今すぐ結婚してと逆プロポーズされたけど、いくらなんでもまだ早すぎる。だって俺達まだ高校生じゃん?
秋風が徐々に冷たくなり、冬の始まりを感じさせる今日この頃、俺はいつものように同じクラスの男友達と下校する――そのはずだったのだが……。
何の間違いか今、俺の目の前に学園一の美少女と名高い桜宮紬が頬を紅潮させながら立っている。
僅かに吹く風が彼女の金色の髪を揺らし、うるうるとした蒼い瞳が俺を見つめる。
場所は屋上、時は放課後。
これは絶対俺への告白だ! 間違いない!
今朝登校した時に下駄箱に入っていた、俺をこの場所に呼び出した一通の手紙、あれはラブレターだったのか!
この時、俺の中では確信に変わっていた。
返事はもちろん決めている。余裕でオッケーするに決まってんだろ!
あとはその瞬間をジッと待つのみ。
やべ、緊張してきた……。
「桐谷和也さん、わ、私と……今すぐ結婚してくださいっ!」
「――はい喜んでっ! ……へっ?」
返事をした後に気がついた。
今なんか、結婚がどうとか言ってなかった……?
「ありがとうございます! では今から一緒に婚姻届を取りに参りましょう」
聞き間違いじゃなかったぁ……。
「ちょっと待ってもらえます?! 結婚とか聞いてないよ?!」
「ちゃんと伝えましたよね? そしたらオッケーしてくれたじゃないですか」
「そ、それはそうなんだけど……」
彼女が言ってる事は間違ってない。
間違ってないのだが……いや、付き合ってくださいって告白じゃなかったんかぁーい……。
告白されると思い込んですぐに返事ができるように集中していた数分前の自分を殴りたい。
時よ巻き戻れ……。
「け、結婚はいくらなんでも早すぎませんかね……?」
「あれま、婚約破棄なさるおつもりですか? だったらこっちにも手はあります」
そう言って彼女は屋上のフェンス前にあるベンチに向かった。
――ってあれは! ビ、ビデオカメラ……?!
「ここに証拠はあります。他にも、これとかその他諸々」
ドヤ顔でブレザーのポケットからボイスレコーダーを取り出して見せつけてくる。
「婚約破棄したいのならご自由に。ですが、その時は手段は選びません」
「とは、どういう事でしょうか……?」
「慰謝料請求しちゃいます」
「いや、用意周到すぎな?! え、何? まさか俺、嵌められたの?」
結婚詐欺ならぬ婚約詐欺ですか?!
あなた名家のお嬢様ですよね?! あの南条グループと並ぶ桜宮グループのご令嬢ですよね?!
そんな慰謝料要らなくないですか?!
「そんなわけないじゃないですか。オッケーしてもらえたんだから私は本当に和也さんと結婚するつもりですよ?」
「お、おう……そうか」
どうしてか、胸がドキッとしてしまった。
がしかし、どう考えても結婚とか早すぎる。
……抗え、抵抗するのだ俺よ。
「あのぉ……結婚には年齢制限がありましてですね」
「それなら大丈夫です! 私達は高校二年生なわけですから、十六歳にはなってます」
「それは女性の場合ね?! 男は十八歳になんなきゃ結婚できないからね?!」
「……ちょ、ちょっと待ってください。今調べます」
と、桜宮はスマホを取り出して操作し始めたと思ったら、急にその場に崩れ落ちた。
「マジか……やっちまいましたね。これじゃまだ結婚できないじゃないですか……」
「おう、そうだな。ってわけでひとまず結婚の話は無しって事で――」
「――そうゆうわけにはいきません。今はまだ結婚できないだけであって、将来的に私と和也さんは結婚します」
「そ、そんなに俺と結婚したいわけ……?」
だとしたら、その理由こそ知らないが異常なまでに好意を抱かれているわけだし、悪い気は全くしない。
俺としても、桜宮紬の容姿に関しては直球だろうが変化球だろうがドンピシャど真ん中のストライクになってしまうほどには好みだから、将来的な結婚なら考えないでもない。
まぁ、今ここまで関わってみたところ、大分頭のネジはぶっ飛んでそうだけど……。
「はいっ、でなきゃ今すぐ結婚してくれなんて言ってませんよ」
そう言って桜宮は微笑した。
「……そっか、分かったよ。じゃあ、今すぐには無理だけど、将来的な桜宮との結婚、考えてやるよ」
そう言いながら、未だに地面に膝をついている桜宮に手を差し出すと、彼女は俺の手を握って立ち上がった。
「『考えてやるよ』ではなく『してやるよ』って言ってほしかったんですけど……」
桜宮は頬を膨らませてジトッと俺を見つめてくる。
「うぐっ……分かった、言いますよ。……桜宮紬、お前と将来結婚してやるよ」
……言っちまったああああぁ!
クッソ恥ずかしいんですけどこんな事言うの……。
「これで私達二人の間では婚約成立ですね! あとは後々お互いの両親に伝えて正式決定という事で!」
楽しげに笑う桜宮を見ていると何故だかこっちまで楽しくなってきてしまう。
これから俺達は、お互いをちゃんと知る為の時間を過ごしていく事になるのだろう。
桜宮のまだ見ぬ可愛いところとか、それから未知なる頭のネジの外れ具合とか……。
俺には桜宮について知らない事が多すぎる。
だからこそ楽しくなってきているのだと思う。
「今日は十一月二十二日、良い夫婦の日ですね! てなわけで今から婚姻届を取りにいってそのまま提出しちゃいましょう!」
ほらな? 早速ぶっ飛んでる。
印鑑持ってないし未成年だから親の承認ないし、その他諸々の理由で提出しても受理されねーからな?
また一つ桜宮紬という子について知れた気がする。
だから、いくらなんでも気が早すぎるって……。
だって俺達まだ高校生じゃん?
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