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十二支⑧

 また斎戒。いや、斎戒ならむしろ引きこもってていいから勉強がはかどると思えば……いや、どうかな。


 同時に違う神さまの力を身体に宿すのは結構大変。斎戒も、身体の不浄を取り除くというよりは精神の不浄を取り除かなければならない。そこには欲が絡んではいけない。あくまで求める者に与える者になるための、清廉さが求められる。


 人の身に神力を宿し、神に等しくなる。コレが本当にできる人は国内でもわずかしかいない。


 その半数がウチにいるっつーね!意味分かんないよね!今井さん来たから増えたし!


 とはいえ、力をくれる神さまの方との親和性も大事。私と悠太、あとお母さんは年神さまなら誰でもOK。多分、今井さんもそうだと思う。


「ユッコひとりでホテル住まいは心配だから私もついてくわ」

「えっ、東京行くの!?俺も行きたい!!!」

「なら終わったらみんなで横浜のマサの実家に顔出しといで」

「お義母さん、いいんですか?」

「アンタたちは祭りの日にいりゃあいいから」


 というやりとりがあり、榊家(元は中村家でお父さんが養子縁組して榊に変わった)御一行さま、上京。結局、お母さんと悠太もご祈祷に参加することになった。交通費と滞在費はあちらさん持ちだからいいんだけど。久々に三日間の斎戒やったわ。


 新幹線とかで人の気に晒されるのはマズイので、迎えの車を用意してもらう。夜間に移動して、高速のトイレ休憩もなるべく人のいない小さなパーキングエリア。


 東京着いて仮眠して、そのまま儀式を執り行い、終わったらとりあえず用意された宿泊施設で泥のように眠る予定。


 お父さん?役に立たないけど同行してる。今井さん、バイト休んだって。滞在延長したよ。家庭教師してるらしい。別の日に振り替えてもらうって。生徒さんに申し訳ないな。


 祝詞奏上はなぜか私の役目に。なんで。跡取り娘だから?お披露目なの?


 現着して着替えを済ませると開会の言葉が終わったタイミングで会場に放り込まれる。夜間移動でヘロヘロになりそうなものなのに、神力に満たされているから問題なし。抜けた後がキツいんだよなぁ。


 特に何の紹介もない。当たり前だ。ここは今、神域となるんだから。神に捧げる言葉以外不要なのだ。


 と言いつつも、私や悠太みたいな子どもがいることに声には出さず驚いてる人もいる。新人議員さんかな?あ、私は子どもには見えないか。平均身長はありますからね。あとちらほら今井さんの顔を知ってたり事情を聞いたであろう人たちが彼を見ている。


 斎服、腹が立つほど似合ってんな。笏も持っちゃって平安貴公子かよ。あ、麿顔じゃないか。笏持つのは当たり前だし。腹立てたらダメダメ。平常心、平常心。ちなみに女性神職は檜扇という扇を持ちます。


 ばさりと装束と大麻(おおぬさ)をはためかせる。うっし。やるぞー、お仕事だ。まずは全員で二拝。そして修祓。これで全員を浄化し、神聖な空間を創る。


「かけまくもかしこき……」


 む。なんか変な感じがした。悪い感じじゃない。面倒な感じ。まあ、それなりに欲が渦巻く人がいるのは分かる。今井さんから発せられる空気は邪気が神力で相殺されているのか人酔いはしてないみたい。身内もいるからかな。大丈夫そう。それとも修行の成果なの?


 祓詞が終われば二拝、二拍手、一拝。ここからが本番。


 神さまへこの人たちの思いを言挙げする。一言一句たりとも間違えてはならない。降神し(すでにしてる状態だけど)、神に献饌し、祝詞を奏上、玉串を捧げ、撤饌したものを皆で分け合い、食することでその身にご加護を宿す。


 宿すんだけど……


「これのところをしましのほど、」


 ポンちゃん、なんでいるの?あ、日本酒開けちゃった。


「おっ、いいねぇ、いい酒じゃねえか!」


「いつのゆにわといわいさだめ、」


 ちょ、飲む気満々!やべ、お母さんから冷気が!邪気にならないのはさすが!


「はらいきよめて」

「おう、このスルメうめぇな。やっぱスルメはゲソだなゲソ。」


 うわ、スルメかじりだした。


「おこめおいしいでチュ!」

「このにんじん、甘いわぁ」

「む。鴨肉か。立派だな」


 ちゅーた、スズカ、トサカさん!?いや、トサカさんいいの!?鳥仲間じゃん!!


「ねえ、昆布で出汁取ってこっちの鯛で鯛めし作りましょうよ」

「お前、羊の姿のくせにシーフード好きだよな。俺も好きだけど」

「うさぎのくせにね!ねえ、ここで餅焼いてもいいと思う?」

「煙出て火災報知器鳴ってスプリンクラー起動一択だろうよ」

「レンチン茹で餅でもそこそこうめーぞ。雉肉かぁ、こりゃめずらしいもんよく用意できたな」

「うん、美味だな。できれば調理済みが良かったが。炭火焼きにして雉酒もいいな」


 メーコ、ピョン吉、モーさん、ロンロン、シロ、寅雄!?


「私は水でもいただこう」

「おう、お前も酒飲もうぜ」

「甘露ならば」

「うまいうまい。最近流行りの濃醇旨口ってやつだな」

「では、一献」

「果物結構色々あんな。栗食いたかったけど時期じゃねえか」

「あっちに松茸あったわよ」

「なに!?マジでか!!」


 いや、ポンちゃん、良識派アナを酒に誘わないで。蛇だけにウワバミだからなくなる。ウリウリ、それよりウチの山でトリュフでも見つけて!お金になるから!!温泉街の旅館に売りつけるから!!!


「ぷ」


 悠太ぁ!笑うんじゃない!


 このままだと撤饌できないじゃん!


「みとしかみの」

「はぁーい!オレでぇーす!」


 ピョン吉できあがってる!もうやだ!一応、今日が全国デビューってことでイヤイヤながら気合い入れて来たのに!!


「さきわいたまえとなかとりもちて、かしこみかしこみもまおーすー!」


 最後にゴルァ!!!と叫ばなかった私を誰か誉めて。どうしてこうなった。


「ん゛っん゛!お顔をおあげください。それでは皆さま、玉串をお捧げください」


 騒つく議員たち。そらそーだ。供物がどう見ても食い散らかされてる。酒瓶何本転がってんの?ポンちゃんが手ぇ使えない神さま用にどっかから皿持ってきて床に並べてるんだけど!?


「その前に一言ぉ!」


 しかも顕現してるし!御年神として今年の干支のピョン吉が代表して何か宣言しだした。小さくて見えづらいからか今井さんに自分を抱き上げさせている。ロンロンだって小型化してるんだからピョン吉も巨大化すればいいのに。


「あー、今日はオレらの可愛い由布子のデビュー戦だ。オメェらの選挙なんて知ったこっちゃねーが、由布子の婿がねにおたくらの仲間の孫を選んだんでな。まあ、祝いの席ってことで今日はサービスしてやる!大盤振る舞いだ!玉串寄越すついでにそれぞれの生まれの年神んとこ並べ!直接加護授けてやっからありがたく思えよ!」

「なにそれ!?斎戒と神下ろしの意味なくない!?」

「あんだろ。こんだけ神域に近い聖域創ったんだ。でなきゃオレらだってこんな大都会で気軽に出てこれねーよ」


 そういうもの?お母さんに助けを求めようとしたら苦々しい顔で言われた。


「私のときもこうだったわ。あきらめなさい」


 そんなぁ!!!


 子年の列。


「チュッ!キミは若くて熱い志を持っているでチュね!素晴らしいでチュ!政界の闇で黒く染まらないようにそのままでいてほしいでチュ!」

「は、はい。精進いたします」


 丑年の列。


「はぁ〜い、ごきげんよう!あら、アナタ福岡の方?あの方の神気がプンプンするわぁ。ブーストかけておくわね」

「恐れ入ります……あの方?」


 寅年の列。


「今日は祝いの席なので加護は授かるが、今一度己を顧みた方がいい」

「かっ、かしこまりましてございますぅ!」


 卯年の列。

「んだオメェ、シケたツラしてやがんな!オレらぐれぇの神気でひいひい言ってんじゃねえ!トップ目指してんだろ!?」

「は、はい!ありがとうございます!」


 辰年の列。


「君、スキャンダルに気をつけたまえ。女はまずいぞ。縁の切り方もよく考えた方がいい」

「はっ、はひぃ!」


 巳年の列。


「加護は万能ではない。自身の誠実さを保たれよ」

「承知いたしました」


 午年の列。


「オッサンばっかで飽きたわぁ。ハイ、もう済んだわよ」

「あ、ど、どうもありがとうございます……」


 未年の列。


「やだ、テレビで見るよりイケメンじゃなーい!ご加護増量しちゃう♡」

「はは、ありがとうございます」


 申年の列。


「よォ、史郎!お前、気張れよ!土地のモンがよそモンに負けんじゃねえぞ!」

「ポン吉さまぁ!ありがとうございますッ!」


 酉年の列。


「今回の選挙は苦戦を強いられると聞いた。我らの加護にふさわしき政策と君達の行動に期待する」

「お言葉ありがとうございます。ご期待に添えるよう、党一丸となって挑みます」


 戌年の列。


「よく分かんねーけど、ま、がんばって!」

「は、ご加護を授けてくださり感謝申し上げます」


 亥年の列。

「次ィ!ボーッとすんな!サクサク進めー!」

「し、失礼いたしました!」


 今井さんの列。


「直輝くん、驚いたよ。いや、サマになってる。ご婚約おめでとう」

「ありがとうございます、先生」

「君がこちらさんに婿に入れば我が党も当分安泰かな?なーんてな、ははは!」


 榊家の列。


「この度は誠に感謝申し上げる。年神様一同が会してくださるとは……あのとき以来ですな」

「ええ、本当に。神々のなさることは我々には止められませんから」


 ウチの選挙区、勝ちやすいと見たのか新興政党が知名度ある新人タレント候補者ぶつけてきたんだよな。同じ県内出身者ではあるけど、ウチのあたり全く縁がないはずなんだけど。ポンちゃん、村上先生に思い入れあるからな。先生の生まれた年に集落で他に申年の子どもいなかったらしいから。まさか政治家の娘さんと結婚して出馬するとか思ってもみなかったらしい。


 メーコは有名イケメン二世議員に絡んでる。確かにテレビで見るよりカッコいい。


 で。何で今井さんに列?というかほとんどこれ、結婚式披露宴の後のお見送りみたいになってんだけど。今井さんの横に須賀先生が立って、その横に榊家が立って、玉串奉納が終わった人から私たちに挨拶していく。意味不明。


 あ、あと斎主(いわいぬし)である総裁、現職総理大臣閣下もウチと一緒に並んでるけど。どういうこと?こんな騒がしい玉串拝礼の儀、初めてなんだけど。


「これにて加護を全員が授かった!悪さすっと反作用するからな!気をつけろよ!あ、あと酒美味かったわ。後日、ウチまで全種類ケースで届けるように!生酒でもいいぞ!オススメあったら送ってくれ!じゃあな!」


 ピョン吉は今井さんの腕からぴょんと飛び降りたと思ったらそのままポンと消えてしまった。他のみんなもそれぞれ別れの言葉と希望を述べて消えていく。まあ、この世のものではなくて、どこにでも在るんだから、どこに子機である実体が出て来てもおかしくないんだけど。


 おかしくないんだけど!


 おかしいでしょ!?


「皆、御年神の加護に背くことのないよう、精進していこう。そしてこの困難に打ち勝つのだ!」


 選局は危ないらしい。大臣数人やらかして更迭。民意を問うための解散総選挙だ。


「姉ちゃんさあ、気付いてる?」

「なに?」

「結婚の外堀、固められちゃったな。ガッチガチに!」


 そんなん気付いてるよ!絶対におかしい!!!

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