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第二幕‐2

 「……要はマックとかモス、みたいなことか?」

 「そうそう! そういうこと!」

 

 うこは歯を見せて嬉しそうに笑う。基本うこは馬鹿だけど、こういうところが憎めない。

 

 「それならみんなでヴァルに行けばいいんじゃないの?」 

 

 先程部活が解散になったとき、各自で別行動になったときに千敦は少し驚いた。てっきり皆揃ってあそこに行くものだと思っていたからだ。皆で同じ場所に行くというのに、わざわざ別々に行って集合するのは少々面倒な気がする。

 

 千敦の言葉に祐美が鼻を鳴らしてから答える。

 

 「はぁ? バカじゃないの? みんなしてぞろぞろ歩いてたら怪しいでしょ」

 

 何をそんなにイラついているのかは分からないが、言葉の節々から棘が出まくっている。

 今反論してもきっと火に油だろうから、千敦は何も言い返さなかった。この辺は幼馴染みなので何となく分かる。


 「そ、それにしても……出入り口がトイレだけってのは色々と困るんだけど」


 千敦はさり気なく話題を変えた。


 「せっきー、甘いなぁ。別にトイレだけが入り口じゃないから。例えばちょっと先にある資料室からも行けるんだよ!」


 うこは得意気に笑うと廊下の先を指差す。

 まだ時間に余裕もあったし、せっかくなので今日は試しに資料室から行こうということになった。


 廊下を歩いて少しして目的地に辿り着くと、特に施錠されていないのかあっさりとドアが開き、3人はすぐに中へと入った。 

 だが中は滅多に人の出入りがないのか、かなり埃ぽっくて3人はほぼ同時に鼻を摘む。

 

 「アー……シッパイシタカモー」

 「オイ!」

 「ハヤクイコ」

 「ウン」

 「ソウダナ」

 

 3人の意見が素晴らしく一致したので、ヴァルに行けるという奥にある掃除用具入れへと足早で向かう。

 やり方はこの前と同じで、中の壁に手をつけば指紋認証によって床が開いて落ちる、もとい道ができるらしい。


 ただ前回は初回だったしスペースがあったので2人で入ったが、今回はさすがに狭いので1人ずつロッカーの中に入ることになった。

 まずはうこが中に入る。すると少ししてからロッカーが軽く揺れた。祐美がロッカーのドアを開けると、マジックのようにうこの姿は消えている。

 

 次に千敦が譲って祐美が入ると、また少ししてからロッカーが揺れる。ドアを開けるとやはり祐美の姿はない。

 そしていよいよ千敦の番になった。

 

 使用されていないのか、ロッカーの中には何もない。というか下に荷物があったら一緒に落ちてしまうので、定期的に整理されているのかもしれない。

 そんなことはともかくとして中に入ると、千敦は少し緊張しながらッカーの壁に触れる。


 突然トイレのときのように床が開いて、千敦は驚く間もなく奈落に落ちた。

 それはオリンピック競技にあるリネェージュみたいな名前の競技のように、細い通路を滑るように下へと降りしていく。ただ結構な速さなので怖いことに変わりはなかった。

 

 「うわあぁぁぁぁぁぁ!」

 

 と叫んでいるうちに出口に着いたが、勢い余って出るときに体勢を崩してしまい、千敦はお尻から着地してしまった。

 

 「痛ってぇぇ!」

 

 かなり強打したお尻を摩っていると、先に来ていた朱梨に指をさされて笑われた。

 

 「ダッセー! お前、運動神経ねぇのかよ!」

 「でもこれ絶対最初やるよね、うちもやったもん」

 「っうか、うこはヘットスライディングだったろうが」

 「あべせんっ! それは言わないでよ!」

 「…………ヘッドスライディングはさすがに俺でもしねぇよ」

 

 とたわいもない話をしていると、その会話を遮るように何回か手を叩かれた。

 音のした方に顔を向けると、少し呆れた顔しているかすみと目が合った。千敦はとりあず笑って見せたが、なぜか余計に呆れた顔をされた。

 

 「はいはい、楽しいお喋りはそこまで。そろそろミーティングするよ」

 「……どうやら室木以外は全員いるみたいだな」

 

 辺りを見回して人数を確認する莉穂。

 

 「えっ? 室木先輩もアースガールズなんですか?!」

 「あぁ。だがあいつは部活と同様にこちらも不真面目でな、あまり参加しない。全く……どこでサボってるんだか」

 

 莉穂は顔を顰めると小さく溜め息を漏らす。

 室木先輩はあまり部活に顔を出さないので、千敦はそんなに話したことはなかったが、特に悪い印象は持っていない。


 確かに同じ演劇部の部員ともあまり群れないし、皮肉屋で嫌味な態度を取る人なので評判は良くないけれど、千敦は気さくで話しやすい人だと思っている。それに部活にあまり顔を出さない割に、天才肌なのか演技はかなり上手い。

 

 去年見学ついでにこの学校の文化祭に来たとき、演劇部では室木先輩が主役をやっていた。それもあって千敦は勝手に親近感を抱いている。

 

 そんなときふと、アースガールズは祐美以外は全員演劇部の人間なので、もしかしてその為に作られた部活なんじゃないか? という疑問が千敦の脳裏を掠めた。なので思ったままに質問すると、染谷が穏やかな笑みを浮かべながら答えてくれた。

 

 「そういう時代もあったのでしょうけど、最近は自然に集まってくれてますね。それに戦闘しているところを見られても、演劇部だから演技してたってことで誤魔化せそうですし」

 

 朗らかに笑う染谷。千敦は絶対に誤魔化せねぇよ! と心の中で密かにツッコんだ。

 

 「余談はここまでにして本題に入りましょう。関岡君には早速今日戦ってもらいます」

 

 「えぇぇぇぇぇぇ! いきなりですか!」

 

 千敦は驚きの声を上げる。

 別に戦う覚悟がないわけではない。もう心は決まっているし、今更逃げる気はないけれど、こんなに早く戦うのはちょっと予想外だった。

 

 きっと研修みたいな、お試し期間的なものがあるのかと思っていたら、意外にもぶっつけ本番タイプらしい。傍から見るとかなり動揺していたように見えたのか、染谷は少しだけ困ったように笑う。

 

 「勿論1人ではないので安心してください。ちゃんと補佐をつけますから」

 

 その言葉に思わず安堵の溜め息が漏れる。

 

 「それに慣れてきても基本2、3人で行動してもらいます。1人はさすがに危険なので」

 

 意外に慎重なんだなと千敦は思ったが、いくら生き返るといっても死ぬ可能性がある戦いなので、それぐらいして当然だよなと考え直した。

 

 「では高城さん。教育係として関岡君に色々教えてあげてくれませんか?」

 「うえぇぇぇぇぇ! う、うち? いや無理無理無理! 本当にそういうの絶対無理!!」

 

 いきなり指名されたうこはかなり混乱した様子で喚いている。

 

 「落ち着いてください、高城さん。補佐として佐渡ヶ谷さんもつけますから」

 「わ、私もですか!?」

 

 まさか指名されると思っていなかったからか、珍しく莉穂がうろたえている。けれどうこの方を一瞥すると、莉穂は少しだけ嬉しそうに口元を緩める。その様子が少し気になったが、この場で言うことではなかったので千敦は特に何も言わなかった。


 「さすがに1年生2人では心配ですからね」

 「……確かに。高城だけでは危なっかしいですからね」


 莉穂はすぐにいつもの冷静さを取り戻し、染谷の言葉に小さく頷く。それでも何だか嬉しそうに見えるのは千敦の気のせいだろうか。

 

 「なのでしばらくの間は阿部さん、勝野さん、松任谷さんのチームで行動してください」

 

 染谷の言葉に一同が頷く中、恐る恐る1本の手が上げられ、あの! と横から声が入る。

 千敦が視線を向けると、手を上げたのは意外にも祐美だった。

 

 「あの!……その教育係っていうのは私じゃダメなんですか?」

 

 会話の流れを切って手を上げたのが恥ずかしかったのか、なぜか祐美の顔は少し赤い。

 

 「いえ、松任谷さんがダメということはないですよ。ただ戦力的なバランスを考えると、この分け方が1番良かっただけです」

 「…………そう、ですか」

 

 ちゃんとした理由だったと思ったが、祐美は未だ納得がいっていない顔つきだった。

 でも真面目で優等生タイプの祐美が、教師の意見に反論するだけでも珍しいことなのに、更に納得がいかない顔をするのを見て千敦が不思議に思っていると、かすみが突然それなら半分に分けたらいいんじゃないの? と提案した。

 

 「戦闘のことはうこが、それ以外を松任谷が教えれば? 全部教えるってなると、只でさえバカなうこが余計にテンパりそうだし」

 「かすみん、ひどい! 私、バカじゃないし! 本当はすごいんだからね!」

 

 バカ丸出しの言い訳だった。

 それは置いておいて、祐美は少しの間考え込んでから、染谷先生が良ければそれで構いません。とかすみの意見を受け入れた。

 

 「染谷先生、別にそれで問題ないですよね?」

 「えぇ、構いませんよ」

 

 あっさりと許可が出たので、千敦がよく事態を飲み込めないまま戦闘はうこが教えてくれて、それ以外のことは祐美が教えてくれることになった。別にどちらが何を教えてくれても構わないのだが、うこの場合は何してもやや不安が残る。その為の副部長様だと思うので、とりあえず染谷先生GJ。

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