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7話 VSカーナリア・リベリウス②


緊張で唇が乾き、私は舌で湿らせた。


(まずは様子見ですわね……撃ち合いに持っていきましょう)


私はカーナリアの動きに注意を払う。彼女もまた、私と同じように様子を伺っているはずだ。

お互いに牽制し合うような、静かな時間が流れる。


すると突如カーナリアが一瞬だけ身を沈め――撃ってきた。乾いた銃声が訓練場に響き、弾丸がこちらに飛来する。


「水よ、刃となりて我が敵を貫け――《アクアランス》!」


詠唱すると水が空中に弧を描くような形をとって出現し、前方に向かって放った。

カーナリアの弾丸と交差し、弾けた水飛沫が白い訓練場にきらめきながら降り注ぐ。


「さすがミシェル、やるね」


カーナリアは笑いながら銃身をくるりと回し、軽々と再装填してみせる。


「撃ち合いは得意ですわ!」


(魔力の量では、私が上。だから、このまま消耗戦に持ち込めばこっちが有利。)


「このまま押し切って差し上げますわ!」


私の剣から紡がれる水の刃が、空気を裂いて次々と放たれる。私は止まることなく魔力を循環させ、間髪入れずに次の刃を編み出し、まるで水流のごとく連続して放っていく。


目の前のカーナリアは、それらを辛うじて捌いているものの、次第に動きに焦りが見えはじめていた。

さっきまで余裕そうだった彼女の表情から、わずかに緊張の色が垣間見える。私はその変化を見逃さなかった。


(……いける。押せば崩れる)


水の刃はまだ尽きない。流れを止めず、攻勢を続ける。――このまま、持久戦に持ち込めば押し切れる。そんな手応えが、胸の奥に広がっていった。


「私も本気出すよ。第一階梯――『ラピッドアクセル』!」


その宣言と共に、カーナリアの周囲の空気の流れが明らかに変わった。


カーナリアの魔法で放たれた弾丸が空中で突如として速度を増し、まるで空気を切り裂くかのように、鋭く、速く――加速する。


「くっ……! 守りの紋章、今ここに――

《プロテクト》!」


焦りを隠しきれない声で詠唱すると、前方に透明な防御障壁が瞬時に展開された。

加速してきた最初の弾丸は、その障壁に鋭く衝突し、淡い光の波紋を散らしながら弾かれる。


「とりあえず、これで……」


そう呟いた瞬間、視界に映る無数の魔弾が、次々と予備動作なしに加速しはじめる。

その動きは直線だけでなく、わずかにカーブを描きながら軌道を変えてくる。

まるでこちらの防御の隙を見計らっているかのような、狡猾な魔力の制御だ。


「前言撤回。……早めに勝負をつけないと、まずそうですわね」


舌打ち混じりに吐き出すと同時に、私は新たな詠唱に取りかかった。

けれど応戦しようにも、弾丸の速度は先ほどよりもさらに増し、わずかな予測の誤差で魔術がすり抜けてくる。


しかもその軌道はまるで意思を持ったかのように曲がる。数分――いや、数十秒か。


時間の感覚すら曖昧になるほど、私は集中していた。けれど、次第にこちらの詠唱が追いつかなくなり、息を整える暇もない。


まるで押し流されるように、戦況はじわじわと、しかし確実に、私の不利へと傾いていった。魔術の弾幕をすり抜けてくる弾丸が増えてきた。


一発目は盾でギリギリ逸らす。

二発目はサーベルで弾丸を切り伏せる

三発目は、詠唱が遅れ、咄嗟に身をひねることでなんとか回避。


(ーーこれは……キツすぎますわ……!)

四発目の弾丸は頬のすぐ横を風のように掠めていった。


「どうしたの? さっきの勢いはどこ行ったの?」


「うるさいですわねッ……!」


その間にもカーナリアは滑るように位置を変え、まるで舞うように銃撃を繰り返す。

水の魔術は柔軟だが、展開にはわずかに時間がかかる。対する彼女は反応が速く、動きが無駄なく洗練されていた。

その差が、少しずつ、だが確実に積み重なっていく。


「第一階梯ーー『バレットインクリース』」


軽い声とともに、カーナリアの銃が再び火を吹く。さっきまで一発ずつだったはずの弾丸が、今度は一度に二発、三発と飛んでくる。


魔法で強化された弾丸が風を裂き、角度を変えて左右から同時に襲ってきた。


(……ちょ、ちょっと待って……これ、まずいのでは……?)


思考が焦り始めた頃には、もう遅かった。


「ちょっ、まっ……!」


反応が間に合わず、魔術の展開が遅れた――その瞬間。

――バゴンッ!!

額に強烈な衝撃が走り、世界が一瞬揺れた。

視界の景色が歪んで、視界に星が散る。


「わわっ、大丈夫?」


慌ててカーナリアが走り寄ってくる

私は額を押さえてその場にしゃがみ込み、涙目になって訴えた。


「いってぇーですわ……頭蓋に響きますわ……っ!」


模擬弾とはいえ、容赦がない。普通に痛い。いや、めちゃくちゃ痛い。


「なにがともあれ私の勝ちだね、」


しばらく手で額を押さえたまま、じんじんと残る痛みに耐える。その間に、思考の隙間から、嫌な疑問が湧き上がってきた。


(……おかしいですわ。少し前まで、私のほうが実力上だったはずなのに)


カーナリアは、昔はもっと雑だった。弾の精度も、立ち回りも粗くて、真正面から受け止めれば私が勝っていたはず。なのに、今の彼女は――まるで別人みたいに強い。


(……いつの間に、こんな差が……)


今までは勝って当然だと思っていたのに、気づけば置いていかれていた。

胸の奥がひやりと冷たくなる。ヒビが広がり、今まで確固たるものだと思っていた自分の立ち位置が揺らぎ始めるような感覚に陥った。


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