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第三幕‐1

 次の日から本格的に、千敦のラグナロク部と演劇部の二重生活が始まった。


 でも二重生活と言えば、もっとシリアスでシビアでほんのりエロチックな香りが漂うもの、

というイメージを勝手に抱いていたのだが、千敦の二重生活は半端なく体力が必要されるもので、体育会系の汗臭い香りしかしなさそうだった。


 まず朝から学校へ行って、適当に勉強して、ご飯を食べてまた勉強。その後は楽しい部活という流れに戦闘が入ったことにより、千敦の生活リズムは一変した。


 勉強の間にギャルから連絡がきたら教室を抜け出し、消火栓――もとい神々の武器屋(ニダヴェリール)から武器を取り出してトロールを倒す。そしてまた教室に戻って勤勉に励む。休み時間の場合も以下同文。

 

 何が辛いかというと、授業中の場合は長々と時間が取れないので効率的に戦闘をこなさないといけないし、昼休みの場合はご飯が食べられなくなるからとっても困る。


 それに戦闘が1日1回なら楽なのだが、普通でも3回。ひどいときは1日5回くらいあった。

 そう、1日3回以上するのは辛い。そういうことだ。

 

 ともかく最初のときみたいにヴァルに寄ってから現地に行くときもあれば、女子トイレなどの入り口を経由して現地近くの出入り口に直行させてくれるときもある。基本的に後者の場合が殆どで、トロールを倒したらなるべく急いで教室に戻る。

 

 この繰り返しなので体力的にもなかなかキツイ。

 それに呼び出しがいつくるのか全く分からないから緊張感もある。突然ポケットに入れてあるギャルが震え出すと、慣れない頃はその度に驚いて体がビクッと震えてしまっていた。 

 

 千敦が初戦闘からまだ2週間が経った程度なので、未だにちょっと驚いてしまうときがある。そういえばこの前須藤に、お尻に何か入れてるのか? と疑いの目を向けられた。

 

 とりあえず有無を言わさず殴っておいた。

 

 呼び出しがあったらこっそりギャルの内容を確認し、休み時間のときなら普通に教室を出ればいいのだが、授業中の場合がこれまた厄介で抜け出す理由を考えるのが面倒だった。

 

 最初はトイレと言っていたけれど、1日3回も同じ理由だとさすがに不自然だ。それにトイレに行き過ぎて下痢便、などとかいう不名誉なあだ名を頂きそうになったので、最近はその理由を控えてどうにか上手く誤魔化している。

 

 さすがに男子でも下痢便は厳しい。

 

 「ぷっ! そんなこと言ったらうこも十分ひでぇから」

 

  戦闘が終わりヴァルに戻って一息ついているとき、千敦が変なあだ名をつけられている話をしたら、朱梨が笑いを堪えながらそんなことを言い出した。

 

 「あべせん! その話は待った!」

 

 その話を聞きつけたうこが慌てて朱梨の元に駆け寄る。

 

 「なぁ、うこがなんでうこって呼ばれてるのか教えてやろうか?」

 

 うこにコブラツイストをかけながら、千敦に向かって得意げに笑う朱梨。けれどもそれはとても意地悪そうな笑みだった。

 

 「うこはうんこの略だ」

 

 長い間。

 

 「へっ?」

 「えっ?」

 

 朱梨の言葉が理解できなくて、千敦とたまたまその場にいた祐美は間の抜けた声を上げる。

 

 「だからうんこの略だって。でも女子にうんこは可哀想じゃん? っうわけで縮めてうこになったってわけ」

 「いや意味が分からないんですけど」

 「……それってイジメじゃないんですか?」 

 

 もしかしてそうなの? とどこか不安そうな視線でうこを見つめる祐美。

 

 「そ、そういうんじゃないから!」 

 

 慌てて否定するうこ。

 

 「いやぁ、戦闘で授業を抜けるときにずっとトイレに行くって言ってたんだけどぉ、いつも帰ってくるのが遅いからいつの間にかそう呼ばれててさ。っていうか4月の終わりにはそう言われてたかも……えへへ」

 

 うこは大して気にしていないのか能天気に笑う。

 本当にうこは雰囲気的にからかいやすい子で、多少ひどいことを言っても傷付かない感じがするからか、つい周りも乱暴な扱いをしてしまう。


 とはいえまさかうこの意味がうんこだなんて思ってもみなかった。うこがうんこの略だったなんて。

 

 「悪かったな。気軽にうこなんて呼んじゃって」

 「いいよ、いいよ! もう慣れちゃったから全然気にしてないし」


 まぁあんまり広まってほしくはないけど。と言葉を続けながら歯を見せて笑ううこ。千敦の顔を見上げながら笑ううこは相変わらず可愛い。でもどちらかというとそれは小動物的な可愛さで、千敦は犬を撫でるような感覚でうこの頭に手を伸ばす。


 けれども頭に触れる直前で手は止まった。止まったというか、止まらざるおえなかった。


 「痛ってぇ!」


 突然背中に痛みが走ったので勢い良く後ろを振り返ると、なぜか祐美が千敦の背中を思い切り抓っている。


 「何すんだよ! 祐美!」

 「……別に」


 祐美は手を離すと千敦から顔を逸らす。その顔はどことなく不機嫌そうだった。

 そして顔を逸らしまま祐美が口を開く。


 「だって千敦が――」


 その言葉は警報音によって遮られた。

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