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農民の価値

 俺は門が開きる前に懇願する農民の元へ歩き始めた。もちろん後ろの護衛の兵士も金魚の糞のように一緒についてくる。


 農民たちが怖がるから付いてこないで欲しいのだけど。後ろの君たち剣持っているし。まあ付いてくるものはしょうがないし、止めたところで剣が弓に代わるだけだろう。


 案の定、自分らが近づいていくにつれ、農民達は怖がり始めた。




「カ……カエザル様ぁー!」




 一人の農民が俺の姿に気づいた瞬間、俺の名前叫びながら足の力が抜けたように恐れるように倒れこんだ。


 ――いや、怖いのは俺かい!民からも怖がれているのかい!




 騒いでいた農民達は恐れるようにして、一気に言葉を失うように静かになり始める。




 今まで農民の声で騒がしかった周囲は、物音ひとつすら聞こえなくなり、ただ、口を開けた城門が吸い込む風の音だけが冷酷さを表すようになり続けていた。


 静まり返った中、長老のおじいさんが悪くなった片足を引きずりながらも、農民の列から飛び出して俺の足にしがみつき、先ほどの兵士のように膝をつき涙ながらに訴え始めた。




「カエザル様!これは私、この老いぼれめが言い出したことです。ほかの農民は関係ありません。こいつらは私に付いてきただけなのです。」


「おい!そこのじじい!カエザル様に気安く触るとは、なんと無礼な!」




 俺の後ろにいた護衛の兵士は剣を振りかざして、刃を長老の首筋に沿わせ、さらに脅すように大声で怒鳴りを上げ始める。




「カエザル様になんという口の利き方!!その命、もうあると思うなよ」


「幾許ない私の老いた命で済むのなら、どうぞなさってください。ですが後ろにいる農夫や女子供だけには御慈悲を」


「カエザル様!この戯言を喚く首、今すぐに討ち捨てても!」




 兵士は首元に沿わせていた剣を上にあげ、大きく振りかざす。剣に反射した太陽の光が命乞いをする長老を照らし、長老は穢れた世界から自らを断つように目を閉じた。長老が悔しさに耐えるかのように強く唇を噛みしめた口元には一筋の血が流れ、来る運命を受け入れるようだった。




 俺は反射的に、自分の足にしがみついていた長老を蹴り飛ばした。長老は思いのほか宙を舞い、ほかの農民がいる元へ背中を打ち付けるようにして強制的に戻される。




 そして俺は、農民に背を向けて両腕を広げ、兵士への怒りの感情を抑え、声を荒げることなく淡々と兵士に命令した。




「ここにいる全兵士に告ぐ。今すぐ剣をしまえ」


「ですが……」


「もう一度言う、剣を収めよ!」




 俺が命令を下すと、全兵士は剣を鞘に戻す。今思えば、後ろにいる兵士はみな剣を抜いて構え殺す準備ができていたのだということを。




 俺が再び農民の方を向くと、蹴り飛ばされた衝撃で強打したのか腰を抑える長老と、長老を介抱するように背中をさすりながら支えている高校生くらいの赤い髪をした少女がいた。




 俺は長老に歩み寄り、長老に目線を合わせるようにしてしゃがみこんだ。赤い髪の少女の支えがなければ地面に倒れそうに痛がる姿を見て、大きく息を吸い込み目を閉じる。




 この腐りきったこの世界というゲームで、悪役のような”王女補佐官レルス・カエザル”の体でロールプレイするしか俺には生きる術がない。ゲームみたいにゲームオーバーしてリスタートという簡単な事ではない。死んだら終わり。次があるかもわからない。一つだけ言えることは、自分のちっぽけな命よりも目の前にいる人たちの命の方がよっぽど重く、彼らの死は自分の死をも意味する。




 俺は早々に一手目を討つことにした。

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