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第二幕‐1

 部活を終え、千敦は昨日祐美と待ち合わせした場所へと向かっていた。

 すると、少し遠くに愛の姿が見えた。どうやら職員室に多目的室の鍵を返しに来たらしい。


 千敦は何だか気まずくなって、すぐに背を向けて引き返そうとしたが、運悪くその前に見つかってしまった。

 

 「あっ、関岡」

 

 愛の声に肩が跳ね上がり体が強張る。

 千敦は仕方なく振り返ると軽く頭を下げた。

 

 「ど、どうも……」

 

 自分でも頭を抱えたくなるくらい他人行儀な発言だったが、愛は特に気にすることなく何だよ、それ! と言って普通に笑う。

 既に部活で愛とは顔を合わしているが、千敦は極力会話しないよう避けていたし、視線が合わないように目線を逸らしていた。


 未だに心の整理はついていなくて、その姿を見ると嫌でも胸が締めつけられて苦しくなる。どんな顔してどんな話をしていいか分からなかった。 

 

 「っていうか帰ったんじゃなかったの?……いや、別に残っててもいいんだけどさ」

 「えっ? まぁ、なんて言うか、ちょっと色々ありまして……」

 「ふーん、そっか」

 

 やっぱり上手く会話できなかった。

 できることなら前のように普通に話したい。なのにできない。好きだと言ったときの愛の満足そうな笑顔、その後の真っ赤な血と生気のない顔が脳裏を掠める。


 愛の死が瞼の裏に張り付いているかのように、どうしたって忘れられなかった。

 目の前にいるのは愛なのに愛じゃない。自分のことを好きだと言ってくれた、愛はもうここにない。

 

 そのことがひどく悲しくて悔しくて虚しかった。 

 すると突然愛が千敦にデコピンしてきた。

 

 「痛で!」


 千敦はおでこを押さえる。


 「関岡さぁ……今を精一杯楽しんでる?」


 顔は少し呆れているけれど、愛の声はとても優しかった。

 そしてその言葉に胸が熱くなる。

 昨日のことだからちゃんと覚えている。今を精一杯楽しめ、という言葉。


 例え感情が全てリセットされたって中身は変わっていない、愛がブレないでいることがたまらなく嬉しくて、だけど悲しくて千敦は泣きそうになった。

 

 「はい……」

 

 だから震える声を抑えながらそう一言返すのがやっとだった。

 目の前に愛がいるのに、何だかすごく遠くにいるような気がした。手を伸ばしても触れてもそれは愛ではない、千敦は拳を強く握り締めながら深く俯く。

 

 「ならいいんだけどさ。とにかく辛いときは誰かに言ったほうがいいよ? 溜め込んでてもロクなことないから」

 

 愛は笑いながら千敦の肩を軽く叩くと、そのまま横を通り過ぎて行ってしまう。

 

 「……あ、あの!」

 

 そのとき愛に何か言いたくなった。でも何言いたいのか自分でも分からなかった。

 

 「ん? 何?」

 「いや、その…………何でもないです」

 「はぁ? 用もないのに呼び止めるなって。それじゃ行くからね」

 

 愛の背中が少しずつ遠ざかっていく。

 結局何も言えなくて、黙って愛の後姿を見つめることしかできなかった。

 しばらくして深い溜め息を吐くと、千敦は祐美と待ち合わせをしていることを思い出し、少し早足でその場所へと向かった。

 

 待ち合わせに指定された場所は2階の北校舎の外れ。あまり人気がない所にある女子トイレの前だった。人の多い場所で男が女子トイレに入るのはなかなか勇気がいることなので、祐美も気を遣ってくれたのかもしれない。

 

 でも人目のある場所で女子トイレに2人で入るところを目撃されて、もしかしてあの2人って、と怪しい妄想されるのも悪くはないが、今回は相手が悪い。

 祐美と噂になってもあまり嬉しくなかった。なんて本人の前では口が裂けても言えないが。

 

 「よっ、お待たせ」

 「もうっ、千敦遅いよ! 3分も遅刻してる!」


 その姿を発見して傍まで駆け寄ると、開口一番言われたのがその台詞だった。

 千敦は露骨に顔を顰める。

 

 「祐美……お前、携帯も時計も持ってないのにどうやって時間知るんだよ」

 「べ、別にいいでしょ! 一度くらい言いたかったの!」 

 「何じゃそりゃ」

 「とにかく行こ?」

 「あぁ、そうだな」

 

 と2人で女子トイレに入ろうとした瞬間、どこからかせっきー! ユーミン! とバカそうな声で名前を呼ばれた。声がした方に顔を向けると、嬉しそうな顔したうこがこちらに走ってくる。バカがいた。

 

 「おはよ! いやこんにちわ? それともこんばんわ、かな?」

 「少なくともこんばんわじゃないから」

 「まぁどっちでもいいや。2人ともなんでこんなとこにいんの?…………あっ! もしかして、うちめっちゃKYだった? ねぇオコ? オコ?」

 

 勝手に想像して慌てふためくうこ。やっぱりバカだった。

 

 「変な勘違いすんなよ。俺達は待ち合わせて昨日の場所に行こうとしてただけだって。それに祐美に告白とかマジでないから」

 

 手を左右に振って笑いながら否定する千敦。

 

 「……うん、そうだよね」

 

 理由は分からないけど祐美が突然不機嫌になった。どことなく言葉に怒りが混じっている。

 

 「祐美、どうかしたか?」 

 「別に」

 

 やっぱり祐美は冷たくて、不機嫌なオーラを全身から放っている。

 その意味が分からせなくて千敦が不思議がっていると、うこがいきなり手を叩く。

 

 「よしっ! それなら早速ヴァルろっか!」

 「えっ? バ、バ、バリル?」

 

 うこの言葉に千敦は全くついていけずつい聞き直してしまった。

 

 「せっきーはまだ知らないか。昨日行ったでっかいテレビが置いてあった部屋があるでしょ? あれがヴァル!」

 「いやいやいや。意味が分らないから!」

 

 勝手に1人で納得しているうこにツッコミを入れると、祐美が千敦の方に顔を向けないまま追加で説明してくれた。

どうやら昨日行った司令室みたいな場所は魂が集う場所ヴァルハラと呼ばれていて、それを略してうこ達はヴァルと呼んでいるらしい。

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