表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お風呂シーン。

作者: 三郎

あらすじを見てからお楽しみください。


「名栗…?」という少し怯えた声が響く。


 声の方向に目を向ける。

 すると湯気の中に綺麗な肩と鎖骨のラインがぼんやり見えた。

 その声は間違えなくここに来てからなんども聞いた声。


 楓だった。


「ちょ待って!なんでお前ここにいるの?!」と俺。

 おいおい待て待てって。

 ラッキースケベと言ってもこっちも無防備じゃなんともならんやろうが!あ?


 「こ、こっちのセリフよ!変態!」と楓。

 二人しかいない環境にパシャンという水の音が響く。楓が肩を沈めたのかもしれない。よくあるラノベ描写では、ヒロインがお湯をぶっかけるというものだが、現実では違うらしい。


 「違うって!言われたんだ!ここが風呂だって。」と屋内から対応する。

 そう、俺は導かれるしてここに来たのかもしれない、じゃねえよ馬鹿。


 ちなみに既に屋内に撤退ずみだ。ぎりぎり声の聞こえる距離に立っている。寒い。ぼんやりとしか相手の姿は見えない。


 「う、嘘つきなさいよ!館の人が嘘つくはずないでしょ!変態!」と楓。変態言うな!

 「本当だって。あとで確認してみろよ!お前地図音痴だろ!へ、変態はお前かもしれないんだぞ!」

 地図音痴は、事実。「は」ってなんだよ。俺は何もやましいことはないぞ。

 

 「な、なわけないもの!変態はとりあえずあんたでしょ!地図音痴ではあるけど……。」と楓は叫ぶが、声が少しずつしぼんでいる。


 お前ちょっと自信なくしたろ?


 というかなんで変態は確定してるんだよ。そこは揺るがない事実なの?ねえ!


 「わかったよ。とりあえず帰るから。ごめんって!本当に。」


 今のごめんは見たことを謝ったのだと自分を無理やり納得させる。見てないけどね!湯気と暗さが見えないけどね!


 そして俺が脱衣場への撤退を開始しようとしたその時、

 「ちょっとまって。」と楓が呼び止める。


 「なんだよ今度は。悪かったって。」と俺はあくまで加害者側で応じる。

 あくまで加害者側で応じるってあるものかよ?


 「……いいって」と楓が何かをつぶやく。

 「は?」

 「だからお風呂入っていいって言ってるの!クズ難聴!」


 なんで許可制やねん。変な大阪弁でたわ。

 鈍感難聴系主人公は好きだが、自身がそれを演じる気はない。


 「そんなの嫌だよ!変態認定されるだけだろ!ハニートラップか?」と俺。

 ラブコメのイベントでもこんなベタベタな王道はねえわ。


 「い、いいって言ってるんだから入りなさいよ。」と楓が反応する。

 「は?」

 「いいから入れって言ってんのよ!」と楓の声が屋内でも聞こえるくらいに響き渡る。


 「は?なんで……?」女優だぞ、相手は。駄目だ、俺。踏みとどまれ。と天使が右肩で喚いている。

 喚いていると言っている時点で俺は悪魔に取り憑かれている。


 「別に理由なんてどうでもいいじゃない。」

 いいわけないじゃない!責任の所在を明らかにしないと!


 「じゃあお前あっち向いてろよ。」

 「なんでよ?」と楓。いやそら、恥ずかしいから。


 割と俺もツンデレヒロインのとこありましてね。


 「そんなの当たり前だろ!」と俺。当たり前は当たり前だから当たり前なんだよ。常識に理由を求めるな!


 「わ、わかったわよ。早く来て。」と楓。

 何この急展開。明日俺死ぬの?それともここで溺死させられる?


 「隣の風呂だからな。」と俺。


 「別に同じ風呂に入りたいなんて言ってない!変態が。」


 「変態って言うな!男子を風呂に誘ったくせに。ビッチ。」


 「はあ?ビッチって何?勝手に入ってきた人が言わないで。」

 ちょうど同時進行で楓の声がすこしこもる。反対側を向いたのだろう。


 なんで俺が怒られた上で楓と一緒にお風呂入るんだよ……。というかこっち来てから鍛えといてよかった。


 「なんだよ全く。」とつぶやく。


 そーっと扉を開ける。湯気で相変わらず見えないが、さっきの声とは反対側に進む。石に囲まれた湯が見えてくる。


 確認するが楓はいない。


 タオルを頭に載せて、いつもより深く湯に浸かった。


 「で、なんで俺が入らなくちゃいけないんだ?」と叫ぶ。


 「そんな叫ばなくても聞こえる。見えるでしょ。私。」と楓。

 水の音が響く。


 声のする方を見ると顔がしっかり見える距離に楓がいてこちらを見つめている。


 お酒に酔ったときと同じように頬が火照っていて、正直その姿は、今までに類を見ない美少女と言っても過言ではなかった。


 髪は湯には届かない程度だからなのか結んでおらず、縁の石に手を置いてもたれかかっている。


 おいおい。なんだよこれ。めちゃくちゃ恥ずかしい。


 ランタンのようなものがお湯の近くに置いてあるのだが、それが少ないのに加え、そこまで明るくない。それがまた特別な雰囲気を作っている。

 風に運ばれて、シャンプーの香りが鼻をくすぐる。

 静まり返っている。そのせいで楓や俺が動くたびに響く水の音がクリアに聞こえる。


 「見え…ますね…ってお前、恥ずかしくないの?」と俺。実況によって反応が遅れる。


 「それ言う?普通。平気よ。名栗だし。」と縁の岩に寄っかかって彼女は目を瞑る。にしては耳まで真っ赤ですが、それは湯船の影響ってことでよろしくて?というかそこまで観察してしまう自分の観察眼に引くわ。


 「なんで俺ならいいんだよ。あと平気ならあんな罵倒する必要ないだろ…」と俺。

 いやそんなことないだろ、と言いながら思ったが今は色々と回路がショートを起こしているので許してちょんダラー。あれ?やっぱおかしい。


 「び、びっくりしたのよ。あれは。」と楓は体の向きを変える。木々の茂る方向である。


 あ、ちなみに。ちなみにお湯はにごり湯なので、もちろん体見えませんし、見ようとしてません。自分の入ってるのも濁り湯だから安心です。


 「もしかしてだけどさ…」となんとなく察した。

 「怖かったのか?外で一人」


 「別に怖くない。あんたが怖いかと思ったからわざと今一緒に入ってあげてるの。何か?」と楓がこちらを向いて睨んでくる。

 今睨まれても気まずいし、普段の凄みが感じられない。

「それはありがたいです、ありがとうございます。」水かけられるどころか、楓の拳がふっかけられそうなので、反論はやめてときます。


 そして静まり返る。ここで仕事の話をする気にもならず。


 だがこの沈黙が心地よい。いつまでもこのままでいたいと、そんな気持ちになった。


 決して変な意味ではない。決して変な意味ではない。


 ……だから決して変な意味はないって。



 楓が、大胆にも腕を水から大きく露出させ、大きな伸びをする。

 「楽しい?ここに来てから。」と楓が話しかけてくる。


 「え?ここでだろ?楽しいよ。十分。」と俺。事実だ。建前でなく本音。


 「そう。」


 「お前は?」

 ポチャッという水の音が響く。楓が手を沈めたのだ。


 「私も楽しいわ。」と楓は確かめるように下を向いた。


 「お前女優楽しかったのか?」


 「正直、楽しくないしやめたかった。」そこで一度楓は切ると、

 「でも逆にあなたは学校楽しかった?一般人の生活は。」と続けた。


 「俺は、学校は楽しくないし好きじゃない。こう見えても成績だけはよかったんだけどな。」と俺。


 「あーそう。青春アオハルはしてらっしゃらないの?」と楓がこちらを見て尋ねてきた。全く嫌な質問だ。


 「これでも彼女の一人や二人くらいいたかもしれないし、いなかったかもしれない。」

 俺が真剣な顔でそう説くと、彼女は興味なし、といった様子で上を向いてこう言った。


 「本当に青春を満喫してる人なら学校楽しくない、なんて言わないはずよ。」


 ド正論かまされた俺は、後出しジャンケンの要領で主張を変える。


 「それもそうだな。じゃー学校は楽しかった。」

 俺が言い終わるのと同時に、彼女が言葉を発した。


 「でも、名栗、彼女いた事はあるんじゃない?」


 驚き彼女を見ると、彼女はなんの気もない様子で「ふー」と脱力しきっている様子だ。

 確かに彼女の言うことは事実であった。女優の鋭い眼差しは真実を見抜いてしまうのだろうか。


 「まあそら、いたことはあるよ。なんでそんなこと思ったんだ?」


 「私と普通に話せるってそうとうな女性経験がないとできないから。」


 「恐ろしいほどに自信過剰だな。」


 「自信過剰で結構」


 そういうと彼女は目をつむり、その場に沈黙が訪れた。



 ふと何かを思いついたのか、楓はニヤッとした。その表情がまた可愛らしい。


 「今夜ゲーム負けたらそれを話す!どう?」と楓がいたずらっぽく笑みを浮かべる。可愛い。


 ちょっと俺どうかしてる!なんだよ。過去にこんな可愛いを並べたことあるか?


 でもさ、ずるいんだよ。お風呂は。やばいって。無防備に加えて、頬が赤く染まり。わかるだろ?全国の男子諸君。


 「まあ負けないだろうし別にいいよ。」と俺は余裕を見せた。というか、これ罰ゲームあるの俺だけ?


 事実負ける気がしない。賭け事は得意だ。カイジとか見てるし?あとライヤーゲームも見たことある。


 「言ったわね。絶対だからね!」と楓が確認をとるようにこちらを指差す。


 「わかったって。」と俺は目をつむり反応する。

 楓と同じように石にもたれかかるような体制をとる。


 そしてまた沈黙が訪れた。

まじでこういうシチュ体験したいと切望してます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ