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4話 トリスマギア


「ミシェル、ちょっと、聞いてる?」


隣から響いた声に、私は思考の海から引き戻された。


反射的に首を巡らせると、カーナリアがジト目でこちらを見つめていた。少し不満げなその視線に、私は咄嗟に笑みを浮かべてごまかす。


「もちろんですわ、しっかり聞いておりますわ」


優雅に微笑んで返すものの、実際のところ、全く内容は頭に入っていなかった。


「ミシェルってさ、本当、生意気に育ったよねぇ」


カーナリアは頬を膨らませて、遠慮ない口ぶりで言う。その声にはからかいの色が混じっていた。


「なっ……失礼ですわね! 私がいつ生意気になりましたの!?」


思わずムキになって反論してしまう。とはいえ、心当たりが全くないわけでもない。


カーナリアはちらりと前方の子供たちに目をやると、悪戯っぽく目を細めた。


「どうせあの子たちより、自分の方が魔力あるとか思ってたんでしょ?  」


「ちっ、違いますわ! そんなこと、これっぽっちも……!」


慌てて否定したが、言葉の端から余裕がなくなるのが自分でも分かる。彼女はニヤリと笑うと、私の頬をぷにぷにと遠慮なく突いてきた。


「嘘つけ〜。邪悪な顔してたよ。

どうしてこうなっちゃったかなぁ? 昔はもっと可愛かったのに」


「今でも十分可愛いですわよ!」


むっとして言い返す。これ以上話題を続けたら、ますます調子に乗るに決まっている。私は強引に話題を戻した。


「それで、さっきの話ってなんですの?」


「ほら、やっぱり聞いてなかったー。もーう、ちゃんと聞いてよねぇ。……あのね、この学園のトリスマギアの噂、知ってる?」


「トリスマギア? なんですのそれ」


私は首をかしげた。中学生が考えそうなネーミングですわね……と内心で毒づく。


「私たちの学年で、最強と噂されてる三人のことだよ」


カーナリアはそう言いながら、私のほっぺたを再びぷにぷにと押す。私はそれを払いのけながら、あくまで冷静を装った。


「ふーん、そんなのがあるんですのね。……で、誰が入っているんですの?」


私は興味なさげに答えた。 まあ、この国トップの魔力量を持つ私なら、当然一位になってるに決まっている。私は心の中では確信していた。


「やっぱ気になる?」


「そ・れ・は〜」


カーナリアがやけにもったいぶった調子で言葉を切った。私は自分の名前が呼ばれることを期待し、じっと彼女の次の言葉を待った。


「まずは三位、プリファ・レロリウ。獣人の特待生。幻術が得意で、元は貴族だったんだって〜」


「ふんふん……」


プリファレロリウ。あの、いつもおどおどしている子かしら。

元貴族、一体何をやったら貴族から平民になるのかしら、と訝しむような感情が湧き上がってくる。私の家のように代々続く家系では、平民に落ちるなんて考えられないことだ。


「次は、一位の——」


「……二位はどこ行ったんですの!?」


思わず声を荒げてしまう。カーナリアは私の反応を見て、くすりと笑った。


「まぁまぁ落ち着いてよ、ミシェル。お楽しみは最後にってことで♪」


カーナリアは、私の焦りを見てさらにニヤニヤしている。完全に私の反応を楽しんでいるのがわかった。


(なるほど……先に一位を言ってから、サプライズ的に私が二位と明かすつもりなのですわね?)


「一位は、イチノセ・カエデ。東方の島国出身の転入生で、ソロでダンジョン25階層まで踏破したって話よ。」


「なっ……!」


それを聞いて、私は驚きを隠せない。25階層といえば、学園の上級生でも六人パーティーで挑むレベルの深層だ。それを一人で到達するなんて、一体どれほどの実力者だというのだ。


「……なるほど、それほどの腕の持ち主ならば、納得がいきますわね」


喉の奥から出た声は、自分でも驚くほどかすれていた。心臓は早鐘のように打ち続けている。


「で、栄えある二位は〜」


カーナリアが、満を持して声を張った。私は全神経を集中して、その名を待ち構える。


「この国の四大貴族の令嬢で……」


(わたしですわね)


「容姿端麗、成績優秀の……」


(わたしですわね!)


「この、カーナリアちゃんでーす」


カーナリアは、ダブルピースをしながら、満面の笑顔を見せた。


「……わたくしじゃ、ないんですの!?!?」


私の頭は真っ白になった。信じられない、という思いが全身を駆け巡る。


「へ?うん……そうだけど?」


カーナリアは、私のあまりの驚きように、少しばかりたじろいだようだった。


「ありえませんわ! 私が入っていないなんて、そんな非常識な選定、認めません!」


私は叫びながら立ち上がる。体の奥から沸き上がる怒りと屈辱に身が震えた。


「いやいや、本当だって! 先生たちもそう言ってたもん!」


カーナリアは、慌てて私をなだめる。しかし、その言葉は火に油を注ぐだけだった。


「そんな、先生たちまで……っ!」


沸々と湧き上がる不満が私の胸を満たした。この場に留まることなどできない。


「くっ、こうしちゃいられませんわ!」


この目で確かめないと気が済まない

私は叫ぶと、カーナリアに背を向け、道を走り出した


「ということで、ごきげんよう!」


残されたカーナリアは、私のあまりの勢いに、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「あらら、行っちゃった」


カーナリアの呟きが、虚しく響く。私は、トリスマギアの三人の情報を集めるべく、学園を駆け巡ることを決意していた。


このままでは、私の「完璧」な人生に、大きな汚点が残ってしまう。私を差し置いて、一体どのような存在なのか。

この目で確かめ、その実力を認めさせなければ気が済まない。




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