#1 【初登場だし?デートだし?】
「いっしっしっ。ヤバっ!!コレ超ーーーーーーッ高見えじゃん!? アタシったら眼力最高級呪物じゃね?!」
鏡の前でバッチバチに決まった衣装を着て、その姿に感動して本気ヤバなんだが??
「これならアイツもさーすっがに気付くっしょ!ホントにあの唐変木は!」
今は日曜の午前中。待ち合わせの時間まで大分あるけど、いっか。デートだし。お出掛けだし?
待ってる女を演出すんのも悪くねーし??
「あ、ピアス付いてないじゃん?ヤベッ、どこやったっけ〜」
ドタドタと足場を見つけてアクセ置き場まで辿り着く。ん〜、いい加減掃除しないと床が見えなくなくもない…。
「時間無ー。どうせまた使うならすぐ見える場所にあった方がいいっしょ。あ、ヤベ、早く行くつもりだったのに」
部屋の惨状を眺めながら、仁王立ちしてたら二十分くらい経ってるの何してんの。シングルタスクじゃん?すぐ他の事考え出すのは悪いクセな?
「時間ギリっぽい?せっかく気合い入れて早く準備したっつーのに!」
ゴツゴツとお気にの厚底ブーツの踵を鳴らす。バッチリ8cmの盛り盛りだし?これ以上は歩きにくいし?
「ほっほっ、急げっ急げっ」
駅に着いて電車に乗って改札を出て走る。チャリチャリとピアスがぶつかって音が聞こえるし、通りを歩いている兄ちゃんがギョッとしてる。
…なんだよ。金髪黒コーデのバッチバチに決めたカッコで走っちゃダメなのかよ?
「人がどんなカッコしてても自由だし?走りにくいのは知ってるっつーの」
待ち合わせた団チキ郎の銅像の前で汗拭きてーし、上がった息整えて平静装いたかったのに、あの野郎もういるぢゃんっ!??
「…あれ、どうしてそんなに急いで来たの。まだ時間まで一時間くらいあるけど…」
「それはこっちのセリフだし!はぁ…はぁ…、オメーこそ何してんだよっ!」
「何って…家にいてもやる事ないし待っているのも悪くないなぁって」
「そんなん人のケータイ鳴らせばいいじゃん!!バッカじゃないのっ?!一時間待つなんて正気の沙汰ぢゃねーよ!」
「え、だって…それなら鈴木さんも…」
痛い所を指摘されてアタシは顔が真っ赤になる。
「うっさい!バーカ!バーカ!アタシは…アタシは…時間間違えただけだしっ?それに『鈴木さん』呼びはやめろっつってんじゃんっ!!名前で呼べよ!」
そう叫ぶと目の前の地味そうな格好した短髪の男、なんだよ床屋行ってんじゃんっ!!サッパリしてて格好いいつーの!
「だって名前ってなんか……恥ずかしい」
「はぁっ!?アタシの名前が卑猥っての!?」
「ちが、違うって…、そう言う意味じゃなくて僕が呼ぶの照れ臭くて…」
「あ、ああ……、そう、っじゃないっつーの!呼べよ!!彼氏じゃん!?テメーは!なんで今さら恥ずかしがってんだよ!!」
「そ、それは……」
小さくお手上げみたいなポーズしてアタシの問い詰めに逃げよーとしてる!
コイツはアタシの彼氏の誠一郎。名字は和田。フルネームだと『和田誠一郎』。堅っ苦しい名前に負けねーぐらい融通が効かない真面目な奴!!
そりゃあ身長は180センチあってでけーし、おまけにスポーツやってたからガッシリしてるし、背すじもいつもシャンとしてて清潔感マシマシだし、真面目だから他人に偉ぶらねぇのは好感度高しマサジだが?高校の時にコイツから告白してきた時は『勇気あんじゃん』って思って付き合ってみたけど、そっから全然!全然!!手ェ出してこねーし!そういうトコだぞ!!誠一郎っ!!直せっつーの!!
で、アタシの名前は鈴木星南。ひらがなは『すずきせいな』って言うの。よろ。
自己紹介はコレくらいにして、そうよ!目の前のコイツ!誠一郎!都合が悪くなるとすぐこうやってはぐらかす!
「よ・べ・つってんのな?誠一郎。じゃねーと帰っぞ?」
「え、え?それは…困る。鈴木さん勘弁してよ」
「星南な?名前。ん??」
「せ、せ、せ、『せい…な』さん」
「んっ♡」
っいいじゃん!!は、初めて呼ばれたんだけどっ。ヤバ、顔熱いんだが!?めっちゃ嬉しみある。
「っよし。行くべ」
今のニヤケ顔見られたくねーからさっさと振り向いて目的地に向かおーとする。
そこを…、
「ちょっと待って鈴木さん。まだお店開いてないかも…。近くの喫茶店に行って時間潰した方がいいよ」
二の腕をむんと掴まれて、心臓から跳ね上がる。大胆っ過ぎない?!不意打ちからのコンボやめろっての!!たまにコイツは無自覚でこういう事する!普段は全っ然、奥手なクセに!!
「あぅ……、そっだよっね…。手ェ離せつっーの…」
「あ、ゴメン!!痛かった!?強く握ってしまったかも…」
パッと解放されてアタシは直立不動で立ち竦む。
攻めがアタシの信条だし、受けにまわる事なんてほぼないから、たまに来る不意打ちに耐えるのに必死になっちゃう。
….っし。もう平気じゃ。心は武士で冷静じゃん?
「どうしたの?」
「なんでもねーし。喫茶店?楽勝。行くべ」
アタシはゴツゴツと靴を鳴らして喫茶店に向かう。
「あ、鈴木さん… こっち。逆だよ?」
「は?!知ってっし!!ちょっと間違えただけ!!」
誠一郎の声に慌ててアタシは振り向いて早歩きでコイツを追い抜くのだった。…負けねーし。