プロローグ 出会い
雨の予感のする森の中で、ねずみ男が出会ったのは、絶世の美女の巫女であった。だがしかし、どうにも様子がおかしい。後をつけると、謎の大きなお社にたどり着く。そこでねずみ男が目にしたのは、命を削って美しい紙を織り上げる「織紙族」たちの姿だった。
特異な生態を持つ織紙族の生活に触れたねずみ男の奇妙な物語。
ねずみ男の金への才能が光る。
そして恋の行方はーーーー。
~プロローグ~
人間たちが、もう入ってこないような森の中で、何やら話し声が聞こえる。
「やっぱりねずみのアニキが持ってくる緑饅頭は最高に美味いっす!」
キジムナーたちが、ねずみ男と緑饅頭を食べながら話しているようだ。
「まぁな。俺様にかかれば、こんなの朝飯前よ。ところでお前ら、いつまで俺に世話になっているつもりだい?食う先を見つけろよ。俺だって一生この生活はできないぜ。」
ねずみ男がそういうと、キジムナーたちはええっ!と悲しそうにした。
「そんな、でもねずみのアニキ、そういうアニキは何処か見つかってるんです?」
キジムナーたちはわちゃわちゃとねずみ男に群がりながら聞いた。
すると待ってましたとばかりにねずみ男は得意げに言った。
「当たり前だぜ。見てみろ。これよ。」
ねずみ男は懐から一枚の巻かれた紙を取り出した。
紙はするするとほどけて、図鑑ぐらいの大きさになった。
「な、なんて美しい紙なんだろう…!」
キジムナーたちはざわついた。
それもそのはず、その紙はこの世に本当にあるのかわからないほどに美しかった。真っ白ではあるが、所々光の加減できらきらと艶めいていた。
「でも、その紙が、どうしたっていうんですかい?」
キジムナーたちが尋ねると、
「へっ!わかってねぇなあ!これは『織紙族の作った紙』さ。おれは織紙族のところに引き抜かれたってわけさ!」
「織紙…?なんですかそれは?」
キジムナーたちはきょとんとしていた。
「なんだそれも知らないのかよ。ま、無理もねぇな。あいつらを知っているのは本当に限られた妖怪とほんの一握りの人間たちだけだからな。そうだな、あれは今日みたいにもう少しで雨が降り出しそうな午後だったな。」
ねずみ男は腕を組んで胡坐をかき、目を閉じながら語りだした。
~織紙族との出会い~
―俺は相変わらず鬼太郎のやつに妖怪から助けられたばっかりで、何にも持ってなんかいやしなかった。
「…いい儲け話だったのに、妖怪が出てきたら金持ちの社長たちも怯えあがって逃げ出すんだもんな。あー。何かいい儲け話ないかなあ~。」
ねずみ男は昨夜森の中で見つけた岩の窪みで目を覚まし、そんなことを思いながらそろそろ何かしら活動をし始めようかと思っているところだった。
頭をぽりぽり掻きながら、窪みから出ようとふと見ると、向こうの大きな木に少し隠れて、誰かがいた。
「んー?なんだ?……。……!!!!」
そこには、ねずみ男も、多分他の誰もが見たこともないようなそれはそれは美しい巫女が佇んでいた。
「な、なんて美しい……!!これは幻か!?」
ねずみ男はあんまり驚いたので夢じゃないかと二度見した。いや何度も何度も見返したが、夢ではなく、本物だった。
ねずみ男の胸は早鐘のように高鳴り、見つめるだけで恥ずかしく、体が縮こまったり、痒かったりして、もういてもたってもいられなかった。
巫女は、たくさん摘んだ白い花を抱えながら、右を見たり左を見たり、何か探しているような、少し不安げな顔をしていた。
そのうち、泣き出しそうだった空からぽつ、ぽつ、サアアアアーーっと雨が降り出してしまった。
「これはあの巫女さんとお近づきになるチャンス‼」
ねずみ男は近くに生えていたサトイモの大きな葉を引っこ抜き、ぶつかるんじゃないかという勢いで巫女のところへ寄って行った。
が、しかし
「あぅ、ダぁ、うえ、うえぇぇぇぇん‼」
巫女が雨とともに泣き出した。
ねずみ男は驚いて、進路を急変更して木の根っこにサトイモの葉で身を隠した。
「あ、赤ん坊…?」
ねずみ男が驚いたのは、巫女が泣き出したこともそうだが、巫女が喃語しか話せない様子であるからだった。
恐る恐る葉の隙間から巫女を覗いた。
巫女は泣きじゃくり、母親を求める赤ん坊そのものだった。
すると、
「依子や!こんなところにいたのかねぇ!」
向こう側の道なき道から、三人の女がやってきた。
三人はだいたい50歳ぐらいの初老で、巫女と同じように髪は結っているものの白髪交じりで巫女の黒髪とは変わって銀色だった。また、それぞれ淡い朱・青・緑の着物を纏っていた。
「しょうがないねぇ、さぁ、お社に戻りましょうねぇ。」
赤い着物の女が巫女の手を取りそう言った。
「たくさんの花を摘んできたんだねぇ。」
と、緑の着物の女が花を受け取った。
「あなたはこんなところでふらふらしている場合じゃないでしょう」
と青い着物の女が少し厳し気に諭した。
巫女は三人に連れられて、山の中に消えていった。
~追いかけるねずみ男~
あっという間の出来事で、ねずみ男はぽかんとしていた。
雨の音だけが、草木や岩肌、地面に跳ね返って聞こえていた。
その晩ねずみ男は眠れなかった。
寝床についても、あの美しい巫女、けれど赤ん坊のような巫女のことが、頭から離れなかった。
「ああなんて美しいんだ、依子さんというみたいだったな…けれどもあのばあさんたちは何者なんだ、いや、依子さんも何者なんだ?いやいや、依子さんは何者だっていい!絶対にお近づきになりたい!ああ、どこへ行ったんだろう。お社…この山のことは何でも知っているつもりだったが、そんなのは見たこともないな…。」
ねずみ男は自分でも気づかないうちに、昼間巫女に会ったあたりまで来ていた。
雨は上がり、今夜は満月だった。
「お社について何か手掛かりはないか…、…!」
ねずみ男は、三人の女たちが巫女を連れて消えていった木々の間あたりに、白い花びらが一枚、落ちているのに気が付いた。
「もしかしたら…!」
あたりをよく見渡すと、あった。白い花びらだ。少し離れた間隔で三人の女たちと巫女の行った後に落ちている。
「やった!これをたどっていけばお社に近づけるかもしれない!」
満月が森を照らし、白い花びらはその光を反射して、見つけるにはもってこいの環境だった。
ねずみ男はどれだけ歩いたかもうわからなくなっていた。ただあの巫女のことばかり、それだけ考えていた。
カラスたちが微睡みながらねぐらを出ていこうとしている。
今まで鬱蒼と生い茂っていた木々が急になくなった。ねずみ男はもう少しだけ進んでみると、ぽっかりとできた空間に、古めかしいが、大きくて立派なお社が建っていた。
「お社だ…」
ねずみ男はかすり傷だらけになった足をみながら、へへっ、と笑った。
「狙った可愛い子ちゃんは絶対逃がさないんだぜ!それが天下のねずみ男様ってもんさ」
そう誇らしげにつぶやいて、お社に近づいて行った。
お社は、古いがきれいに保たれているようではあったものの、肝心の神様の気配がなかった。境内を覗き見ると、ねずみ男は驚いた、と同時に戸惑った。
境内の中はかなり広く、そして何十台もの機織り機のようなものが均一に並べられていた。
「なんだ…これは…?」
ねずみ男は戸を開けて中に入ろうとした。
その時
コッケコッコーーーーーーー‼‼‼
お社の外のすぐ近くで、一番鳥がけたたましく鳴いた。
ねずみ男は心臓が飛び出そうになりながら、手水舎に頭を強くぶつけながら全速力でお社から離れ茂みの中に隠れた。
ぶつけた頭をおさえて目をぐるぐるさせながら、ひっそりとお社の様子を見張っていた。
すると、境内よりもさらに奥のほうから何やらうごめくものの気配がした。そしてそれは一つでなく、かなりの数だった。
ねずみ男がよく見ると、それは巫女だった。
いや、何十人もの巫女たちであった。
皆同じく、巫女装束を纏っていた。
それに交じって遠くからだと確認まではできないが、昨日見たような着物姿の女もいた。
巫女たちはぞろぞろと表へ出てきて、手水舎で手を洗い、そして境内の中へと入っていく。
巫女は全部で五十人ぐらいいるだろうか。列をなして手を洗い、境内へと消えていく。ねずみ男は息をひそめながらそれを見届けていた。
みんなが境内に入っていったのを見て、ねずみ男は立ち上がり、お社に近づいた。
手水舎まで来たところで一息つこうとすると、ねずみ男の予想が外れ、境内の奥のほうから、また一人、誰かが飛び出してきた。
またも心臓が飛び出しそうになったが、お社に近づけた安堵で油断していたねずみ男は、逃げ隠れるために走ろうとしたところで、手水舎の水に足を滑らせて、思いっきり転んでしまった。
額を強く敷岩に打ち付けた。
ひっくり返ったねずみ男の意識は朦朧としていた。視界もぼやける中で、誰かが、「だいじょうぶですか…?」と声をかけてくることだけ認知した。
白い着物…赤い袴…黒い髪…
つづく
※この物語は、毎日明晰夢で悩んでいる私が実際に見た夢の記憶をもとに書き起こしたものです。
夢なので、所々設定がかみ合っていなかったりするかもしれません。
また執筆も初めてのため、読みにくいところもたくさんあると思いますが、温かい目で読んでいただけると幸いです。




