな手際で感動すら覚えてしまう。
「きゃぁぁぁぁ! ロッキー先輩カッコいい!!」
うこが黄色い悲鳴を上げる。
「本当にすごいっスよね、その技? っていうか室木先輩の武器」
「武器がすごいっていうか、ただ単に俺の実力がすごいだけだから」
火魅は己の武器である指輪―Andvarinautに軽く口付けると、口端を釣り上げながら笑う。大抵の男が同じことをやったら殴られそうなものだが、美形な火魅がやると妙に様になるというか、何だか納得してしまう。
そんな火魅にうこが嬉しそうに抱きつきにいき、火魅は仕方ないと感じで頭を軽く撫でてやる。
「ほら、次のところ行くぞ!」
莉穂が急に少し苛立った声を上げる。
3人だとついふざけてしまうのだが、真面目な莉穂がいることによって場に締りがあって助かっている。やっぱり女の子は締りが大切だから。
「そんなに怒ってばっかりだとしわが増えるよ、莉穂ちゃん」
「まだ皺がある年ではない!……全く、お前はもう少し脳みそに皺を増やせ」
「えー、学年3位様に向かってそんなこと言っちゃう?」
「が、学力ではなく常識や礼儀を知れということだ!」
楽しそうに莉穂をからかう火魅と、不機嫌そうだが気兼ねなく会話している様子の莉穂。なかなか良いコンビだと千敦は思う。
だが不意に、ここに愛が加わったらどんな感じだったんだろう。と考えてしまい、途端に千敦の胸は締めつけられて苦しくなる。せめて1年早く生まれていたら、3人が笑い合う姿が見られたのかもしれない。
でも千敦はまだ16才で、そのとき少しだけ自分の年を恨んだ。
「えへへ、お2人は本当に仲良しさんですよね!」
能天気な笑みを浮かべながら、莉穂と火魅の会話に普通に横入りするうこ。
「こいつ本当にバカだよな」
「うっ!……悲しいかなそれは私も否定することはできない」
どこか憐れむような瞳でうこを見つめる2人。
当のうこはバカじゃないし! と言って頬を膨らませて拗ねている。絶対バカだった。
「でも何かと面白いからこいつのことは嫌いじゃないけどね」
火魅はうこの肩に手を回して得意げに笑う。
するとうこは黄色い悲鳴を上げながら火魅に抱きつく。そのままどこかへ歩いていく2人。その姿はホテル街に向かうラブラブなカップルというよりかは、愛犬を散歩させている飼い主にしか見えなかった。




