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音千亜のカオスなバレンタイン

作者: 佐崎

 いよいよ明日はバレンタインデー。日本全国の女の子たちが女子力を見せ付けるビックイベントでもある。


「よしっ!! 今年はチョコマフィンを作ろう!」


 マナオ高校のマドンナ、湖舞 音千亜はぐっとガッツポーズをしながら叫んだ。今日は休日なので、親も姉も皆居ない。音千亜のやる気のボルテージはMAXだ。

 これからカオスな災難が次々と彼女に降りかかることになるとは、想像もつかないであろう。


「確か、チョコはここにあったはず……なんだけどなぁ?」


 ごそごそと台所の周辺をあさる音千亜だったが、チョコの姿はまったく見えない。どうやら誰かが食べてしまったようだ。


「どうしよう……。自転車はお姉ちゃんが使っちゃってるし……困ったなう!」


 音千亜が呟いた瞬間、びゅんッと何かが飛んできた。

 それは、茶色くて、固形の……。


「チョコレートだわっ!」


 茶色くて固形のアレがどこからともなく飛んできて、音千亜は喜んだ。神様ありがとう! 困っている私を見て、救いの手を差し伸べてくれたのね! ……そんなことを思う音千亜の部屋の隅っこで、灰色のあいつが困ったような顔をしていた。


「げるまんげるまん……?」


 彼の独り言を人間にもわかるように翻訳するとこうである。

『あれ? おかしいな……。リア充爆発しろって思いながらチョコを食ってやったのに……極め付けにうんこ投げつけてやったのに……あの女、全然萎えていないどころか、うんこを調理し始めやがった!!』


 つまるところ、全部デンジセイジンが悪かったという訳だ。しかし、デンジセイジンはわかっていなかった。――音千亜は、成績こそ優秀ではあるが……いろんな意味で根本的にアホなのである!


「えへへへ~。えっと、まずはチョコを刻めばいいのよね?」


 そっとチョコと認識されている物体に手を添えた


「ん? なんかホカホカしてる……これってもしかして……!?」


 音千亜が顔色を変えた瞬間、デンジセイジンはニタァと笑った。


「暖めてくれておいたのね!! ありがとう、神様!!」


 どんがらがっしゃーん!!

 デンジセイジンはオーバーにすっころんだ。元々オーバーなリアクションをあえてやっていた彼だが、ここのところは無意識でやってしまう。

 しかし、体重の軽いデンジセイジン一体がすっころんだだけでは、あんなにでかい効果音は出ない。

 他に誰かが居る! デンジセイジンは恐る恐る後ろを向いた。


「はいよー」


 間抜けな声で挨拶してきたのはコマネチだった。コマネチはぷりちーなお尻を丸出しにしてすっころんでいる。コマネチはよちよちと起き上がるとデンジセイジンの後ろに立って音千亜の動向をうかがった。

 音千亜は鼻歌を歌いながら、茶色い固体を切り刻んでいる。


「げ、げるまん……(訳:普通臭いで気付かないか?)」

「はいよー(訳:音千亜は今、花粉で鼻がやられてるんだよ)」


 なるほど! というようにデンジセイジンはオーバーにうなづいた。

 ちょっと可哀想なことをしてしまったようだ。


「次は牛乳……って、あれ? 空じゃん!」


 音千亜が頭を抱えていると、上のほうからちょろちょろと音が聞こえてきた。


「わぁ! 神様ありがとう! 私に牛……乳……を!?」


 音がするほうを見てみるととんでもないものが視界に飛び込んできた!

 なんと、上から落ちてきた白い液体とは、おっちゃんのマダンテだったのだ。これには音千亜も悲鳴を上げてずっこけるだろう。そう思ったデンジセイジンだったが……。


「おっちゃんありがとう! おっちゃんって牛だったのね!!」


 おっちゃんだけではなく、コマネチやデンジセイジンまでずっこけた。しかしそんなことにはまったく気付かず、音千亜は切り刻んだ茶色い固体にマダンテを注ぎ込み、じっくりことことと煮込み始めた!


「ふんふんふ~ん♪ あとはホットケーキミックスをいれて混ぜるだけ!」


 上機嫌に鼻歌を歌いながら、ごぽごぽと闇チョコ液体をかき混ぜている。まるで不老不死の薬を作っている魔女のようだ。今にもイーヒッヒッヒィと声を上げそうな音千亜のにやけ顔が、一瞬にしてさぁぁっと青ざめた。


「ど……どうしよう、ホットケーキミックス買い忘れたぁぁああ!」


 両手をほほに当て、ぶんぶん首を振りながら嘆いていると、あるアイディアを思いついた。


「そうだっ! 神様はまた私を救ってくれるはず!!」


 音千亜はその場で正座をし、両手を合わせてぎゅっと目をつぶった。


「神様、神様、お願いです。どうか私にホットケーキミックスを……」


 すると、なんということだろう。白い粉が雪のようにはらはらと降ってくるではないか。


「神様ありがとう! サンタさんよりも感謝しています!」


 音千亜は目をキラキラさせながらお茶碗に白い粉を集め始めた。そんな音千亜の行動に、苦虫を食ったような顔をしているヤツが居た。


「わき毛わき毛ー?(訳:おかしいな? たくさんフケを飛ばしまくったはずなんだが……)」


 スパイダーマンのごとく天井に張り付いているのはBL王だった。この日のために一ヶ月一度も風呂に入らず、たくさんフケや垢をためておいた努力が水の泡だ。

 音千亜はどんな男でもオトせるんじゃないかというような笑顔でマダンテとフケが入った茶色の固体をオーブンで焼き上げた。

 焼きあがるまでの間、とんでもない臭いが部屋中に充満していたのはいうまでもない。やがて茶色の個体は焼きあがり、見た目だけは完璧なチョコマフィンが出来た。


「よーしっ! 完成! ……阿部くん、受け取ってくれるかなぁ」


 不安げな表情になり、そしてその後何か名案を思いついたようにぱぁぁっと顔を輝かせた。


「そうだっ! 味見してみよっ!」


 笑顔の音千亜とは反対に、コマネチはあせったような顔をした。

 いくらなんでも、この暗黒物質をいたいけな少女に食べさせるなんて、最低だ!


「はっ! はっ! はいよー!」


 コマネチは叫びながらばたばたと走り、音千亜の前に飛び出した。


「あら、コマネチも味見したいの?」

「はいよーっ!!」


 そんなわけない! と否定しようとしたコマネチだったが、飛び出した勢いがとまらず、

 コマネチは暗黒物質の中へとダイブしてしまった。

 どっぴゃぁあああーん!!


「はっ……はい……よー……」

「きゃああっ、コマネチっ!?」


 暗黒物質の中は臭かった。ただひたすらに臭くて不潔だった。音千亜は『何するのよもう!』とか『許さないからぁ!』などぷんすか怒りつつも、暗黒物質の中からコマネチを引き上げてくれた。

 そしてコマネチが元気なさそうにシュンとしているのを見て、起こったような表情が少しずつ優しい表情に変わっていく。


「……そっか。コマネチもわざとじゃないもんね。仕方ないよね。……よーっし! また作り直そっと!」


 そう決意した瞬間、お姉ちゃんが帰ってきてしまった。


「ただいまー……ってなにこれくさっ! アンタうんこでも漏らしたの!?」

「えぇっ! チョコ作ってただけだよーっ!」

「はぁ!? アンタばっかじゃないの!?」


 ――その後、激怒したおねえちゃんにデンジセイジンもおっちゃんもBL王もぼこぼこにされてしまったのは、また別のお話。

 そして結局阿部にチョコを渡せなかったのも、また別のお話――。

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