第三幕‐3
「ロッキー先輩、めっちゃ久しぶりですね!」
うこは本当に嬉しそうだった。
元々うこは人懐っこい性格だが、火魅には特に懐いている。何でも火魅に憧れを抱いているのだと、前に誰かから聞いたことがある。
「そういえばそうだなぁ」
「どこで何してたんですが?」
「まぁ色々と」
「色々って何ですか?」
「色々は色々だよ。うーん、しいて言うなら……地下でちょっと悪いことしてたかな」
火魅は意味ありげに笑う。
「うえぇぇぇぇぇ! も、もしかして地下にあるハコとか個室のVIPルームで、超危ない薬を吸ったり変なことしてるんですか?」
などと至って平然と聞くうこだったが、言ってることはかなりの過激派だった。
なかなかぶちこんでくるなぁ、と千敦が内心動揺していたが、火魅は全く気にしていないらしく平然と笑い飛ばす。
「そういうのは興味ないよ。っていうか、それよりもっと悪いことしてたし」
「えっ? えっ? どんなことですか? めっちゃ気になる!」
興味深々に聞くうこ。
そこは興味を持ってきくべきじゃないと思う。
「それは……秘密」
火魅は口に人差し指を当てると、口端を軽く上げて不敵に笑う。
その顔は悔しいくらいイケメンだった。
若干千敦が凹んでいると、それにしてもお前が戦いに参加するなんて本当に意外だよ。と突然火魅に声をかけられた。
「ですよね。だって女の子しか終末の聖少女達にはなれないんですもんね」
「だから最高に面白いよ、お前」
火魅は言葉の通りに本当に面白かったのか腹を抱えて笑いだす。でも不意に笑うのをやめると、目を細めて千敦の顔の下の辺りを見つめる。
「そういえばさ、お前首は大丈夫だった?」
「へっ? 何のことですか?」
千敦は何のことだか全く分からなくて小首を傾げる。
「いやさ、愛が死んだときあったじゃん。あのとき首にチョップしたの、俺なんだよね」
一瞬何を言ってるのか理解できなかったが、すぐにあぁ、あれのことか!と思い出した。愛が死んだとき突然頚椎の辺りに強い衝撃を受けて、それで千敦は意識を失った。どうやらそれをやったのが火魅という話らしい。
少し前のことなのにちゃんと心配してくれるなんて、意外と優しい一面もあるんだなぁと、千敦は思わず火魅をまじまじと見つめてしまう。
「いやー、あんとき全然手加減してなかったからさ。最初死んだかと思ってマジ焦ったよ」
優しさは幻だった。
「ロッキー先輩はヴァルに戻るんですか?」
「いや、俺は帰るよ。なんか面倒くさそうだし」
うこを体から引き剥がすと、火魅は背を向けてどこかに行こうとする。
そんなとき千敦のポケットが震えた。取り出してギャルを見ると、千敦は苦笑しながら火魅を引き止めた。
「ん? どうした?」
後ろに振り返った火魅に、千敦は何も言わずにギャルの画面を見せる。
間。
火魅は露骨に顔を顰める。
「しゃあない……久しぶりに顔出すか」
千敦のギャルには室木を連れて来い。とそう一言だけ書いてあった。
「あーあ、面倒くさ」
火魅は何だかんだぼやいていたが、嬉しそうなうこに手を引かれて結局3人でヴァルへと戻ることとなった。でもどう見ても、リア充カップルとその友達Aみたいな図だった。
けれどヴァルに戻ったリア充2人にを待ち受けていたのは、莉穂による公開説教だった。千敦は内心ちょっと喜んでしまった。
「たまに顔を出せといつも言ってるだろ、火魅」
「はいはい」
「はいは1回でいい」
「へいへい」
「……全くお前は」
火魅は全く聞く耳待たずという感じで、完全にお説教を右から左へと聞き流している。それでも3年同士で付き合いが長いからか、飄々としている火魅に対して莉穂は慣れているのか普通に接している。
「まぁいい。どうせお前は人の話を聞かない奴だからな」
莉穂は呆れたように深い溜め息を吐く。
「さっすが莉穂ちゃん。分かってるねぇ」
一方の火魅は楽しいそうに笑いながら、肩に手を回して莉穂を抱き寄せる。
2人とも女子にしては結構長身で、かつ互いに美形というもあってなかなか様になる絵面だった。だが莉穂は眉を顰めると、火魅の手を乱暴に払ってと少し距離を取る。
「ちゃん付けはするなといつも言っているだろ、気色が悪い」
そう言いながら全く悪びれた様子のない火魅を軽く睨む。
「あーあ、振られちゃった。残念」
莉穂の様子を大して気にすることもなく、火魅は肩をすくめながら鼻で笑う。
「っていうか説教が終わったんなら帰ってもいい?」
と言葉を続けると、それなら一緒に帰りましょうよ! と言ってうこが駆け寄ってくる。そして目を輝かせながら火魅を見つめる。
一瞬鬱陶しそうな顔をしたが、ふと何かを思い立ついたように口元を歪めると、火魅はなぜか莉穂を見つめながらうこの腰に手を回す。
それを一瞥するとなぜだか悲しそうに顔を歪める莉穂。
よく分からないが複雑な関係そうだった。




