5話 家庭教師な使用人
また日が空いてしまった……。
のんびりとは言ったけれども1話の文字数も多くないですし、二日に一回くらいのペースを心がけたい……。
一歳になってひとりでに喋るならまだしも、会話を成立させてしまい、一週間ほど「神童」なんて騒がれてしまった。だが一応結果として木剣は与えてもらえたからまあよしとしよう。
私が喋ったことに騒ぎすぎて剣が欲しいと言ったことが忘れられていたらしく、アメリアを通じて父に再び伝えてから三日後に私の元に届いた。
前世だと木剣程度なら一日もかからずに手に入れられたが、私の背丈にあって短いというだけで三日もかかるだろうか。
これもおそらく魔法の発展による剣術の衰退のせいだと思われる。魔法が誰にでも使えるものになったなら、剣を使う意味も無くなってくるのもわかる。
普段の生活にも魔法が使えるというのも便利だが、魔物と戦う時はもちろん、対人戦でも遠くから敵に攻撃をできるのだから剣は必要ないと思うのも道理だろう。
これでアメリアの「剣は護身用くらいにしか需要がない」発言にも納得がいく。
敵に近づかれるなら剣は必要かもしれないが、逆に言えば近づかれなければいい話だし、そもそも相手が近づいてこないということも考えられる。
ただ、前世で剣を修めた者としてここまで剣が廃れているのは悲しい気持ちがある。
三男だから家を継ぐということはないだろうし、将来は家を出て行かなければならず、その自己防衛手段には剣を選ぼうかなとは思っている。今でも剣は好きだし極めたのだから使いたい。
「アレク様はそんなに剣がお好きなのですか?」
短い木剣でもこの体では十分すぎるほど重い。動けるようになり、剣を与えられたのならそれはもう振るしかないだろう。身体強化をしつつ筋肉をつけるのも兼ねて剣を振っていたところ、アメリアにそう言われた。
「えほんのなかで、けんでドラゴンにとどめをさしていたから」
前世で剣士に命を救われて憧れたから、なんて言えるはずもなく、まだおぼつかない口調で適当に考えた嘘でごまかしておく。
だがアメリアはその橙色の髪が私の顔に当たるくらい近づいて、深い知性を感じさせる水色の眼で私の目を覗きながら「う〜ん」と唸る。
「やっぱりアレク様は頭が良すぎます」
むぅ、と頬を膨らませ、ふう、と一息つき、今度は笑顔になって言った。
「では、そんなアレク様にご主人様からの許可もいただいたので魔法の使い方をレクチャーして差し上げます!」
「れくちゃー?」
「教えてあげます!という意味です!」
おお、それはありがたい。一人では魔法の使い方がよくわからなかったから教えてもらえるというのは助かる。
「では、庭に出ましょうか!」
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子爵家、ということもあり、ケルヴィン家は大きい屋敷はもちろん、広くて立派な庭も持っている。
地理的にこの領地はアルネスト王国の東端で、カルステア帝国と面している。そのせいもあり、ケルヴィン領には帝国の住民もそうだが、帝国からの使者や重鎮、また王国から帝国への使者重鎮もこの領に訪れる。
ケルヴィン領と帝国間は馬車で一日なので、地位あるものはケルヴィン領およびこの屋敷でもてなされ、王国へ、帝国へ向かう。
そのため屋敷内はもちろん、庭も腕の立つ庭師を雇い、日頃から整備されているのだそうだ。
庭の中にある横に長い二人がけの椅子、「ベンチ」と呼ばれたものに腰をかける。
「いきなり魔力制御、なんて言われてもつまらないと思うのでまず魔法の仕組みについてお話ししましょうか」
アメリアの言葉にうん、と頷く。
魔法と魔術の違いについてはあの本で分かったが、やはり根本的な部分では分かっていない。もっと魔法の原理がわかっていれば使えるという可能性もあるし、何より知的好奇心が知りたいと叫ぶ。
昔賢者に魔法理論は聞いたことがあり、あの時はさっぱり理解できなかったが、ある程度知識がついた上に、魔法が発達してる故賢者よりわかりやすい説明が聞けるかもしれない。
「そもそも魔法とは、私たちの周りにたくさんいる精霊さんに魔法を使ってもらって、その対価として魔力を支払うといういわば物々交換なのです」
ほう、すでに賢者よりわかりやすいし、その上面白い。
「まわりに?」
私たちの周りに精霊はいる、と言われたが、精霊らしい存在なんて見えない。不可視の存在?
「精霊さんたちはとても気まぐれで、普段は姿を見せてくれないんです。精霊が見える人や話せる天恵持ちもいるらしいんですけど、今は置いときます。たまに気に入った人、魔力の質がいい人とかには姿を見せることがあるらしいんです。精霊さんからしたら魔力はおやつみたいな物なので、美味しいおやつをくれた人にはお返しの魔法以外にも姿を見せてあげちゃおう!なんて考えなのかもしれませんね。高位の精霊さんとなると常に人に姿を見せていることもあるらしいですけど。高位精霊さんを信仰対象とする国もあるくらいですしね」
ほう、普段は見えないがどこでも魔法が使えるあたり、たしかにどこにでも「いる」のであろう。
精霊なんて前世で身も聞きもしなかったが、どこかでもしかしたら出会っている人がいたのかもしれないな。
「そして精霊さんには属性というものがあります。アレク様ならお分かりかもしれませんが、火、風、水、土属性ですね。前にお話しした魔法適性というのは、正確にはその人の魔法の適性ではないんです。魔力がどの精霊さんに適しているか、精霊適性というのが一番的確でしょうか。教会での魔法適性というのも五歳になればある程度魔力が付くので、精霊使いの方にそれぞれの精霊さんを集めてもらい、その精霊さんに適性を見てもらうという感じなんですよ。だから教会に行かなくても魔法を使えるくらいに魔力制御ができるなら適性判断はできちゃうんです」
なるほど。やはりアメリアはものを教えるのがかなり上手だな。面白い上にわかりやすいのでもっと聞いていたくなる。
前世では考えることは嫌いで、無心で剣を振ることが多かったのにこんなにものを考えられるようになったし、より知識を深めたいと思うのはこの新しい身体の影響なのかもしれない。
「そしたら次は魔法の使い方ですね。魔法の使い方自体は先ほど申したように、精霊さんに魔力をあげれば使えるんですけど、もちろん魔力をただ放出するだけでは精霊さんは答えてくれません」
ここは納得できる。身体から出た魔力が全て精霊に渡るなら、私は何度も魔力放出を続けてきたので魔法の一度や二度出てもおかしくない。
しかも魔力が流れるだけで魔法が発動するなら事故も多く起こるだろうし、なにより不便すぎる。
「魔法を使いたい、という意思を精霊さんに伝えるのが詠唱です。詠唱を含め、魔法を発動するにはプロセス、過程が何個かあるんですね。まず魔力を発動したい場所に集め、このくらい、という規模は魔力量で調整します。魔力を集める時に、渦巻かせたり、練って魔力を濃くしたりすると精霊さんたちが寄ってきます。そして、こういう魔法を使いたいのでお願いします!という魔法の説明と使うという意思を示すのが詠唱の本当の姿なのです!なのでもちろん複雑な魔法や規模の大きい魔法を使う時には、魔力を大量に練らないと精霊さんたちが寄ってきませんし、詠唱も長くなってしまう、という欠点もあるんです。だから魔法は便利だけど万能ではないんですよ」
魔力を集め、精霊を呼んでから詠唱による魔法の説明とお願い、これが魔法の一連の流れということだな。
魔力を集めたい場所に集め、練る、という動作が必要だから魔法には魔力制御が必須なのか。
やはりわかりやすい。教師の才能をかなり感じるのだがなぜ使用人なんかしているのだろう。その才能を見越して雇っている、というのなら父の目はかなり慧眼だな。
「ではアレク君、何か質問はありますか!」
アメリアも教師気分を楽しんでいるのかもしれないな。
「さっきいってた『せいれいつかい』ってうのは?」
「たしかに魔法使いも広い目で見ると精霊使いとも言えますもんね。精霊使いというのは、精霊と契約してその精霊の力を借りて魔法を使うのが精霊使いです。もっと厳密に言えば、精霊と契約するのは心がつながっている状態なので、魔法を説明するプロセス、詠唱がいらないんです。さらーに細かいところまでいくと、精霊使いは定期的に魔力を与える、という契約をするので、魔法の対価、使用者の魔力はあまり必要としません。なので魔法お願い!という魔力だけを払って、残りは大気中の魔素を使って魔法を使う。これは使用者だけの魔力での魔法ではないので、『精霊術』なんて呼び方をします、なんて流石に難しいですかね」
その場所にいる毎回別の精霊と魔法を使うのが魔法使い。
契約した精霊とだけ魔法(詳しく言うなら精霊術)を使うのが精霊術師、ということだな。
「……なんか理解してそうですね。やっぱりアレク様って頭良すぎる節ありありですよね」
「あ、あとまえにまほうつかってたときの、まほうじんは?」
「本当にこの子は一歳児なのかしら、と考えてしまうアメリアなのであった」
「まほうじんは?」
「あ、ああ魔法陣ですか。魔法陣は精霊さんが魔法を使う手段、といったところでしょうか。実は魔法陣のことはあまり解明されてなくて、精霊さんが魔法を使う時に現れる模様を魔法陣と呼んでいるだけなんですよ。ですけど今代の賢者さんは稀代の天才と言われていて、魔法学会も魔法陣の研究を進めているみたいなので死ぬまでには解明されているかもしれませんね!」
正直一番気になっていたところがまだわかっていないらしかった。
わからないことは怖いことだが、今までいろんな人が使ってきて問題がなかったのだろうからきっと大丈夫ではあるだろう。
「では、魔力制御のやり方から説明していきますね——」
アメリアの家庭教師はまだ続く……。
そういえばアメリアさんの容姿について書いていなかったので、付け足し感はありますが書いておきましたー。
アメリアには秘密ではないですが、ちょっとした能力があります。このこともそのうち書くのでよろしくどうぞ(?)




