表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

王女への懇願

 慣れない身体で歩き続けるとようやく、太陽の下に出ることができた。地面よりかなり高い場所、ビルの三階くらいの高さ。周りを見渡すと宮殿を囲むように大きな壁がぐるりとそびえ立っている。




 俺が立っている場所も周りの城壁と同じ高さの場所で、目で遠くの城壁を自分の方へ追っていくと自分も城壁の上に立っていることが分かった。




 自分の頭上には青空が広がり、少し目線を下げると枯れかけた森と荒れた平地。もっと視線を下げると人々が暮らしているのであろう閑散とした街並みが広がっていた。




 目線を真下にやると、二百人は超えるボロボロの服を着た人の姿。彼ら農民は声を揃えてやつれた声で必死に声を上げていた。




「税をお下げください!王女様。飢え死にしてしまいます」




 農民の声に対して、隣の兵士は軽く笑いながら彼らを見下すような言葉をこぼした。




「今のエルタニア王国はカエザル様が導いていらっしゃるのに無礼にもほどがある。




 あんな怠けた王女に願うこと自体が違っている。ですよね?カエザル様」


 ――ということは、あの王女は怠惰な王女で国政に関して何も関与していない?カ


 エザル、つまり俺がこの国エルタニアの実質の支配者ってことか。




「そ、そうだな」


「ではカエザル様に無礼を働いた罪、私の手で……」




 兵士は背中に携えていた弓と腰にぶら下げている矢筒から、鋭利な矢じりがついた矢を取り出し、見張り台から目下の農民に矢を向け始めた。




「さぁ、一思いにご命令を、反乱する農民を一掃せよと!!」


「おいっ!!何するつもりだ!」


「カエザル様がいつもおっしゃっているではないですか。”反乱する国民には裁きを”と」


「だからやめろって!!」




 俺は、全力で弓を無理やり引きとり見張り台から投げ捨てる。俺は人の命がロウソクのように、目の前で簡単に消えていく非現実的な恐怖と苛立ちのせいと、鍛錬を積んだ兵士から力ずくで弓を引きとったせいで、息を切らし呼吸を荒げていた。




 呼吸を整えるために深呼吸をする。呼吸一つするたびに冷静さを取り戻していくのが自分でもわかる。


 俺は割り切ってしまった。これはゲーム、ストラテジーゲームなのだと。そして――




 ――俺がこの国の王なのだと。




 俺は今までにないくらい冷酷かつ冷静に怒りという器の蓋を閉じて、淡々と声にした。




「お前……」


「カ……カエザル様!!申し訳ありません。命だけは!!」




 声を震わせながら膝をつき俺に向かって土下座をする兵士。何におびえているのか、手に取る様に分かる。




 そう、俺にだ。




 俺の体であるカエザルがどういう人物で、どれだけのクソみたいな独裁政治と、圧政をしていたのかも今の兵士の行動と反応ですべてを悟った。




 ――ゲームでこういうクソムーブをすると、即効性もあるし序盤はいいけど後半になるにつれて、国力が下がってゲームオーバーになるんだよな。民衆のステータスを維持するのは定石だし、農民の反乱というマイナスステータスは、はっきり言って詰みに近い。




 俺は土下座している兵士の前でしゃがみこんだ。




「命だけはって、こんなことで人を殺すわけ、殺せるわけないじゃないか」


「え?」


「だから殺さないって。地面なんか顔をつけてないで、早く顔を上げて」


「あっありが…ありがとうございます」




 兵士は涙で汚れた顔を上げ希望に満ちた表情で泣きながら俺の足にしがみつき、何度もお礼を言っていたが、兵士がお礼の言葉を口にするごとに、俺は少し気恥しい気分になりつつあった。




 ――どこぞの時代劇かよ。早く泣き止まないかな。でも、こんな感覚ゲームじゃ味わえないだろうなー。




 兵士が泣いているのをなだめながら、彼が落ち着くまで待つことにした。


 五分くらいすると落ち着きを取り戻したようなので、俺は兵士に尋ねた。




「とりあえず、下の農民のところまで案内してくれないかな?」


「カエザル様自ら行かれるのですか?」


「ほかに手段が?」


「いえ、お連れいたします」




 再び長い廊下や中庭などを歩いている途中、俺の頭の中に一つの疑問が浮かんだ。




 王女を差し置いて俺、カエザルが実質の王なのに、下の農民はなぜ王女に助けを求めているのか。




 様々な考えを巡らせていると、あっという間に城門の前にたどりつく。すでに二十人ほどの兵士が俺の後ろを護衛するように付き、俺を城門まで案内した兵士は気づいた時には目の前からいなくなっていた。




「開門!!」




 一人の兵士が号令をかけると、頑丈そうな城門は、大きく不気味な音を立てながらゆっくりと開いていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ