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ESP部シリーズ

ESP部のとある登場

作者: 式織 檻

 某県立高校のとある放課後。

 グラウンドや体育館では運動部員の掛け声が飛び交い、校門付近ではカバンを携えた男子生徒や女子生徒が談笑しながら帰路を歩んでいる。日本全国どこでも見ることができる風景。高校生以上ならば記憶の中にあるような、あるいは年少者でも容易にイメージできるような、至極一般的な「放課後」の描写がそこにあった。

 そんな中、そのような喧騒から少し離れた場所にある「部室棟」と呼ばれる建物。その三階の一室の扉の前に、一人の女子生徒が佇んでいる。

 恐る恐る顔を上げたその先、扉の上には板張りの看板が掲げられていた。そこに並んでいる文字列を読むと、『ESP部』。異彩を放つように、ゴツゴツした書体で書かれている。  

 その看板の風体に少しばかり気後れしたこの少女は、頭頂で一つに結ばれている髪を揺らしながら、

「す〜……は〜……」

 と深呼吸。そして意を決したように「よしっ」と呟いた後、まるでマグロでも吊り上げるように力強く右手を振り上げ、その手の甲を扉に向けた――――その瞬間、

「ちょっとっ! 逃げないでよっ!」

 という叫び声が扉の奥から響き、次瞬、

「やだよ! 何で僕まで買出しに付き合わなきゃいけないんだ!」

 と言う声と共に、扉が勢い良く開かれた。

 ノックを空振ったその女子生徒は、その勢いのまま前につんのめり、

「きゃっ」

 その扉の向こうに立ちはだかっていた男子生徒に頭からぶつかった。

「うおっ」

 ヘッドスマッシュを鳩尾に受けた男子生徒は、ゴングでも聞こえてきそうなくらい見事な大の字で、後ろへドタンと倒れる。

 女子生徒もその上に覆いかぶさるように倒れ、その男子生徒の腹の中心に手をついた。いわゆる一点集中。手の平に全体重をあずけ、彼にさらなる追い討ちをかけたのである。

「ぐふっ…………っててて。な、なんだ〜……?」

 床に倒れつつ腹を押さえながら、片目で視線を上げる男子生徒。

 その目の前、女の子は慌てて立ち上がり、

「すすすす、すいません」

 獅子脅しを早送りしたようにぺこぺこ頭を下げた。頭の動きに合わせて、頭頂のダンゴがぽんぽん揺れている。

 その仕草を半ば唖然と見上げながら、その男子は、

「……え〜と、あなたは? この部室に何の御用でしょう?」

「あ、あたし、一年三組の花塚まいみといいます。ここ、『ESP部』の部室ですよね? 入部したくて来ました!」

 まいみはびしっと姿勢をただし、宣誓するような声で言う。

 と、その言葉を聞くやいなや、部室の奥から、

「何っ? 入部希望者っ!」

 学者風味の別の男子の声が聞こえてきた。そしてドアの奥から、残像でも見えそうなくらいの素早い動作で顔が覗いてくる。丸眼鏡にぼさぼさ頭の男子生徒。目の焦点をカッチリとまいみに合わせた。

 その眼鏡男は満面の営業スマイルをまいみに振りまき、

「入部希望者と言ったかね、君? ささ、立ち話もなんだし、部室へどうぞどうぞ」

 そう言いながら、一流執事よろしくまいみを部屋の中へとエスコートしていく。

 流されるように「え? あ、はい……」と部室の中に引っ張られていくまいみ。つまづきそうになりつつ前へ進み、床にへたりこんだままでまいみをポカンと見上げているノックダウン男――坂巻――の横を通り過ぎる間際、

「……別にあたし、トロくないですよ」

 まいみが、いきなり坂巻にジト目を向けて言った。

 坂巻は慌てて、

「い、いや、僕はまだ何も言ってないけど……」

「顔に書いてありますっ」

 そう言いながら、まいみはぷいっと顔を背ける。そしてそのまま部室の中に入り、部室の真ん中にある椅子に座らされた。

 部屋の中にいたのは、まいみ以外に四人――――部屋の入口でフラフラと立ち上がっているノックダウン男と、まいみを中へ引っ張ってきた眼鏡男。それ以外にショートヘアーの女の子と、ニヒルに笑っているイケメンな男子生徒もいた。

 来客用の茶碗に入ったお茶を渡されると、早速眼鏡男が笑顔と共に口を開き、

「では、改めて『ESP部』へようこそ。私が部長の長部神足(こうたり)だ。よろしく――――で、今君が頭突きを見舞った男が坂巻君、そこにいるショートヘアーの女子生徒が五月君、そっちで携帯をいじっているハンサムガイが藤沢君だ。私以外は皆本学の二年生。現部員はこれで全員だ」

「あ、はい。よろしくお願いします。花塚まいみです」

 まいみは椅子から立ち上がり、ぺこりとお辞儀をする。

「ふむ、では、まいみ君。君はこの『ESP部』がどういう研究会か理解したうえで、ここに来たわけだね? つまり、君も『ESP能力』あるいは超能力全般について、それなりの興味があると、そういうわけだね?」

「いえ、あの、興味というか――――実はあたし、マインドリーディングができるんです」

「……マインドリーディング?」

「はい。読心ってやつです」

 あごに手を当て、「ほう」と感心した顔になる部長氏。まいみにさらなる興味深そうな視線をぶつけ、

「……つまり君は、人の心の中を読めるということか?」

「はい、そうです。……ただ、その人の目を見てないとだめなんですが」

 エクスキューズしながら、まいみは苦笑いのような笑みを浮かべた。

 その後方、ズボンの埃を払いながら部屋の中に戻ってきた坂巻が、

「じゃあ、僕が今何を考えてるのか当ててみてよ」

「あ、はい。いいですよ」

 首を回して坂巻の方を振り返りつつ、まいみは坂巻の顔を覗き込んだ。

「…………」

「…………」

「…………」

「……どうしたの?」

「……あの、分かりません」

 視線を落とし、まいみは言いづらそうに言う。

 坂巻は首をかしげて、

「へ? 何で?」

「あの、坂巻先輩…………考えるのが早いんです。だから、早口で話されてるみたいな感じで、どうにも聞き取れなくて…………」

「……え? 僕は、そんな――」

「確かに、坂巻君は思考が早いよね」

 坂巻言葉の途中、横から口を出してきたのは、襟元まで届く茶髪の男子生徒、藤沢。その整った顔に微笑を浮かべ、ふふっと坂巻を見やる。

 藤沢の視線に存外そうな表情を浮かべつつ、坂巻は「そうかなあ?」と言うように腕を組んだ。

 藤沢は相変わらずの爽やかスマイルでまいみの方を振り返り、

「じゃあ、俺が考えてることは分かるかい? 俺は坂巻君ほど思考は早くないと思うけど」

「あ、はい」

 と言いながら、まいみは今度は藤沢の顔を覗き込む。

 しかし数秒後、

「……わかりません」

「ん? どうしてだい?」

「……藤沢先輩の心の中、何か、聞いたことのない言葉が混じってるんです」

 戸惑った顔でまいみが言うと、

「……そうか、そうだった。ごめんごめん」

 藤沢は最初何かに気付いた顔をした後、申し訳ないと言うような顔をした。

「そうなんだ。実は俺、二年前までイタリアに住んでてね。だから、思考の七割は今でもイタリア語なんだ。しゃべる方は日本語に慣れてきたんだけど、考える方は、どうにもね……」

「ふ〜む、なるほど」

 と、藤沢の弁明に部長は何やら納得顔。

 しかしその隣の坂巻と五月は、「そんなこと初めて聞いたぞ」という顔を藤沢に向けている。

 部長は渋い顔をしながら、

「う〜む。これでは、まだ確証は持てないな――――よし、じゃあ今度は僕の心の中を読んでみたまえ、まいみ君」

「あ、はい」

 言われて、まいみは慌てて部長の方を向く。が、

「……わかりません」

「おや? どうしてだい?」

「長部先輩の心の中、CとかHとか、わけが分からない文字が並んでるんですけど……」

「うむ、いかにも。僕は今、風邪薬の主成分について暗記していたところだ」

 部長は縦に一つ頷いた。

「……んなことしてたんですか?」と、呆れ顔の坂巻。

 部長は依然腕を組んだまま、呟くように、

「……つまり、知らない知識に関しては、読めても理解できないと、そういうわけか。別にイメージや思考能力を共有するというわけではなく、あくまで『読む』ということなんだな。だから本人の能力によっては『読めない』こともあると……。なるほどなるほど、実に興味深い――――しかし、藤沢君に関しては彼の経歴を知っていればいいわけだし、僕に関しても僕の人となりや事前行動を知っていれば、そう答えることは可能だ。当てずっぽうでもね。残念ながら、まだまいみ君の能力について証明されたとは言えないな」

「そんな〜」

 眉をハの字にして、まいみは困った表情。

 と、今度は部長の横から、

「じゃあ、私の心の中を読んでみてよ」

 そう言ってきたのは、五月。思いやるような顔をまいみに向け、自分を人差し指で指している。

 まいみは数秒五月の顔を覗き込んだが、程なくして視線を落とし、

「……わかりません」

「ええっ? 何で? 私、今、プリンについて考えてただけだよ?」

「河野先輩、声が大きいんですよ。耳がキンキンするんです」

「ええっ?」

 声を裏返す五月。

 まいみはびくっと両耳を手でふさぎ、床にしゃがみこみながら、

「そんな、怒鳴らないでくださ〜い」

「ど、怒鳴ってなんかないわよ!」

 まいみを見下ろし、怒ったような困ったような顔をする五月。

 隣でその様を眺めていた坂巻が、納得したような表情で、

「……なるほど。お前は心ん中じゃ年中怒鳴りっぱなしなわけだ。だからそんな――」

「何か言ったっ!」

 五月はギロリと坂巻を睨む。

「……何も」と押し黙る坂巻。

 そのやりとりを横目で見つつ、部長は「どうしたものか」と言わんばかりに肩をすくめながら、

「……しかし、まいみ君、君は本当にマインドリーディングができるのかね?」

「本当なんですってば〜」

 いよいよもって、まいみは顔に困惑を浮かべる。ふと、何かを閃いたように目をぱちくりとし、まいみは提案するように、

「あ、じゃあ皆さんの出席番号を当てましょうか? もしくは生年月日とか?」

「いや、それを当てても、君が読心ができるという証明にはならないよ。前もって調べることが可能だからね」

「じゃあ、皆さんの好きなものを思い浮かべてください」

「それも駄目だな。過去の我々の自己紹介やプロフィールを調べれば、情報の入手は可能だ。加えて、君がマインドリーディングではなく、マインドコントロールの能力を有してる可能性も出てきてしま――」


 ――そんな、なおも続くまいみと部長のやり取りを眺めながら、

「……能力の証明って、案外面倒なのよね」

 と、五月が思い出すように呟いた。

そろそろ、題名やあらすじが苦しくなってきました(汗)。

平成二十年四月、加筆・修正。

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