4. 「熱線が一閃」
「じゃぁアヴィス、行ってらっしゃい」
カンテラを揺らしながら、自分を抱き締めた母の言葉に頷いて、台座を上る。
アヴィスの前に判定を受けた少女····フランが、すれ違いざまにアヴィスに「頑張って!」と囁いて、ホッとした様子で村の人達の群れの中に消えた。
怖くもなければ、なんの気負いもないはずだった。···だが、どうしようもなく足は震える。
その震える足で低い階段を上り、台座に立って、一人の男と向かい合う、〝導道の魔術師〟···名前はフリッツ。
毎年この村で判儀式を執り行っている術師だ。
「次はアヴィスか」
「あ、はい」
「そうそう、別に大した事しないから、リラックスしてもらっていいよ····毎回言ってんのに、なんか皆固くなっちゃうんだよね」
フリッツはそう言って黒のローブをバサつかせながら、手足と手首を念入りにストレッチした後、アヴィスの頭にそっと手を乗せた。
村の人達の視線が、自分とフリッツに集中するのを感じながら、アヴィスは心を落ち着かせようと保つ。
緊張するなと言われたが、なんとも難しい話だ。
「〝才ありし子の力を照らせ【ポテスタス】〟」
自分の体を、フリッツの操るエーテルが駆け抜けたような気がした。頭に乗ったフリッツの手が、淡い光を放つのを感じながら、目を瞑る。
「うん、【モンド】、綺麗に見抜けた····」
少しの期待と不安を感じながら、フリッツの言葉を待つ。
「君の才能は·····
《熱界の魔術師》だ。」
◇◇◇
「熱界の、魔術師·····?」
「非常に珍しい能力だ·····僕は見たことが無い。魔術師になることを強く進めるよ、まぁ強制はしないけど。」
村人達の拍手に迎えられながら、アヴィスは、何が何だか分からないがまま台座をおりて、母の目の前に立っていた。
母は、何も言わずにアヴィスを抱き締めた。
「アヴィスー、お疲れだな」
そう言って、抱き締められたアヴィスに片手を上げたウォルターが続ける。
「次はアベルだぞ」
見慣れた薄氷色の頭が、灯りに照らされた夜を進んでいた。
「君の才能は·····〝氷雪の魔術師〟だ。おめでとう」
〝氷雪の魔術師〟、元素と天候の両方を操れる強力な魔術師だ。アヴィスは、ニヤッと笑って拍手した。周りの人達も拍手した。
戻ってきたアベルは、自分の両親と抱き合った後、フッと笑ってアヴィスとグータッチした。
§
「なぁ、〝役目〟ってどんな感じなんだ?」
右手の指で、自分の〝魔石〟を弄り回しながら、アベルに聞く。
「どんな感じ·····って言われてもなぁ」
考え込むアベルの額に埋め込まれた薄氷色の水晶が、太陽の光を受けて煌めく。本人の中性的な美貌と、薄い蒼の髪も相まって、とても絵になる。
「なんていうか·····しなきゃいけないというか、した方がいいかな、っていう感じ。道に線が引いてあったら、なんかそれに沿って歩きたくなるだろ?あんな感じかな」
「めちゃくちゃ分かりやすい説明をどうも」
右手の〝魔石〟を、天にかざす。
『魔術師になりたければ、この魔石を持って僕の所に来るといい、次の月までこの村に泊まっていくから、決めるならそれまでにね』
····そう言って、フリッツが手渡していった灰色の魔石は、渡された各々の手の中で、個別に色と形を変えた。
アベルの額の宝石と、自分のを見比べる。
氷の結晶の様に角張ったカットのなされた、アベルの薄氷色の石と違って、アヴィスの魔石は楕円形で、血のように濃く黒い赤だった。
「〝熱界の魔術師〟·····」
フリッツは経験豊かな導の術師だ。
この村だけでなく、各地様々な場所で儀式を執り行っている。
そんなフリッツが知らない才能····。
〝熱界の魔術師〟。熱界·····?熱界ってなんだ?
魔術師の肩書きは、生まれた時から決まっていると言われている。ただ、どんな導の術師でも、産まれたばかりの子の才能を見抜くことは出来ない。
それは小さな花の芽の様に、時間をかけて育っていく。
そして15の歳を迎えた頃、ようやく導の術師が見ることのできる花をつける。
燃えるように赤い魔石を太陽に翳しながら、アヴィスはまだ迷い続けていた。




