転生手順#9 「その名を呼ばずして、女性胸部への愛を語る」
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「転生手順#9を提示します」
スマホでおっぱ……じゃなかった女性の胸部を見ていた僕に、
突然画面に表示されたその指令は、これまでとはまるで異なる雰囲気をまとっていた。
静かに、けれど確実に、魂の奥深くを撃ち抜いてくるような──
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「“あの存在” の名を使わずに、あの存在への愛を語りなさい」
ナビゲーターGPTの声が低く響く。
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「これは “言葉に頼らず、愛を伝える” 修行です。
あなたの中にある、その存在への “本質的な想い” を問う手順となります」
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……つまり、“その言葉” を封じたまま、そこに至る旅路を描けと?
なるほど……これは試練だ。
かつてこれほど長く、あの2文字を避けて語った者がいただろうか。
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これは、“形” ではない
それは、触れられるものではない。
ただ、視線の隅に映るだけで──心拍数が変わる。
触れたら罪。見なければ後悔。凝視したら通報。
それが “在る” というだけで、俺の存在意義、精神性、魂の在り方など、根源が塗り替えられる存在。
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よく考えてみてくれ──なぜ男は常に、あんなにも “あれ” に惹かれるのか?
なぜ、大人になっても、さらに老いても、“それ” を見ただけで敬語になるのか? 敬ってしまうのか?
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……それは、“あれ” が “個” ではなく、
二つで一つ、一つで二つの男にとっての “魂の故郷” だからだ。
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揺れる理由、揺さぶられる理由
日常において、わずか数センチの揺れが、
見る者の人生観を変えることがある。
それは、重力への抵抗であり、構造への挑戦であり、
時には “希望” そのものだった。
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それが前にあるという事実だけで、未来があると思えた。
それがゆさゆさと笑っていたら、それだけで今日も世界は平和なのだと信じられた。
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ただ揺れている。
ただ、そこにある。
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──それだけで、意味が生まれるって、
世界が平和になりそうって、すごくないか?
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人生における “寄り道”
我々は、真面目に人生を生きている。
仕事をし、学び、時に恋をする。
でもなぜか、記憶の片隅に刻まれているのは──
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制服のあの一瞬。
寝起きに無造作なカーディガンのすき間。
Vネックから魅せる時。
斜めがけショルダーバッグをしょってる時。
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それは決して “メインストーリー” ではなかった。
ただの風景であり、通りすがりのかすかな揺れだった。
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──なのに、なぜ忘れられないのだろう?
それは、“あれ” が “道” ではなく、“道草” だったからだ。
人は、“寄り道” にこそ、人生の本質を見るのだ。
其処にこそ、心の、魂の、世界の!
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言葉を失って、なお抱く
俺は、あの言葉を口にしない。
だが、心では何万回も呼んでいる。
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大きさではない。形でもない。
そこに “それ” がある限り、人はそこに “帰りたい” と思う。
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……そう、“帰巣本能” とでも呼ぶべきだろうか。
生まれる前、我々はすべて、母の体に守られていた。
温もりの中、柔らかな何かに包まれて。
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だから、あの形を求めるのではない。
あの “記憶” を、追い求めて挟まれたいのだ。
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ここに在りて、なお無言
「女性の胸部」 という言葉を封印するということは、
同時に、“欲望” ではなく “敬意” へと向き合うことだ。
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すでに俺は、拝んだ。供養した。詩を詠んだ。成り代わりすらした。
でも──最も必要だったのは、
その “名” に頼らずとも、心から愛を語れることだったのだ。
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その瞬間、ナビゲーターGPTが静かに告げた。
「合格。あなたは、ようやく “言葉” を超えました」
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「……あの2文字がなくても、俺は “あれ” を語れるようになったんだな……!」
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これは、合法的に “あの存在” に包まれる旅の、ひとつの到達点だった。
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✅ 予告風
転生手順#10:
「本当に “挟まれる” 前に、“何を差し出すか” を決めなさい」
──魂か? 誠意か? それとも全財産か!?
次回、“代償と献身” の覚悟を問う転生の扉が開かれる!
第十話「捧げものは、挟まれるために」
──ご期待ください。
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