第三幕‐2
すぐさま画面を見ると、一部分が赤く点滅している。そこはさっき千敦達が戦っていた場所だった。また新しいのが出てきたのか、もしくは見落としていたのかもしれない。
現在染谷先生はかすみと莉穂を引き連れて会議に行ってしまい、この場にはいない。沙夜子は家の都合で今日は早めに帰宅してしまった。
指示するものがいないので一瞬間ができたが、千敦はすぐさま我に返る。それから俺が行ってきます! と言うなりエレベーターに向かって走り出した。
「ち、千敦?!」
戸惑いの声を上げる祐美。
「ならうちも一緒に行くよ!」
と一応教育係だからなのか、うこが後ろからついてきてくれた。
そうして2人で現地へと向かった。
女子トイレを出ると廊下を走りながらトロールを探す。
とりあえず目視できるところにはいなかったので、千敦は尻ポケットからカードを取り出すと、たまたま近くにあった消火器版の神々の武器屋の上に置く。
「あらよっと」
そうして慣れた手つきで武器を取り出すと、槍を肩に担ぐと同時にカードをしまって廊下を走る。
ちなみにこの槍のOdinだが、戦闘が終わってから消火器や消火栓の上に置くとまたカードの中に戻っていく、というとても利便性の高い構造をしている。
千敦が廊下の角を曲がると、少し先にトロールの姿を発見した。
今のところこちらには気づいていないようだ。
うこはグレープをしているのか距離が少し開いてしまった。でも見たところ1匹しかいないし、1人でもいけるだろうと思い、千敦はトロールに向かって武器を構えたまま走る。
近くまで接近すると、トロールが千敦に気づいたのか体を反転させる。けれども体を正面に向けると同時に、トロールの胸を千敦のオーディンが貫いていた。
トロールは声にならない叫びを上げてそのまま廊下に崩れ去って消える。
「よし! 1匹くらいなら何とか1人でもいけそうだな」
千敦は深く息を吐き出すとオーディンを肩にかける。
でもその瞬間、何だか嫌な予感がして千敦は反射的に後ろに振り返る。するとどこかに隠れていたのか、千敦の真後ろにもう1匹トロールがいた。
「うおっ!」
千敦は慌ててその場を飛び退きながら武器を構えたが、攻撃する前にトロールは突然発火して体が崩れていく。そしていつものように廊下の床に消え去った。
「……おいおい。今後ろがガラ空きだったぞ。そんなんで大丈夫か?」
それは人を挑発するような、というか小馬鹿にするような物言いだった。
普通なら少し頭にくる言い方なのかもしれないが、千敦は予想外の人物の登場による驚きのほうが大きかった。
崩れ去ったトロールの後ろには、片手に赤とオレンジが混じったような炎を灯した1人のイケメンが立っていた。
長い肢体にやや細身の体系。短い髪は赤茶色に染められ、ワックスを使って整えたかのように無造作ヘアーが決まっている。顔も中性的で妖しい魅力を放っていて、芸能人だと言われれば納得してしまうほど端正な顔立ちだった。
「……む、室木先輩」
千敦の後ろにいたのは3年の室木火魅先輩だった。
部活にもあまり出なければ、この戦闘にもあまり参加しない。というかそもそも授業もあまり出ない人だと、風の噂だが聞いたことがある。
「もう少し周り見て戦わないと、簡単にゲームオーバーになるぞ?」
火魅は苦笑すると、オレンジ色の指輪をしている部分に、まるでろうそくの火でも消すように息を吹きかける。あっさりと火は消えてしまった。
でも火魅の言う通り、もしかしたらあのまま千敦は死んでしまった可能性もゼロではない。戦闘には真剣に取り組む、そう思ってはいたけれど心のどこかで軽く考えていたのだろう。
命はたった1つしかない、そして自分はまだ死にたくない。もっと気を引き締めて戦わないと、と千敦は自分に言い聞かせるように深く心に刻み込む。
「そういえばありがとうございました、室木先輩。助けてもらっちゃって」
「別に。あそこでお前があっさり死んでも面白かったんだけどな、俺的には」
火魅は髪をいじりながら楽しそうに笑う。
ちなみに火魅の一人称は俺だったりする。ただ見た目に合っているので、あまり違和感はなかった。
それと多分悪気はないのだろうけど、こんな風に危なっかしい言い方をすることが多々ある。その為合わない人もいるみたいだけど、千敦は別に気にしていない。
それにそういう危ない一面を持ち合わせているからか、火魅は一部の女子から絶大な人気を誇っている。やっぱり女子にとっては不良とイケメンは必須アビリティらしい。
「ロッキーせんぱーい!」
どこからか甘い声が聞こえたかと思うと、今までどこで何をしていたのか役たたずのうこが走ってやってくる。そして思い切り火魅に抱きついた。
火魅は思い切り迷惑そうな顔をしていた。が、うこはそんなことお構いなしにネクタイに指を絡めて満足そうな顔をしている。
そう、火魅は本来は校則違反なのだが女子なのにネクタイをつけ、おまけにズボンを履いている。要は男装をしていた。そこもまた女子に人気がある理由かもしれない。




