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熱界の魔術師  作者: 鰹会
1. 《熱界の魔術師》
2/14

1. オブシディアン



 昔昔のお話──。


まだ人間という生物がこの世に生まれていなかった神代の時代。


 魔力に満ちたとある土地に、四人の兄弟がいた···。


長男の名前は〝イグニス〟勇猛果敢で、四兄弟の中でも最も強かった。


次男の名前は〝アクァ〟知的聡明で、四兄弟の中で最も頭が良かった。


三男の名前は〝アーエール〟温厚篤実で、四兄弟の中で最も客観的に物事を捉えることが出来た。


四男の名前は〝テッラ〟泰然自若で、四兄弟の中で最も度胸があった。


 兄弟はそれぞれ、太古の神々によって創られた魔剣を持っていた。


〝イグニス〟は、焼き尽くす《(ほのお)の剣》。

〝アクァ〟は、流し呑み込む《(さざなみ)の剣》。

〝アーエール〟は、天を駆ける《(とどろき)の剣》。

〝テッラ〟は、大地を鳴らす《(やま)の剣》。


そしてある日の事、長男の〝イグニス〟が浜辺を歩いているt───「ちょっと待って!」




 「どうしたの、アヴィス」


 椅子に座る金髪の女性は本を閉じて、布団を顎まで引きあげた少年───アヴィスの質問を聞く。


「その四兄弟は誰から生まれたの?」


「それはね·····」


女性は眼鏡をかけ直して、分厚い本のページを捲る。やがて目当ての頁を見つけたのか、息を一つ吸って話し始めた。


 「人間が生まれる遥か前の、古代の神々がいた時代·····よりもさらにずっと前、まだこの世界ができる前の時代。」



「アストラ・ドミナートルという名の神がいました。そのころの世界にはまだ海しかなく、退屈したアストラは、その海に住んでいた〝スパチュラ〟という名の怪物に戦いを挑みました。〝スパチュラ〟はワニのような姿をした巨大な怪物です。」


「アストラと〝スパチュラ〟は、互いに一歩も譲らずに、激しい戦いを続けました。神にとっては一瞬の、しかし人間にとっては長い長い時間が過ぎました。アストラは犬の姿に変身して、ついに〝スパチュラ〟を仕留めたのです。」


「アストラは〝スパチュラ〟の大きな死体を、神の魔法で土や石、鉱石などに変えて、一つの巨大な山を作りました。····しかし、アストラは〝スパチュラ〟によって右足を食いちぎられていたので、酷く疲れていました。」


「そこでアストラは、ちぎれた自分の右足に神の魔法をかけて、代わりに仕事をしてもらう事にしました。まず最初に生まれたのは、アストラの右足から流れ出た灼熱の血でできた〝イグニス〟でした、次は·····─────」



 ····かつて世界は、海と、大きな一つの山だけがあった。


〝イグニス〟が、その大きな山を、《炎の剣》で横に切りとばし、今の俺達の住むデノセゴア大陸ができた。そして、切り飛ばされた山の上の部分は、未開のオリゴー大陸となった。


〝アクァ〟は、そうやってできた大地に水を湧かせ、川を作った。

〝アーエール〟は、雨を、雪を、雷を降らせた。

〝テッラ〟は、どこまでも平坦な大地を、隆起させ、地形を作った。


〝イグニス〟が持つ《炎の剣》は、どんなものなのだろう。

〝テッラ〟はどうやって地形を作ったんだろう····。



「〝スパチュラ〟が死ぬ間際に流した涙が海に落ちて、この世界に海水という概念が生まれた·····あれ、もう寝ちゃった?」


 どうやら子供にはつまらなかったようだ。

寝ついた少年を起こさないように椅子から立ち上がり、女性はランプの灯りをそっと消した。


 「·····」


何事か寝言を呟いて、アヴィスは寝返りをうった····。




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