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第一幕‐10

 突然さっき千敦がした以上に机から悲鳴が上がる。

 

 「良いわけねぇだろうが、バカ! っうか……それ以上言ったら殺すぞ、てめぇ!」

 

 と千敦以上の暴言を発したのは当然莉穂ではなく、その横にいる朱梨だった。

 朱梨は椅子から立ち上がりこちらを睨んでいる。そして舌打ちをしてから口を開いた。

 

 「さっきから聞いてたら何なんだよ! そりゃ自分庇って部長が死んだんだ、色々と思うことがあるのは分かるよ。でもよ…………愛さんとの付き合いが1番長い佐渡ヶ谷先輩のことも少しは考えろよ、バカが!!」

 

 一気に捲くし立てたからか朱梨は荒い息を吐き出す。千敦はその気迫に押されてしばらく呆然としていたが、我に返ると色んなことが頭を駆け巡る。

 

 愛との会話が上の空だった莉穂、今日に限ってなぜだか会話が弾まなかったうことの帰り道、そして多目的室で1人泣いていた朱梨。沙夜子だって絶対悲しかっただろうし、同じ部活ではないが祐美は愛が死んだところを目撃しているので、何も思わないはずがない。

 

 染谷やかすみも大人だから感情は表に出さないだけで、生徒が亡くなったことを悲しまない人達ではなかった。ここにいる全員が悲しくて辛くて、遣り切れない思いを抱えている。

 

 そして朱梨に言われたように、特に莉穂は3年間も愛と同じ部活にいる。クラスも一緒だからかお互い信頼しあっているのが傍から見ても分かるような、一言では表せないような関係だった。


 きっと本当は千敦なんかとは比べ物にならない程に、この現実が認め難く辛いに違いない。それでも弱音を吐かず、自分を奮い起こして立っているその姿は本当に立派で、千敦は心の底から莉穂のことを凄い人だと思った。

 

 「……すみませんでした、副部長」

 

 千敦は莉穂に向かって深々と頭を下げる。

 

 「関岡が謝ることはない。お前は私の言いたいことを…………いや、多分みんなが言いたかったことを言ってくれた」

 

 顔を上げると、莉穂は少しだけ笑っていた。先程は冷酷に見えたその笑みが、今は何だか寂しそうに見えた。

 

 「副部長は強いですね」

 「……弱いよ、私は。ただ人より感情が隠すのが上手いだけだ」

 

 今まで笑みを作っていた莉穂の顔が一瞬崩れる。けれどすぐに顔を俯けてしまったため、どんな表情をしているのか千敦には知る由もなかった。

 

 そのとき突然手を叩かれて、全員が音がした方に顔を向ける。視線の先には染谷がいて、相変わらず優しげな笑みを浮かべている。

 

 「宮島さんが導かれて……」

 

 専門用語なので千敦が分からないと思ったのか、染谷は一旦言葉を止めて説明してくれた。どうやら戦いで死ぬことを【導かれる】と言うらしい。

 

 「宮島さんが導かれてしまって、関岡君も混乱している状態なのに言うのも酷だとは思うのですが……ラグナロク部の一員となって、一緒に戦ってくれませんか?」

 

 突然染谷は笑うのを止めて、真剣な目をして千敦の方を見つめる。

 笑っていない染谷を見るのが初めてだったので少し戸惑ったが、これが冗談や遊びではないことは馬鹿な千敦でも分かる。


 だからこそ即答できずに真面目に考え込んでしまう。

 

 「そう言ったはいいものの、残念ですが関岡君に拒否権はありません」

 「へっ?」

 

 染谷の予想外の言葉に思わず間の抜けた声が出た。

 

 「心を繋げる枝葉(ユグドラシル)に選ばれた者は戦わなければいけない定め。先程カードが光ったのは認められた証。だから戦ってもらうしか選択肢がないんです」

 

 染谷が優しく微笑む。今はそれがとても黒い微笑みに見える。

 

 「えぇぇぇぇぇ! ちょ、あの、いや、えっと……そ、それマジですか?」

 「はい、マジです」

 

 即答された。

 

 「俺、戦い方なんて全然分からないし。っていうかこの状況だって、全然本当に少しも飲み込めてないんですけど」

 

 言い訳するよう千敦は少し早口で捲くし立てる。 

 

 「それでも戦ってください。選ばれた者しか武器が使用できない以上、戦ってもらうしかないのです。今まで戦ってきた子達のように……」

 

 染谷は笑った。

 だが笑っているのにその表情と声は悲しさで溢れていて、きっと千敦の知らないところで色々あったことは何となく察しがつく。

 

 ふと染谷先生は一体今までどれくらいの生徒を見守ってきたのだろう、と千敦は思った。前にこの学校にはもう30年くらいいると聞いたことがある。その間ずっと生徒達の戦いを見守ってきたのだろうか。

 

 「いつ終わるとも知れない戦いですが、絶対に負けるわけにはいかないのです」

 「……染谷先生」

 

 染谷の真剣な眼差しが千敦を射抜くように見つめる。

 自分の教え子が戦う姿や、時には亡くなった姿を見てきたのだとしたら、染谷先生は本当に優しい人だからもう生徒達を戦わせたくない、ってきっと何度も思ったはずだ。


 それでも心を鬼にして無理を承知で千敦にお願いしている。それに莉穂を含め演劇部員の女子達や、祐美だって戦いたくて戦っているわけでは決してない。

 それに怖くないはずがない。


 それでも定めから逃げずに戦っている。ならば千敦も染谷の思いと男として定めに応えたい。

 

 「俺、やります!」

 「関岡君……本当に申し訳ない」

 

 染谷は深々と頭を下げる。

 

 「そ、そんなことしないでくださいよ! 染谷先生!」

 

 千敦は慌てて頭を上げてもらった。

 相変わらず事態はあまり飲み込めていないし、あんな化け物と戦うのはやっぱり怖いし、愛が死んだことを思うと気が進まない。


 だけど自分を庇って愛が倒れたのなら、その代わりに引き継いで戦いたい。弔い合戦というと言葉が悪いかもしれないが、敵を討つ為に戦いたいという気持ちもある。

 

 「やっちゃいますよ、俺! この身が果てるまで戦い続けますから!」

 「いえいえ、戦うのは学校を卒業するまでで結構ですよ」

 「へっ?」

 

 即、出鼻をくじかれた。

 人がせっかく決意を固めて若干決め顔までして言ったのに、染谷にあっさりと否定されてしまった。

 

 「心を繋げる枝葉はこの学校を離れる者にはなぜか力を貸してくれないのです。ですから学校を卒業するまでで結構ですよ」

 「あー、そうなんですか…………」

 

 嬉しいような、結局嬉しくないような話に千敦は反応に困る。

 それからもっと色々聞きたかったのだが、突然かすみがそれじゃ今日はこれにて解散! 明日は17時くらいにまたここ集合、と連絡事項を言われてしまい何も言えなかった。

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