6話 VSカーナリア・リベリウス②
授業中、私はぼんやりとノートに視線を落としながらも、実際には一ノ瀬に敗れたあの瞬間を思い返していた。
耳の奥で、彼女の冷たく、そしてどこか期待外れだと告げるような声が響く。
「こんなもんか」
あの言葉が、脳裏に焼き付いて離れない。
(ちょっと顔が整ってるからって、あんな余裕たっぷりの態度……悔しい、悔しすぎますわ)
私は握りしめたペンを、紙に突き刺さんばかりの勢いで強く押し付けた。
ノートには、無意識のうちに意味のない螺旋が力強く描かれ、刻まれている。
深く息を吸い込み自分を納得させるように心の中で言い聞かせる。
(いえ、魔術では負けてませんわ。あれはあくまで接近戦。そう、あれは私が油断していただけですもの。ええ、そうに決まってますわ。)
言い訳が脳内で自己正当化に変わっていくのを感じながら、私は仕方なく授業に集中するふりを続けた。
だが当然、そんな状態で内容が頭に入るはずもなく、ただ時間だけが過ぎていった。
そして昼休み、食堂に足を運んだ頃には、雑踏の中でようやく少し気持ちが落ち着いてきた。
温かなスープの香り、次々と席を埋める生徒たちの喧騒――いつも通りの日常の風景が、私の張り詰めた神経をゆるやかに解いていく。
(今朝はなんだか調子も悪かったし……いきなり頂点を狙うなんて、やっぱり無粋ですわね)
自分にそう言い聞かせる。
「――そういうことで、カーナリア、私と勝負しなさい」
私は対面で食事をしていたカーナリアの方へ、ビシッと指を伸ばした。
彼女はちょうどサラダを口元に運んでいる最中だった。
「……いや、どういうこと? お行儀が悪いよ、ミシェル」
ぽかんとした顔で固まるカーナリアに、私は真剣なまなざしを向けた。
「やっと調子が戻ったと思ったのに、急になに?」
「私と二位の座をかけて、勝負ですわ!」
私は改めて宣言する。
「あー、そのことね……うん、とりあえずご飯、食べちゃおうか」
カーナリアはため息をつきつつ、呆れたような顔をしながら勝負を受けることにしたようだ。その表情にはどこか楽しんでいる気配もあった。
カーナリアは最後のパンを指先で丁寧にちぎり、口元へと静かに運んだ。スープを一口すすると、ほっとしたように肩をわずかに揺らす。
「ご馳走様、よし。食後の運動にやりますか」
◇◇◇◇◇
「こっちですわ」
私はそう言うと先導して歩き出した。
アルトメギア学園には、戦闘訓練のための専用施設がいくつもある。
魔法・魔術を実戦形式で訓練できる場所で、戦闘系の学生たちにとっては第二の教室のような場所だ。その中でも私たちが足を運んだのは、特に広くて視界の開けた屋外訓練場。
白い石で造られた広大な空間は、陽の光を受けてきらきらと反射していた。
床はまるで磨き上げられた大理石のように滑らかで、足音が反響するほど整っている。
私は一歩進み、カーナリアの方へ振り返った。
「ルールは単純にしましょう。先に一撃を入れたほうの勝ち、でどうです?」
「りょ〜かい」
カーナリアは肩にかけていた魔導銃を静かに持ち上げる。
カーナリアがゆっくりと肩から外したのは、深い蒼を宿す長銃『オルマラキム』カーナリアの愛銃だ。
――銃身には精緻な術式が銀糸のように刻まれており、陽光を浴びて幽かに光を揺らめかせている。
マスケット銃の古風な形ながら、銃口には細工された魔力導管が走り、実戦用の洗練された造形が静かな威圧感を放っていた。
「こうして手を合わせるのも、久しぶりじゃない?」
カーナリアが笑いながら懐かしそうに言った。彼女が笑うと、私はわざと鼻で笑ってみせた。
「そうですわね。あの頃は私の全戦全勝でしたわね」
「今はそう簡単にいかないと思うよ」
カーナリアが銃を構え、点検を済ませる。
最後にカシャンとコックを引く。
私は魔力で体を満たして戦闘の準備を終える。一歩引き、手を前に掲げた。
「よーい、スタート!」
号令が響くと同時に、私は一歩後ろへ引いて魔力を巡らせる。
彼女の”魔法"は放った弾丸を自在に操れる。威力強化、加速、軌道操作――何度も戦った相手だ手の内はわかっている。
しかしそれはカーナリアも同じ、互いの手の内は知り尽くしてる。
だからこそ、この勝負、どれだけ相手の隙を突けるかにかかっている。
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