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十二支⑥

「え!?ユッコちゃんってウチの大学志望なの!?」

「はい、まあ。憧れの先生がいるので」

「へぇ、そういうので進路選ぶ女の子、めずらしいんじゃない?」

「そうですか?」

「俺、俺!OB!高校から!」


 あ、お父さんが戻ってきた。社務所待機はおじいちゃんとおばあちゃんか。おばあちゃんは早々に食べ終わってお父さんと入れ違いで出て行ってしまった。


 てなわけで、ランチタイムです。年神さまは子年のちゅーた、卯年のピョン吉、巳年のアナ、未年のメーコ、戌年のシロがいます。


「え、俺、小学校からです。ご実家どちらですか?」

「横浜!ユッコが五歳までは横浜に住んでたんだよ。なんだ、お前後輩か!何学部だ?俺は経済」

「あはは、そうなりますね。僕も経済です。ユッコちゃん、横浜生まれなんだ」

「今井さんのお家はどちらに?」

「僕、大田区です」

「あー、どうせ田園調布だろ?」

「はは、正解です」


 なんだっけ。田園調布に家が建つんだっけ?なんかそういうフレーズを聞いたことがある。高級住宅街だ。


「受験ていうからてっきり神道を学べるトコ行くのかと思った」

「それはそれで学びますけど、大学くらいは好きなこと学ぼうかと思って」

「なんでチュか!ボクたちのこと、ちゃんと学んでほしいでチュ!」

「いや、神道学部って別に神さまのことを学ぶわけじゃないと思うんだけど」


 もぐもぐ。唐揚げうま。なぜか我が家は素麺と唐揚げがセット。祭典前の潔斎期間以外は割と自由に食べている。神社によっては祀ってる神さまに合わせてアレはダメ、コレはダメがあるけど、牛、鶏、豚を避けてたら現代の食生活は何も食べられなくなってしまう。あ、羊もか。兎肉は……この国じゃマイナーだな。


「ていうか、東京に出てくるんだね」

「半分は横浜ですけどね。受かるか分かんないし」

「ん、来年なんだろ?待ってるよ」

「キャンパス被んないですけどね」

「たまにサークルで行くよ?」

「テニサーはチャラそうなんで入りませんよ」


 そう?楽しいよ?って、そこで色々問題起きてんでしょ。絶対に入らんわ。


「内申は足りそうなんで、とりあえず推薦で受けます」

「そっかぁ、ユッコちゃんは優秀なんだね」


 それ、自画自賛してます?小学校からの持ち上がりボンボンに言われたくないけど。


「でも、二年しか一緒に通えないのか。残念だな」


 いや、だからアナタその頃には東京の校舎ですよね?それに受かるか分かんないっつってんだろ。推薦ダメなら一般入試受けるけどさ。


「俺の家に住む?きっと両親も歓迎するよ。ウチ、男兄弟しかいないから。母が娘に憧れてて」

「いや、男兄弟しかいないところに住みたくないです」

「ユッコは俺の両親の家に住むからな!貴様の出る幕はない!!!」

「お父さん、やめなさい」


 父方の祖父母は今も横浜に住んでるから、来年の春からはそこでお世話になる予定。大学がどこになっても多分。


「何学部志望なの?」

「文学部史学科です。日本史好きなので」

「史学科かぁ。友だちもいるよ」

「内部生なら大体どっかしらにいるだろ」

「親父、見苦しいよ」


 お父さん、さっきから今井さんに突っかかってくるなぁ。今井さんは苦笑している。


「お義父さん」

「お前の父親じゃないッ!」

「え、でも……」

「マサでいいわよ」

「弓子!?」

「マサさん、脱サラして神職ってめずらしいと思いますけど、どうしてここを継ごうと思ったんですか?」

「ええ?あー、それはだな」


 お父さんの語りが始まりそうになったところをお母さんがぶった斬った。


「悠太が生まれてすぐ、喘息持ちなのが分かってね。ちょうどキャンプやら家庭菜園やらなんやら、スローライフにこの人がハマッてたから、空気のいいところに引っ越すぞ!とか宣言して。せっかくだからついでにココを継ぐって言い出したのよ」

「そうだったんですね」

「私はあっちにいたかったんだけどね」


 お母さんはね。都会に骨を埋めるつもりでお父さんと結婚したから。あのままあっちに住んでたら、誰がここ継いだんだろ?


 お母さんが商社マンだったお父さんと結婚したのも、海外転勤がありそうだからっていうしょーもない理由だと聞かされている。お父さん、それ知っててお母さんと結婚するとかすごいわ。んで、期待裏切ってるし。その代わり、年に一回海外旅行連れて行かされてるけど。


「でも、いいとこです、ここ。いい意味で、人と人の距離が近くて、穏やかで、心地い……ひっ!」


 シュルシュルと舌を出しながらアナが近付いてきたもんだからまた今井さんは固まってしまった。気絶は免れたから耐性がつき始めたんだろうか。


「予言する。お前の祖父が近いうちにここを訪れ、我々に(こうべ)を垂れることだろう」

「え、年神さまってそんなこともできるんですか?」


 おお、普通にアナと話してる。進歩が早い。順応性が高いのか?恐怖心は見えるのと見えないのとでは違うってメーコも言ってたけど。あと、まともに話ができるってのも大きいのかな?アナは知性派で言葉遣いもお上品だし。神さまっぽいというか。半分以上がヤカラとかオネエとかぶりっこだもんな。


 てか、予言なんて初めて聞いた。


「いや、今テレビでニュースを見た。解散総選挙だそうだ。お前の祖父のいる政党が政権を取られそうだとな」

「あ、そういう」

「あら、大変。準備しとかなくっちゃ」


 なるほど。仕事が舞い込んでくるな、こりゃ。


 ウチはどの政党を贔屓とかそういうのはしない。依頼があれば平等にその神力をお裾分けする。選挙って掻き入れどきなんだ。その年の年神さまと、自分の生まれ年の年神さまの加護を与えるんだけど、悪意……邪気とも呼ぶものが多い陣営はご加護があっても負けるのよ。それを凌駕する選挙のプロでもいない限り。誰とは言わないけど。


「忙しくなるわね。今井さん、手伝ってね」

「あ、はい。何をするか分かりませんが」

「今井さんって、干支は?えっと、ミチカさんのひとつ上でわたしの二つ上だから……」

「ふ、干支とえっと、かけてる?」

「違います!!!」


 たまたまだよ!はっずかしー!オヤジギャグかましたみたいになっちゃった!


「メーコだな」

「うわ、納得」


 あー、メーコ、今井さんが自分の年生まれだから入れ込んでるのか。いや、そんなことないな。イケメンならなんでもいいんだ、メーコは。


「じゃあ、メーコの神下ろしは今井さんね」

「神下ろし?」

「そのまんまです。神さまの依代となって、お守りとかお札に神力を注入します。ただその神力は神さまが私たちの霊力を彼らの神力に変換したものなので、使える神力の量は私たち依代の霊力量に依存します」

「う、ううん?」

「まあ、要するに、お守りとかの中身の御神璽(ごしんじ)に御霊入れをするんですよ。よそのお社でもやってることです。あ、お守りのこと売るって言わないでくださいね。御霊をお分けするんです。間違えちゃいけませんよ」

「さっそくいい感じに尻に敷いてんな」

「シロ。おかしなこと言わないで」

「あはは!でも、かかあ天下の方が家庭はうまくいくって言うよね?」


 なんで今井さん年神さまの言うこと聞き入れてんの?冗談でもやめてほしいわ。


 本気じゃないよね?


「修行も学業と並行してやるんじゃ、忙しいんじゃない?」

「僕、サークルも辞めます」

「そうした方がいいわ。自衛も大切よ」

「いいの?つまんなくね?せっかくの大学生活なんだから楽しめば?イケメンなんだし。入れ食いなんだろ?」

「悠太!」

「できれば恋して彼女が欲しかったけど……女の子、やっぱ怖いし。こうして優しくて可愛い婚約者ができたから、もういいんだ」

「あ゛!?」


 お父さんの方が反応早かった。声に出しそびれた。


「あの、年神さまの言うことを間に受けなくても……」

「ユッコちゃん。俺、立派な神主になれるようにがんばるよ。あ、でも資格って……」

「推薦状は用意する。講習会でいい。通信教育もあるがな。いくつか方法はある」

「そうなんですね。あとで調べよ」


 え、ちょっと待ってよ。いや、別に私らが結婚しなくたってよくない?私と同等の霊力って言ってたから、本庁からの囲い込みがあるんじゃないの?ウチ、本庁から睨まれるんじゃない?霊力高いヤツひとり占めすんなって。


 今でも私ら姉弟のどっちか寄越せって言われるのに。まあ、悠太は都会で暮らす気満々だから悠太が本庁に捕まりそうだけど。


 本人?嫌がってる。別に神職が嫌なわけじゃない。パリピになりたいだけだ。チャラリーマン目指してるんだ。


「姉ちゃん、良かったな。イケメンの婚約者ができて」

「良くない!!!」

「素直じゃねえなー」

「ユッコは頑固でチュ」

「俺、ユッコちゃんに認めてもらえるように修行がんばるよ」

「そういう意味で言ったんじゃない!!!」

「俺は認めん!認めんぞぉ!!!」


 榊由布子。十七歳。高三受験生。


 神さまのせいで、婚約者ができました。


 私だって恋愛したいのに!!!!!

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