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第二幕‐3

 

 「では高城さん。まず最初に終末を知らせる(ギャラルホン)警報の説明をしてあげてください」

 

 染谷はいつの間にか手にたまご型の育成おもちゃのようなものを持っている。それは千敦も何度か目撃していて、確か朱梨やうこ達が色違いで持っていた。

 

 うこは挙動不審な動きで染谷の元に行くと、早足で千敦のところに戻ってくる。それからはい! と笑顔で渡されたので、とりあえず受け取った。

 

 「何なんだ、それ?」

 

 と千敦が小首を傾げて手の中にあるそれを見つめていると、まるで言葉に反応したかのように鈍く震え出す。突然のことに驚いて落としそうになってしまった。

 そしてたまご型の機械と共鳴するかのように、ヴァル内に突然警報音のような音が鳴り響く。

 

 千敦以外の全員が一斉にテレビ画面に視線を向ける。

 その様子を見て慌てて千敦もテレビを見ると、区切られた画面の一角が赤く染まって点滅している。それは最初一箇所だったのに、次々と赤い場所が増えていく。

 

 「ある意味グットタイミングですね……とりあえず佐渡ヶ谷さん達は北校舎の3階化学室付近へ。阿部さん達は南校舎の1階3年生の廊下前へ向かってください」


 染谷は特に慌てることもなく、落ち着いた様子で次々に指示を出す。


 『了解しました!』


 と千敦以外の全員の声が綺麗に合わせる。


 「後の指示はいつものようにギャルで送るから、みんなよろしく」


 そう言うとかすみは素早くパソコンの前の席に移動して、何やら慌ただしく作業している。朱梨チームは全員走って行ってしまたーった。千敦は全く流れについていけず立ち尽くしていると、いきなり誰かに手首を掴まれた。

 

 「うわぁ!」

 

 驚いて顔を上げると自分の手を掴んでいたのはうこで、目が合うと相変わらず人懐っこそうに笑う。うこは誰に対しても気後れすることがないし、人との距離をいきなり詰めてくる。


 それはすごく良いことなんだけど、中にはその行為に期待する奴もいるわけで、特に大人しくてあまり人間関係に積極的ではない男子はご愁傷様って感じだった。

 

 「うちらも急ごかなきゃ!」

 

 うこは少し乱暴に手を引く。千敦は引っ張られるようにしてその後ろについて行こうとしたが、突然後ろから染谷に引き止められた。

 

 「関岡君」

 「は、はい!」

 

 千敦は慌てて立ち止まる。そして顔だけ後ろに向けると、染谷が予想外に真剣な顔をしていたので少し驚いた。

 

 「関岡君。戦闘にはくれぐれも気をつけてくださいね」

 「了解です。って言っても、元々無茶するつもりはないですから」

 

 そう言って頭を掻きながら苦笑する千敦。 

 染谷は一旦目線を逸らし言い及んだが、やがてゆっくりと口を開いた。

 

 「……関岡君は、生き返れないと思ってください。酷なようですが男子の例がない分、絶対の保証がないのです。ですから皆さん以上に無茶はしないでください」


 とても穏やかな口調だったが、染谷の言葉が深く胸に突き刺さる。

 不意にあのときの愛の姿が鮮明に脳裏に蘇る。

 

 いつかあんな風に死ぬときがくるのかもしれない。逃げることは許されず、戦う以外に道はない。ましてや自分の場合は生き返れる保証がないというおまけ付き。

 やっぱりすごい事に巻き込まれちまったな。と千敦は小さく溜め息を吐きながら苦笑する。

 

 でも仮に生き返っても感情がないなら意味がない。

 今まで生きてきた中で得た、楽しさも苦しさも辛さも喜びも、不意打ちで起こるラッキーエッチシーンでグッときたことも、全て搔き消えてしまうのならばそれは死んだも同じこと。

 

 戦うことから逃げられないのならば、もう精一杯足掻いて生き抜くしかない。


 未だ鳴り止まない警報音が耳障りなくらいうるさかった。

 微かに手が震える。

 千敦は思わず繋がったうこの手ごと強く握り締めてしまう。だが、うこも手を握り返してくれた。


 「……せっきー、大丈夫?」

 

 珍しく不安がち揺れるうこの瞳。千敦は安心させるように力強く頷いた。

 

 「あぁ、全然平気だ。っうかやるしかねぇならさ……もうやるしかねぇじゃん!」

 「うん、そうだね。せっきー、行こ!」

 

 うこは歯を見せて笑うと、千敦の手を引きながら走り出す。

 顔だけ後ろに向けると、ちゃんと莉穂も追いかけてきてくれたので安心した。

 手を引かれてヴァルから出ると、すぐにエレベーターホールのようなもの場所に辿り着く。


 昨日はここから昇降口近くの女子トイレまで送ってもらった、というか普通にエレベーターに乗って移動した、という感じだったが。

 

 「またこれに乗んの?」

 「うん。でも今は戦闘モードだから昨日のとは訳が違うよ」

 

 うこはなぜか歯を見せて楽しそうに笑う。

 千敦は意味が分からなくて顔を顰めていると、後ろから私は後で行くからお前達2人で先に行け。と莉穂の声が聞こえてきた。

 

 3人乗るとかなりきついのだが、緊急事態なんだし乗ってもいいんじゃないの? と思いながらも、とりあえずうこと一緒にエレベーターに乗り込む。

 

 うこはすぐさまボタンを押してドアを閉める。

 それから少しだけ千敦に身を寄せるように距離を縮めてくる。シャンプーの匂いなのか何だか良い香りが鼻を掠めて、少しだけ千敦の胸の鼓動が早くなる。

 

 うこはまた楽しそうに笑いながら、戦闘用は超早いんだよ、これ。と弾んだ声で言った。

 そう言った途端にエレベーターが大きく揺れ、本当にものすごい勢いで上昇する。それはまるでタワーハッカーの逆バージョンのようだった。確かにこれで3人乗りは危険だ。

 

 「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 千敦は叫ばずにはいられなかった。でも叫び終わる頃には上に到着していた。そして上昇の勢いがすごかったからか1mくらい体が宙に浮いた。その浮いた状態でうこはトイレのドアの上枠を手で掴むと、自分の体を引っ張り上げて器用に天井とドアの隙間を通り抜ける。


 まるでどごぞの雑技団のような体術を呆然と見つめていると、床に降り立ったうこが大声で扉の向こうで叫ぶ。


 「せっきー、早く出て! サド先輩が来れない!」


 その言葉で我に返った千敦は慌ててトイレから出る。

 すると1分もしないうちに莉穂がトイレから出てきた。さすがに莉穂は背が高いからか、うこのようなことはできないらしい。


 「私は先に行く。高城は神々の(ニダヴェリール)武器屋とか色々説明をしてから来い」

 

 そう言うと莉穂は駆け足でトイレから出て行く。

 女子トイレに残されたうこと千敦。

 今更ながら妙な組み合わせだなぁと思っていると、うこはまた千敦の手を引いて走り出す。


 トイレの外に出ると、元々あまり人気のない北校舎なのだが本当に人がいなかった。


 「さっすがサド先輩。もうグレープしてあるし! マジ仕事速えー!」

 「グレープ? なんだそりゃ? 果汁でも絞るのか?」

 「違うよ! はい、ここ注目!」


 うこが偉そうに壁につけられているものを指差す。千敦にはどう見ても裏に磁石があって、黒板にプリントを貼り付ける丸いあれにしか見えなかった。


 「これは魔法(グレイプニール)の足枷。略してグレープね」

 「だからそのグレープがどうしたんだよ。っていうかさ、これ取られたりしないの?」

 「取れないよ。だって普通の人には見えないし」

 「へっ?」

 

 予想外の答えだったので間の抜けた声が出てしまった。

 

 「なんか1つだと見えるらしいんだけど、複数つけると普通の人は見えないんだって。あっ、もちろんうちらは見えるけどね」

 「は、はぁ……」

 

 ものすごく曖昧な説明だったか、千敦は空気を呼んでとりあえず頷いておいた。

 

 「それでね、このグレープは人避けができるの! あとグレープ内にいる人間の姿は見えなくなるし、おまけに防音機能もあるんだって。どう? すごいっしょ!」

 

 うこは自慢げに鼻を鳴らす。

 別にうこが作り出したわけではないだろうに、と千敦は苦笑する。

 

 「それとねぇ……」

 

 突然うこが辺りを見回しだす。そして何か見つけたのかあっ! と声を上げると、小走りで消火栓のところへ向かう。そして千敦の方に向き直ると、嬉しそうに笑いながら大きく手を振る。

 

 どうやらこっちに来い、ということらしい。

 千敦は小さく溜め息を吐いてからうこの元に向かった。自分は猫派なので詳しくは分からないが、きっと犬を飼ったらこんな感じなんだろうなと思って密かに笑った。

 

 「はい。次はこれね!」

 

 うこが声を弾ませながら消火栓を叩く。まるで新しく買ったおもちゃを早く自慢したい、そんな子どもみたい顔をしている。とりあえず話だけは聞いてあげることにした。


 「消火栓がどうかしたのか?」

 「これはねぇ…………えっと、何だったっけ?」


 お笑い芸人並みに千敦はその場でコケた。


 「おいおい、俺の教育係なんだろ? しっかりしてくれよ」

 「ごめんごめん。あー……さっきサド先輩が言ってたのにど忘れしちゃった」


 うこは誤魔化すようにニヒヒと笑う。

 その顔を見たら千敦は怒る気も失せて、深く息を吐き出しながら項垂れる。別に期待はしていなかったが、まさかこれほどまでとは思わなかった。


 どうやら自分はうこを甘く見すぎていたらしい。もちろん悪い意味で。

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