まるくてさんかくでしかく
先生はああした方が良いと言う。
お母さんはこうして欲しいときっと思っている。
お父さんはそうじゃないと思っているにちがいない。
友達はこうあるべきだと思っている。
ぼくは、ぼくは・・・
僕らは「かたち」という存在。
僕はまだ、名前のないグネグネしたかたちをしている。
形に名前はないけど、僕を呼ぶときはステラってみんな呼ぶよ。
早く立派な大人になって、パパみたいな綺麗な三角に、ママみたいな綺麗なひし形になる!
だから今日も学校に行って、たくさんのことを学ぶんだ!
1限目・・・
「ここの物語のこの子は涙を流してますね、この気持ちは”悲しかった”のが正解ですよ」
僕はまた間違えちゃった…。
この子はうれしくて悲しくて、どうしようもなかったから涙が零れたんだと思ったけど、
選択肢にすらなかったなあ。誰かの気持ちを想像するのって難しい。
2限目・・・
「6個のリンゴのうち4個をまるまるさんがとったなら、さんかくさんがもらえるのは残りの2個ですね」え、まるまるさん、先に4個とっちゃうなんてずるいよ。さんかくさんと喧嘩になっちゃうんじゃないのかなあ。
「ステラ、確かにそうかもしれないけど、この科目で学ぶことはそれではないの」
できてないのは僕だけだ、もっと頑張らなきゃ!
3限目・・・
ボールが飛んできて、咄嗟に目をつぶってしまった。
「ねえステラ、ちゃんとやってよ!」
ごめん、僕なりにちゃんとやってるんだ…!次こそは、次こそは頑張るから!
4限目・・・
「ステラは絵が上手ね、他の科目もきっとできるようになるはずだから、お家で絵を描くのもいいけどしっかりお勉強もしましょうね。」
――――――――――――――――――
僕は必死に頑張った。
みんなはどう考えるか、普通ならどうするか、何を頑張るべきか、
考えて考えて考えて―――
ここは引っ込めて、ここは先生や友達に削ってもらい、ママとパパににここを引っ張ってもらった。
ついに僕は立派な正五角形になった。
これで、立派な大人になったんだ。
「さて、みんなももう立派な『かたち』になったね。
では、卒業を記念して、将来何をやりたいかみんなの前で発表しましょう!」
みんなが次々に夢を語っていく。
次は僕の番だ、よしっ!僕も立派な「かたち」だから、自信をもって発表するぞ!
「はい!僕の将来やりたいことは、・・・僕は、ぼくは、、、」
―僕は何をしたかったんだっけ。
なんのために、頑張っていたんだっけ。
いい「かたち」になって、どうするんだっけ。
なぜだか目が熱くなって、涙がこぼれそうだった。
ハナが、すっと手を挙げた。
ハナの「かたち」の名前は分からないけど、とても綺麗だった。
「ステラは、お絵描き、好きだったよね!」
にかっと笑った。
目の前の光景がぱっと明るくなった。
ハナのそのまぶしい笑顔も描きたいと思った。
今の輝いて見える景色も描きたいと思った。
先生の真剣な横顔も、優しいみんなの目も、
ずっとずっと、描きたかった。
僕は嬉しくて、くやしくて、涙がでてきた。
見られたくないから、誰も見えないところまで走った。
転んでは立ち上がり、ぶつかっては走り、
とうとう国の端っこの、海まできていた。
太陽が海に反射して、ゆらゆらと輝いていた。
僕は枝を拾い、夢中で砂浜に絵を描いた。
水面に反射する僕の絵だ。
もう正五角形なんかじゃなかった。ぶつかって転んで、五角形はとんがり、角の間は凹んでいた。
でも海に映る僕は、とてもきらきらと輝いていたから。
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