10話 アメリアの魔術講座
ぐおおおまた遅くなってしまい申し訳ない……。
世界観構築も進んできたので、やっと話を展開させていけるかなと思っている所存です。
「じゃあ次は安定して二つ同時に出せるようにした後、温度を変えられようにしましょうか」
母はそう言って次の指示を促したが、その言葉の抑揚でゲイルに対する驚きと喜びが透けて見えた。
両手に別々に浮かぶ二つの魔法ははっきりとそこにありはするが、安定はしていない。
どれだけそれが難しいかはきっと一生理解できないだろうが、あれだけゲイルが練習してやっとできたのに、それでもまだ安定していないということは私には想像もできないくらい難しいということだろう。
一度魔法を消してはまた二つの発動を試みる。ある時は成功し、ある時は失敗する。
何度も試行錯誤するゲイルを尻目にアメリアを呼んで屋敷に帰りたい旨を伝える。
飽きた、というのもないと言えば嘘になるが、単にこれ以上ゲイルを見ても何も学べることがないと判断したためだ。……もちろん私の力不足により。
まだ私は一歳児だし見ているだけなのが飽きたと言っても何らおかしな点はないだろう。
子供というのはわがままを自由に言ってもある程度は許されると思うとこの子供の身体も悪くない気がしてきた。
アメリアは母に一言声をかけ、一度頭を下げてからこちらに戻ってきた。
「ではアレク様、屋敷に帰りましょうか。帰ったら何をしましょう?」
そんな話をしながら屋敷に戻り、その日はアメリアから魔術を学ぶことになった。
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「本来は一歳児に魔術を教えることはおかしいのですが、というかそもそも一歳児がこんなに話せるのも本を読んでいるのもおかしいのですが!」
アメリアが突然大声を出し始めたが、それで大声を出されている私の身にもなってほしいところだ。
話せるものは話せるから仕方ないし、一歳なのに自我があるのはあの神の仕業だからあいつに言って欲しい。
「まあいいです。アレク様なら魔術のこともおそらく理解できるでしょうし説明して差し上げます」
そう前置きを置いてアメリアは話し始めた。
「まず魔術とは、一言でいうのなら精霊を介さない魔法のことです。もちろん精霊を介しませんから属性はつけれませんし、魔法陣は魔力を効率よく現象に変換できるものという研究結果は有名ですから、魔力効率も悪い。常に魔物や他国からの侵略に備えなければならないこの時代では魔法を好む理由は多かれど魔術を好む理由はほとんどないんです。ですが魔力適性が距離魔法に向かない人や近接戦を好む人は身体強化などの魔術を好んで使う人もいるんですよ。ですが魔術を使う人は酔狂者なんて言われることも多いんですけどね」
魔法と魔術の違いは本で読んだしアメリアもそれを知っているはずなので、本に書かれていなかったことを中心に話してくれている。
いつも思っている気がするのだが、アメリアは過去に色々あったみたいだし物を教えるのもうまいし、知識も豊富で魔法の腕も立つと聞いた。どうしてアメリアは使用人なんて立場に収まっているのかが本当に不思議でならない。
「魔術は意外と便利な物なんですけどなんで魔法使いたちは魔術を嫌っているのか不思議ですよね。私も結構魔術は使っていて、身体強化とかもっと使えば自己保身もできるし世の魔法使いたちはプライドばかりで意外とバカなのかもしれませんね」
アメリアは時々魔法使い軽視発言をする傾向があるのだが、なにか魔法使いたちに恨みでもあるのだろうか。
だがそれを本人に直接聞くのは本能が怖がって無理な話である。前世でも誰にも戦って負けない自信はあったが、女にだけは勝てる気がしなかったな。
戦うとは別に本能が女と対立するのを怖がるのだ。
「ではでは、その種類は無数にあれど、私が知る限りの魔術をアレク様に教えてあげましょう!」
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魔術を教えるにあたって、家の中では少し不都合があるというので、屋敷近くの森に来た。
屋敷はケルヴィン領で一番栄えているタナトスの街の近くに位置しており、屋敷はタナトスの街への短い道を除いて森で囲われている。
森は魔獣の住処というのは前世でも今でも常識なのだが、魔獣群生地と屋敷の間には母の貼った結界があるので安心らしい。
アメリアはあんな大口を叩いてはいたが、アメリアが知っている実用的な魔術はそれほど多くはなかった。そもそも実用性のある魔術というものが少ないので教えることも少なかった。
有用だと感じたのは、私が元から知っていた身体強化、魔力斬に加えて、魔力が通るものを頑丈にする物質強化、部分的に魔力を集めることで傷口部分を活性化させて治す治癒魔術、魔力を薄く往復させるように広げて魔力あるものを感知する探査魔術。こんなところだろうか。
前世での魔力の認識は身体強化できて才能があれば魔法を使えるくらいの認識だったが、今ではこんなにもいろいろな使い道があるとは驚きだ。
身体強化、魔力斬は使えるので置いといて、物質強化、治癒魔術、探査魔術をアメリアから教わることになった。
というか、剣から魔力を飛ばすことは思いついたのに剣を強化することに気づかなかったのが不思議でならない。
「物質強化は、うーん、説明通りですよ。魔力が通る物質に魔力を込めれば物質は強化されます。例えば……私の杖を使って試してみましょうか。杖は魔力を精霊に渡しやすくするためのものなのでもちろん魔力はよく通るように作られています。杖に魔力を込めずにこの木を叩いてみると」
そう言うとそばにある木に向かって杖を振り始めた。
杖が折れないくらいの調整はしているだろうが、そんなに強く木を叩いたら……
「いったぁ!」
……そりゃ痛いに決まっている。アメリアは知識は豊富だがこういうことが結構あって、バカだ。天然なのである、この子。
「使用人たるものこのくらいの痛み……!」
アメリアはもはや何と戦っているのかわからないな。使用人が痛みに耐えるのが常識というのはありえないだろうが、アメリアは痛みに耐えてきたのか、適当言っただけなのか。おそらく後者だ。
「こほん、では物質強化を杖にかけて同じ木を叩くと……」
次も同じように木に向かって杖を振り、今度は振り切った。
叩かれた気が真っ二つになり大きい音を立てて倒れた。
アメリアはそうなることをわかっていただろうが、少しだけ自慢げな顔をしている。
「これが物質強化です。杖の硬さが上がるので、かけてないときよりも強く叩いても折れないっていうことですね」
これは簡単そうだ。
持ってきていた木剣を出し、魔力斬が剣に纏わせるのに対して、剣の中に魔力を流し込む。
これでできたと思うのだが、私のこの身体の力ではどれだけ丈夫な剣を使っても木を倒すことはできないので、身体強化も同時に使って近くにある木に向かって振り抜く。
「な……アレク様はもう魔術の同時発動ができるのですか!?」
アメリアを少しばかり驚かせてしまったらしい。確かに一歳児が魔術を使う時点で驚きなのに同時発動なんて普通の一歳児がしたら私だって疑う。
「やはりアレク様は普通じゃないですね。ですがこの調子なら三男と言うことで少しだけ将来を心配してましたがそれももはや不要な心配……!」
「つぎ、おしえてもらってもいい?」
「あ、はいじゃあ次の魔術に行きましょうか」
アメリアはすぐに自分の世界に入るがこうして一言言ってやればすぐに帰ってくるのはいいところだ。
「治癒魔術は特に密度を濃く正確に傷口に循環させる必要があるので少し難しいんです。なので先に探査魔術をやっちゃいましょう。探査魔術は魔力を薄く広げて帰ってくるときに魔力を感知できる、というものです。細かく説明するのはちょっと面倒で、実際に使えれば仕組みはわかるようになると思いますよ」
こいつ、説明を投げ出したぞ。言語化するのが難しいのか面倒くさいのかはわからないが、まあできればわかると言うのならいいか。
魔力を薄く広げると言う部分はわかる。だが帰ってくるというのがよくわからない。
魔力は離れても操作できるということか?
言われた通りに魔力を広げてみるが、広げた魔力はそのまま大気に霧散して消えていく。
「最初は範囲が小さくてもいいので、自分を円形に囲むように魔力を張ってからそこで波が引き返すような感覚でやってみてください!」
そういってアメリアが一度見本を見せてくれた。
確かに魔力の流れは広がってから何かにぶつかったようにアメリアの元へ帰っていっている。
最初は小さくてもいいから、私を囲む魔力の壁で跳ね返ってくる魔力の波を——。
「お!そうですその感じです!それをもっと広い範囲でできるようになったら探査できるようになります!」
これをもっと広い範囲でできるようになるのには時間がかかりそうだ。
本に剣に加えて探査魔術練習がこれからの日課に加わりそうだ。
今広い範囲でやろうとしても帰ってくる感覚をうまく掴めず、霧散して失敗してしまう。
なのでこの魔術は要練習だな。
「これだけ何度もやって切れないアレク様の魔力は底が知れませんね。では治癒魔術をお教えして今日はお開きにしましょうか。そろそろ暗くなってきた頃ですしね」
そう言われて日がだいぶ傾いてきていることに気づいた。
昔から集中すると周りが見えなくなるとは何度も言われてきたが、今世でもその性質とは付き合っていくことになりそうだな。
みんなも画面の前でサイリウムを振って作者を応援しよう!
みんなの応援があれば作者は強敵(現実、社会、理不尽、疲労、時間etc...)に勝てるかもしれないぞ!!
と、こんなことを考えるくらいには作者は終わってきてますが次話も見ていただけると光栄です……。




