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11話 コネクト・レゾナンス


暇を持て余していた私が向かったのは、父の書斎だった。


書斎の重厚な扉の前に立つ。上質な木材で作られたであろうそれは、この屋敷の中でも一際存在感を放っていた。


扉を開ける。父は表では完璧超人の仮面をかぶっているが、その実、なかなかのズボラな性格だ。

そのくせメイドにも立ち入れさせないせいで書斎はまるで嵐が過ぎ去った後のように散らかっていた。


「き、汚い……」


私は思わず顔をしかめる。

床には書類の山が積み重なり、本棚の隙間には埃が溜まっている。

光沢のある手錠が無造作に床に転がっており、本の山の間から、使い古されたマグカップや、食べかけのビスケットが見え隠れしていた。


(やっぱりあの人、強すぎてどこかおかしいですわ。……普段は尊敬していますけれど、この部分だけは到底理解できませんわね)


私は呆れたようにため息をついた。

視線を巡らせると、そこには見覚えのある剣が無造作に転がっていた。


刀身は澄んだ黒色に輝き、まるで夜空の星々を閉じ込めたかのような神秘的な光を放っている。

柄には精巧な彫刻が施され、触れる者の魂を吸い込むような、畏怖すら覚える美しさを湛えていた。

その剣からは、並々ならぬ魔力が感じられ、単なる武器ではない、神聖な力を宿しているかのように思えた。


「あら、……これって、エウレシア国との戦いの功労で下賜された剣ですわね」


授与式で王から直接下賜された記事を見た記憶が思い出される。


「まったく、こんなところに落ちているなんて、不敬ですわ。あそこに立てかけときましょう」


そう思い床に転がっていた剣を両手で持ち上げようとする。


「おもっ!、これは無理ですわね」


そのずっしりとした重さに剣が持ち上がらない。仕方なく足で隅にどかし、私は本棚へと近づいていく。


「暇つぶしになりそうな本はないかしら……」


私は本棚の背表紙を指でなぞりながら、目ぼしい本を探し始めた。

いくつかの面白そうな物語や歴史書を手に取っては元に戻し、さらに奥へと手を伸ばす。

すると、手の奥に何かが触れた。それは、他の本とは明らかに違う、古めかしい装丁の魔導書だった。


表紙には、見慣れない複雑な紋様が刻まれており、触れるとざらりとした感触があった。まるで、何かの生き物の皮膚を加工したかのような質感だった。


「……初めて見る魔導書ですわね。黎明期の稀覯本かしら……。」


かつて別の国からやってきた賢者「クリストス」は、魔術を発明したと言われている。その際、彼は七つの強力な魔導書を創り出したとされ、それらが現代魔術の基礎となった。

今は簡略化され、学園の教科書にその教えがまとめられているが、当時は偽物も多く出回ったという話を聞いたことがある。


(暇つぶしにはちょうど良さそうですわね)


私は興味を惹かれ、その魔導書を手に取った。他にも面白そうな本をいくつか見つけ、足音を忍ばせながら自室へと戻る。

部屋に戻ると、扉を閉め、誰にも見つからないように鍵をかけた。


部屋に戻り、私はベッドに腰掛ける。私を受け止めるように沈む感触に、ほっと息をつく。早速持ってきた魔導書を広げてみた。


題名は読めない。古すぎて、文字が擦れてしまっている。埃っぽい匂いのするその本は、まるで私を待っていたかのように静かにそこに佇んでいる。


「えーと、なになに……。」


ページをめくると、丁寧に書かれた古めかしい文字が並んでいた。最初のページには、こう書かれている。


『ティオスの血筋を受け継ぐものよ。この書に記されし魔術は、失われた叡智なり。』


「ふーん、随分と偉そうな態度ですわね」


私は思わず口元を歪めた。誰に宛てたものかも分からない書物に、これほどまでに尊大な言葉が綴られていることに、私は鼻で笑う。


パラパラとページを捲っていくと、いくつかの魔術が図と共に載っている。

アイセリオン・クレーシス

セイア・ランブロテース

モルフェー・パーンソフォス

…………


この魔導書書かれている魔術は、どれも聞いたこともない常識を覆すようなものばかりだった。


私は、夢中になったかのようにその本を読み進めていった。そして、あるページで彼女の指が止まった。


「これは……」


その魔術のページには、コネクト・レゾナンスと書かれていた。

私は指でその文字をなぞり、その言葉を口に出して呟いた瞬間、まるで頭の中で何かが弾けたかのように、魔術の仕組みが鮮明に浮かび上がってきた。


「っ……! こんなの初めてですわ!」


私の顔に興奮と高揚が浮かんだ。


(これはすごい魔術書かもしれないわ……。偉そうとか言ってごめんなさい……!)


私は貪るようにその魔導書を読み進め、その魔術の習得方法や応用について没頭して考えた。


「すごいですわ……。この魔術を習得すれば……」


私はベッドに仰向けになり、手を頭上に伸ばし、拳を握る。


(私が天に立つ……!)


天井を見つめたまま、ある作戦を練り始めた。それは、一週間後に迫ったダンジョン攻略に焦点を当てたものだった。


作戦はまず、私を負かした四人をダンジョン攻略のパーティに誘う。

ダンジョン攻略でリーダーシップを発揮し、この魔術で私の凄さをアピールする。

すると四人が私の強さにひれ伏し、私がNo. 1になる。


(完璧ですわ!これで、誰もが私を認めざるを得なくなるでしょう。あの四人も、私に跪くことになりますわね。うふふ……私の天下は、もうすぐそこですわ!)


その考えに至った瞬間、私はふと顔を上げ、次の瞬間には満面の笑みを浮かべていた。


「――ふふ、ふふふ……あははははは!」


突如として響いた高笑いは、まるで物語の悪役のようだった。何日も沈黙していた部屋に、不釣り合いなほど明るい声が反響する。


しかし興奮が昂ぶりすぎたのか、喉が乾ききっていたせいか、私は勢いよく咳き込んだ。


「ゴホッ! ゴホゴホッ! ゲホッ……!」


その咳は、お嬢様らしからぬ豪快さで、

部屋に響き渡った。

だが、その咳が収まる頃には、私の瞳には再び、かつての自信と野心が宿っていた。


私の引きこもり生活は、この一冊の魔導書によって、終わりを告げようとしていた。

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