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十二支④

「でもねぇ、都会だと暮らしにくいんじゃない?人の悪意とかが渦巻いてて。人混み行くと気持ち悪くなったりしない?」


 メーコの言葉は正しいと思う。我々榊家の人間も、霊力故に人が多いところ、曰くのあるところ、歴史の長いところは色々なモノの影響を受けやすい……が、悪意と呼ばれるものは大抵蹴散らしている。年神さまの加護、サイコー。


 あ、お父さんみたいな根明で思考が単純な人は影響を受けにくいんだけどね。


 今井さん、こう見えて繊細なんだろうな。


「なります……。パニック障害じゃないかって言われたことあるんですけど、違うんですか?」

「身体症状は同じだろうけど、人へも精神感応性が高いのよ、アナタくらい力があると。ユッコたちみたいに力を抑え込まないでいれば、そういうモノだって自覚も出来たと思うけど、今までは何が何だか分からないまま気持ち悪くなったりめまいがしたり動悸息切れしたりしてなかった?」

「ありました……今でもあります…… 大学入ってから特に多くて」


 意外に苦労してきたんだな。イケメンだと同性からも妬み嫉みが多そうだし、下心持って近付くミチカさんみたいな人も多いだろう。キャットファイト起こるレベルのイケメンだもん。


 いや、ただのイメージだけど。


 力を無理矢理抑え込んだ上に見えざるモノへの恐怖心、ついでに幼い頃から染み付いた繊細さで元々人の悪意に敏感。


 役満だわ。麻雀知らないけど。


「それまではなんともなかったんですか?」

「うん。そこまでじゃないかな。昔から人混みが苦手なのは確かだけど」

「女の子に囲まれてるときとかに多くない?」


 今井さんはメーコの言葉に同意した。今回ミチカさんの誘いに乗ったのも、かなり迷ったらしい。ミチカさん、サークルで嫌われたりしてない?大丈夫かな?


「それだけイケメンだと女の子からの秋波とか、女同士が牽制し合うドロドロした感情とかは日常茶飯事じゃないの?」

「かもしれません……なんか、ようやく腑に落ちました」


 やっぱイケメンなのは否定しないのか。図々しいのか?


「俺、中高ずっと男子校だったんで。小学校の頃は太ってたし、そういうのはなかったんですけど。大学入ったらやたらとモテるようになって。女子、怖いんです。俺が女子と話してると背中に般若背負ったように見える人もいるし。中には小学校一緒だった人もいるのに、手のひら返したように……正直、女性不信で。」


 うわぁ、怨念集めて悪霊生むレベルのモテっぷり。今井さんの通ってる大学もいいところだしなぁ。将来有望な人ばかりだろうけど、同じレベルならやっぱり顔で選ぶんだろう。性格も悪くはなさそうだし。ちょっとナル入っててビビリだけど。


「特にサークルの女子がヤバくて……〝私たちの今井くんなんだから関係ないやつ話しかけないでくれる!?〟とか言ってんの聞いちゃって……小学生かよ!小学生の頃は俺なんて見向きもしない、キモいクソデブとか言ってたくせに!!」


 ハイ、裏声で声真似入りましたぁ!今井さんやっぱ天然だな、天然なんだな。


 身体的特徴を(あげつら)っていじめてはなりません!って、イケメンかよってのもおんなじか。悪いことしたな、心の中で謝っておこう。ゴメンナサイ。


「酒井さんも、俺の学年の女子に、〝後輩のクセに今井くんに馴れ馴れしいくしないでよね!〟とか言われてて……でもどうしても来たくて、こっそり携帯で連絡取り合って、今回ここに来たんです。でも、酒井さんも酒井さんで俺と連絡取ってること匂わせして、他の女子になんか言われても勝ち誇った顔して……そういうオーラが出てて。本当は彼女と行動するのも怖いんです」

「ミチカ、親呼び出して説教コースね」

「それもう確定してる。」

「なら、ポン吉にぶちのめしてもらいましょ」


 それはアリ。でも、メーコの口で言うことじゃないなぁ。


「どうしても来たかったって、どうして?」

「年神さまのお陰で志望大学に受かったって言ってました。酒井さんは神さまを心から信じているようだったので、それを否定できればかなり自信がつくんじゃないかと……」

「思って来たら、打ち砕かれた。ってことですね?」

「う、うん……」


 しょんぼりと肩を落とし、頭を抱えてしまった。落ち込むのは勝手にやってくれ。それよりもやらなきゃいけないことがある。


「今井さん」

「うん?」

「布団から出てください。シーツと枕カバー、洗濯したいんで」


 掛け布団にはつかなくてよかった。念のため防水シーツと防水マット敷いといてくれたお母さん、GJ!


「あ、ごめん。自分でやるよ」

「あなたが今すべきはシャワー浴びて着替えることですね」

「キヨシの服で悪いけど」

「パンツは新品だよ。クソダサトランクスだけど」


 マサフミの使い古しボクサーよりいいでしょ?中学生の悠太じゃサイズ合わないだろうし。じっちゃんの謎セレクトのトランクス。なんでいつもこんな派手なんだろう?


「パ、パンツは汚れてないからいいよ。上だけお借りします。」

「メーコ、お風呂場まで案内してあげて。私、ここ片付けるから」

「ええ。ナオキくん、私に乗ってく?」

「あ、それはさすがに」

「なぁんだ、残念。イケメンに跨がれたかったのに」


 語弊がある。今井さん、さりげなくメーコがセクハラしてることに気付いて。


 そういや小さい頃はよくメーコやウリウリに乗ってたなぁ。力があるから多分今跨っても負担にはならないと思うけど。悠太なんて学校遅刻しそうなときは今でもロンロン乗ってってるみたいだし。私?ちゃんと通ってるよ。遠いけど。先に家を出るから悠太が本当にロンロンに乗ってるのかは知らない。けど、近所のおじさんおばさんたちがたまに空飛ぶ悠太見かけるって言ってた。


 え?事情知らない人に見つかったらどうするって?誰も信じないでしょ。ここに来る農協の人はここ出身だし。


 脱衣所に洗濯機があるから今井さんのシャワー中に突撃するのもしのびなく、外の水道で先に手洗いして、彼が出て来たのを確認してシーツ類を洗濯機に放り込んだ。


「あのぼうや、どうしたね」

「あ、おばあちゃん。今メーコと客間に戻ったよ」

「ふん。どうしてくれようかね」

「そういや、どうして今井さん客間で寝てたの?」

「アナ見て座ったまま気絶した」


 なるほど。アナに会った記憶は飛んでそうだな。


「年神全員呼んで会議するぞ」

「今井さんどうすんの?」

「面通しする」

「また気絶しない?」

「水ぶっかけて起こしゃいい。夏だしすぐ乾くだろ」


 服、今洗濯中だけどね?その前に。


 お昼前。酒井のおばさんとおじさん、カズヒロさんとヒロコさんがやってきた。お詫びの品が軽トラ一台分用意するあたり、事態の深刻さを物語っている。


「娘が大変申し訳ないことをぉっ!」

「ミチカはちょっと考えなしだねえ」

「あ、あの、僕、同席していいんでしょうか」

「いいんじゃないでしょうか」

「ミノルは?」

「おじいちゃんはまだおばあちゃんと農作業中」

「お前ぇ!反省せいっ!」


 あーあー、もう。境内で土下座。脛、痛くないですか?


「年神が話があるってよ」

「し、神罰は、神罰はご勘弁をォッ!!!」

「農作物には、農作物にだけはァッ!!!」

「ミチカはどーでもいーんかい」

「あ、ポンちゃん」

「ポン吉ぃ!!!」


 振り向くと年神さまが全員顕現……つまり、誰が見ても見えるような状態になっていた。神力使うから滅多にやらないんだけどね。あ、それぞれの年の新年と年末は顕現して寄り合いで酒盛りする神さまいるけどね。ポンちゃんとかポンちゃんとかポンちゃんとか。


「俺たち別に怒ってねーよ」

「そうそう。本庁にも感謝されると思うわよ」

「メーコッ!」

「やだ、ハツコ。そんなに怒んないでよ」


 ヒッ!という息を飲む音と共に今井さんは立ったまま白目をむいて気絶した。器用だな、この人。ちなみに悠太は一回帰って来てすぐ部活に行ってしまった。


「今井さん、今井さん、しっかりしてください」

「ハッ!ひぇぇ!!……あ、ドラゴンかっこいい」


 おい。心配して損した。ホント、残念イケメンだな、この人。


「なんだ、ロンはよくて私はダメなのか?」


 シュルシュルと今井さんの身体をのぼって首に巻き付いたのは巳年の年神さまのアナ。母命名でアナコンダから取ったらしい。神さまだから性別は関係ないんだけど、イケボの白蛇だ。金目がチャームポイント。アルビノじゃないよ。


 ヒュッ!となってまた気絶。メーコ、どさくさに紛れておしり舐めないであげて。ズボン汚れるから。あ、汚れないか。年神さま、別に生き物じゃないし。


 アナは今井さんに巻きついたまま酒井家のみなさんに話を始めた。


「我々は感謝している。霊力が由布子に匹敵する人のオスを連れて来てくれたことを」

「ミチカ、よくやったわね!」

「モー子さまぁっ!!!」


 いやいや。そこ褒めるトコじゃないし。本人迷惑だろうし。


「で、では、お許しいただけるので?」

「年神が許してもワタシャ許さんよ。余計なことしおって」

「ハツコさん、そんなぁ!」


 おばあちゃんに逆らえる人、集落にいないからね。じっちゃんと集落の長ミノルじいちゃんは兄と弟の関係でいつもえばってるけど、実際はおばあちゃんが全部取り仕切ってるから、この辺。


 だって、年神さまのご加護、減らされたら困るでしょ?農家さんたちは。土地神さまではないんだけどね。「お前らいるなら休暇取るわ〜!旅でもしてこよ〜!」ってお母さん生まれてからこっち有給休暇中らしい。


「や、ハツコ。この件はオレらの顔を立てて許してほしい」

「シロ?」

「ていうかね、満場一致なのよ」

「スズカ?」

「霊力の量」

「その質」

「年の頃合い」

「どれをとってもピッタリだもの。見た目もイケメンだし」

「そこは好みというものがあるだろうが、私も悪い話とは思わない」

「あとは本人次第だな」

「そこは演出次第だろ。な、由布子」


 え?私?


 自分で自分を指差してみれば、年神さまはうなずいた。なんかやな予感。


「俺たちは」

「ワタシたちは」

「由布子の婿に、コイツを推薦する!!!」×12

「ハッ!」


 タイミングよく正気を取り戻した今井さん。全く話についていけてない。


 気絶したままでよかったのに。

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