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第二幕‐4

 「説明は終わったのか?」

 

 突然後ろから声がしたので驚いて振り返ると、黄色に染まった剣を持って莉穂が立っていた。その剣は見た目はごく一般的な西洋の剣に近いが、剣身の部分がかなり長くて莉穂の身長と然程変わらない。

 

 「サド先輩!?」

 「副部長!」

 

 うこと共に千敦は早足で莉穂に近づく。

 

 「サド先輩が来てくれて本当に良かったぁ! 説明とか本当に無理!」

 

 うこは泣きそうな顔で莉穂の腕にしがみつく。

 突然うこにしがみつかれた莉穂はかなり動揺していた。だがすぐに、とても優しい目をしてうこを見つめる。

 

 「あ、あの……佐渡ヶ谷先輩?」

 千敦の存在に気づくと、軽く咳払いをしてからいつもの冷静な口調で、どこまで説明したんだ? とうこに尋ねる。

 

 「とりあえずグレープまで!」

 「他は?」

 「何も!」

 

 大きな声で自信満々に言ううこ。そして頭を抱える莉穂。

 自信持つところを間違えてるだろ! という言葉が千敦は喉元まで出かかったが、どうにか堪えて飲み込んだ。

 

 「それじゃちょうど近くにあるし、神々の(ニダヴェリール)武器屋の説明からするか」


 莉穂がそう言った途端にうこが、あぁぁぁぁぁ! と突然大声で叫び出す。


 「それだ! 神々の武器屋! ニダベだ、ニダベ!」

 

 うこはど忘れしていたことを思い出せて嬉しいのか、笑いながら消火栓を何度か乱暴に叩く。


 「何? ニトベ?……なんかどっかで聞いたことがあるような名前だけど」

 「新渡戸稲造か? 旧5千円札の人のことを言いたいならばな」


 別にボケたつもりはなかったのだが、即行で莉穂にツッコミを入れられてしまった。

 そんなやり取りをしているとうこがいきなり手を上げる。


 「サド先輩! ニダベのやり方教えてもいい?」

 「あぁ、別に構わないが。いや、ちょっと待ってくれ!……んー……あー……すまない。やっぱり教えてやってくれ」


 二転三転したが結局莉穂はうこに教えることを許可した。途中何やらぶつぶつ言っていたのが気になったが、結果教えてくれるというのだから良しとすることにした。

 

 「……えっとね、これは神々の武器屋(ニダヴェリール)。うちらは略してニダベって呼んでるんだけど、とにかくこいつはすっごい大切なもので、これがないとうちらは武器を出せないの」

 「えっ? ここから出てくんの?」

 「そうだ。神々の武器屋はこの消火栓タイプと、数は少ないが消火器でも同様のことができる」

 

 千敦はまじまじと消火栓を見つめる。

 どう見てもあるクリーム色したごく一般的な消火栓だった。

 これから武器が出る、と言われてもいまいち納得できない。というか武器が出る、ということ自体が非現実なことすぎて簡単には受け入れられなかった。


 「こればっかりは見たほうが早い。高城、実際にやって見せてあげてくれ」

 「了解!」

 うこはスカートのポケットから千敦がもらったのと同じ、銀色のICカードを取り出す。でもうこのものにはピンク色の字でBalderバルドルと書かれている。

 

 「もしかしてこれってみんな持ってるんですか?」

 「当たり前だろ。これがなければ私達は戦えない。でも逆を言えば、これに選ばれたから私達は戦っているとも言えるな」


 莉穂は少し寂しそうに笑う。

 千敦と同様に莉穂やうこも選ばれたから戦っている。誰も望んで戦っているわけではないし、当然だが死にたくもない。こんなのに選ばれるくらいなら、その運を少しでもドリームジャンボかロト6に回したい。そう切実に思う。


 さり気なく莉穂も胸ポケットから銀色のカードを取り出す。そこには黄色でFreyrフレイと書かれていた。


 「そういえばこの文字って何か意味があるんですか?」 

 「それは私も分からない。とりあえずみんな武器の名前だと思ってるよ。ちなみに私のはFreyr、高城のはBalder。そして関岡のはOdinオーディン……前に愛が使っていたものだ」


 愛、という言葉に反応して千敦はすぐさま胸ポケットに手を伸ばした。ちなみにずっとオディンと呼んでいたことは、心の奥底に深くしまっておこうと思う。


 胸ポケットにはカードの固い感触がなかった。焦ってズボンのポケット手を伸ばしたが、左右のどちらとも入っていない。

 ちなみに左にはさっきのたまご型育成おもちゃが入っていたが、今は必要ないので無視。


 そんな千敦の様子にもしかして失くしたんじゃないだろうな、と莉穂の目が無言で圧力をかけてきたとき、偶然お尻の辺りに手をやったら何か固いものに触れた。 前ではなくお尻のほうだ。ということで尻のポケットを漁ると、見覚えのあるあの銀色のカードが出てきた。自然と千敦の口から安堵の溜め息がこぼれる。


 「……良かったぁ」

 「それはこっちの台詞だ」


 当然だが莉穂に睨まれた。千敦は言葉なくただただ笑って誤魔化す。

 そしてこれは余談だがと、莉穂が他の子の武器の名前も教えてくれた。それよると朱梨はValkyriesヴァルキリアで、沙夜子のはVidarヴィーダルは。祐美はThorトールで、今はいないが室木先輩はAndvarinautアンドヴァリナウトという武器名らしい。


 「話が逸れたな。高城、今度こそ頼む」

 「はーい!」


 うこは幼稚園児並みに元気の良いお返事をすると、改札を通るときのように銀色のカードを消火栓の赤い丸部分にかざす。するとカードの中から剣の塚みたいなものがゆっくりと出てくる。


 うこはその塚部分を掴むと、まるで芋掘りのように勢い良く引っこ抜いた。その手には昨日見たピンク色の枝分れしたような変な形の短剣がある。


 「すげぇぇぇぇ!」


 と千敦が驚きの声を上げると、うこは照れくさそうに笑いながらペン回しのように短剣を指だけで回して弄ぶ。そして残ったカードをスカートのポットにしまった。


 「せっきーもやってみなよ!」


 うこに軽く促されて、いざ自分も消火栓にカードをかざそうとした瞬間。それを邪魔するかのように左のポケットが震えだした。

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