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第一幕‐11

 千敦は今日起きたことを整理してみる。


 とりあえずすごい事に巻き込まれたことだけは分かった。

 千敦はよく分からないけど戦わないといけない定めで、愛は一度死んで生き返ったけれど自分に対して何の感情も抱いていない、ということも分かった。

 

 愛はもう千敦のことを好きではない。

 今まで愛のことを意識したことすらことなかったのに、その事実が思っていた以上にショックだった。

 そしてショックに思っている自分に何だかひどくイラつく。


 好きって言われたから意識しているみたいで嫌だった。


 「あー、クソっ! 全然頭ん中が整理がつかねぇよ……」


 下駄箱から自分の靴を取り出すと、八つ当たりするように靴を床に放り投げた。

 あの後、司令室みたいな場所から専用エレベーターで昇降口の近くまで送ってもらった。

 

 千敦以外の女子達は思い思いに2、3組に別れて帰っていった。

 その中に紛れて途中まで一緒に帰ってもよかったのだが、何だか今日は1人で帰りたい気分だった。

 

 でも千敦が放り投げた靴に足を入れようとすると、突然横から名前を呼ばれた。

 反射的に声のした方に顔を向けると、少しだけ荒い息を吐き出している祐美がいた。

 

 「祐美? 佐渡ヶ谷先輩と帰ったんじゃなかったのか?」

 「うん。まぁそうだったんだけど…………ちょっと、ね」

 「何がちょっとなんだよ」

 

 僅かな沈黙。

 

 「もうっ! そんなことどうでもいいでしょ! とにかくさ、このまま一緒に帰らない?」

 「えっ? お前と?」

 「何? 私じゃ不満なの?」

 

 祐美が顔を顰めながら軽く唇を尖らせる。千敦はそんな祐美を上から下まで一通り眺めた後でゆっくりと口を開く。

 

 「うーん…………まぁ胸には不満があるかなぁ」

 

 殴られた。結構本気で。


 殴られた頬を押さえながら、千敦は自転車を押す祐美の隣を歩いている。

 せっかく自転車があるんだから2人乗りしようぜ、と提案したところ変に生真面目な祐美に却下されたため歩きになった。

 

 ちなみに千敦は電車通学なので、こうして自転車で帰ることは殆どない。そもそも家から学校はかなり距離があるし、朝から1時間近くも自転車を漕ぐ気には絶対になれなかった。

 

 けれども祐美には自転車通学する理由がある。

 彼女の家は貧乏なのだ。

 すんごい貧乏ではないが、カレーにお肉は入れずウインナーで済まし、買い物は全てタイムセールで済ますくらいの貧乏ではある。


 いや貧乏というより節約生活していると言ったほうが良いのかもしれない。

 なにせ祖父祖母なしで13人家族というかなりの大所帯なので、あまり贅沢なことはできないらしい。でも昔から祐美の家はそうなので、それについて千敦は何とも思っていない。

 

 結局祐美の家に着くまで1時間半近くかかってしまい、辺りはすっかり暗くなってしまった。それでも本来は2時間以上かかるのだが、途中で歩くのが面倒になった千敦が祐美をどうにか説得し、途中で2人乗りをして家まで帰ってきた。

 

 本当は2人で一緒に帰るのは久しぶりなので、もっとゆっくり話をしたいという思いもあったのだが、情けないことに如何せん足が痛くなってきて無理だった。

 

 「ほら、着いたぞ」

 「うん。ありがと」

 

 家の前に着いたので2人は自転車を降りる。

 高校に入って以来、久しぶり見る祐美の家はやっぱり貧乏くさかった。


 災害には絶対に堪えられそうにない木造建築。全体的にやや傾き気味。表札も手書きだし、家の前には誰も盗まないようなき錆びついた自転車が2台止めてある。

 

 間。 

 

 「…………祐美。今度さ、ガキども連れてうちに飯食いに来いよ」

 「へっ?」

 「前はよく来てたじゃん」

 「それはすごい昔の話でしょ?!」

 「とにかくお前さえ良ければいつでも来ていいからな」

 

 千敦は昔のクセで祐美の頭を撫でようとしたが、直前のところで振り払われてしまった。

 

 「ちょ、ちょっと! そういうのは中学生までにしてよ。いや、中学の頃も十分恥ずかしかったんだけどさ…………」

 

 顔を真っ赤に染めて俯く祐美。その様子に、千敦は女の子に対して気軽にすることじゃなかったなと反省し、ごめんごめんと軽い調子で謝った。

 

 「でも……ありがと」

 

 祐美は顔を俯けたまま呟いた。

 

 「えっ?」

 「昔みたいにそう言ってくれて嬉しかった」

 

 祐美は顔を上げると、結構身長差があるため千敦を見上げながらはにかむように笑う。

 昔から全く変わらない笑み。

 でもそのときの笑みは今まで見たことがないくらい大人びていて、何だか綺麗だった。

 

 思わず胸が大きく高鳴ったが、すぐに祐美にドキッとしてもなぁ。と思って、千敦は苦笑する。祐美は小さい頃から一緒にいるからか幼馴染みとしてしか見れなくて、異性として意識したことはなかった。

 

 「それじゃまたな」

 「うん……また明日の夕方に」

 

 一瞬千敦は明日? と小首を傾げそうになったが、すぐにかすみのを思い出して納得した。 

 そういえば明日の17時半にまた来い、と言っていた気がする。祐美に言われなければすっかり忘れていた。

 

 「……そっか。明日また行かないといけないのか」

 「もしかして忘れてたでしょ?」

 

 さすが幼馴染みだけあって妙に鋭い。

 

 「わ、忘れてねぇし!」

 「本当に?」

 「本当だよ!」

 「なんか怪しい…………まぁ、でも? どうしてもって言うなら、明日一緒に行ってあげてもいいけど。どうせ1人じゃ行き方分からないでしょ?」

 

 祐美は何だか偉そうに上から目線で言ってくる。 

 それが少し癪だったが、あの場所の行き方がいまいち分からないのは事実だったので、結局待ち合わせをして行くことになった。

 

 すると祐美はいやに上機嫌になって、音程がずれた鼻歌を歌いながら家の中に入っていく。そして玄関のドアを閉めた拍子に、ちょっとだけ斜めになる手書きの表札。

 

 千敦は深い溜め息を吐き出すと程近い自分の家へと向かった

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