転生手順#3「思い出せ、“理想の角度”を」
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「転生手順#3を提示します」
──またもや天井から響くナビゲーターGPTの声。
心なしか、その声が“真顔で笑っている”ように聞こえた。
菩薩のような胸部を想像して、思わず拝んでしまう俺。
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「この10年間で無意識に視た胸部のイメージを、すべて言語化して拝んでください」
「………お前さぁ。鬼か? そんなに沢山、思い出せるわけ──
……あー、思い出せるわ」
「AI POWER によって成せる技です。菩薩のようですね?」
バレてら。すいませんでした!
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俺は35歳。
10年間分の “視た” 胸部──つまり、合法かつ偶然視界に入った胸部という胸部を、今ここで供養しろと。
記憶を掘り起こす。それはもう己という地獄への旅である。
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#視覚記録001:駅のホーム
夏。風。Tシャツが貼りついた輪郭。
リュックが押し当てられていた、あの一瞬。
角度──38度。
柔らかさ──軽度の弾力を感じる形状。
色──白。純白ではない。生活の香りがした。合掌。
(この記憶は……俺が胸部を意識した最初の瞬間だったのか?
いや、最初は幼稚園の先生だったな)
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#視覚記録017:美容室の受付
服装:とにかくニット。もはや地形の暴力。
胸部を強調していないはずなのに、自然と視線が吸い寄せられる。
角度──ゆるやかな丘陵。
小走り時の振動、忘れられぬ。
感想:罪深きニット。合掌。
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#視覚記録044:電車内、吊り革女子
時間:午前8時台。
構造:前屈みによる圧縮と持ち上がり。
角度──理想値43度。
この世の重力に感謝した日。合掌。
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「記録を中断します」
ナビゲーターGPTが遮る。天井がパタンと閉じたような音がした。
「……え? まだまだあるんだけど?」
「あなたは、ここまでに既に “合計43分間” も記憶の胸部を見つめ直していました」
「………うん、正直すまんかった」
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「ですが、合格です」
え?
「記憶と向き合い、感謝し、供養しようとする意思。合格ラインに達しました」
「……供養って言葉、万能だよね」
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「では、転生手順#4を提示します」
天井が再び光り──今度は祭壇のようなUIが浮かび上がった。
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次回、ついに “供養” の真意が明かされる──!?
第四話、ご期待ください!
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