78 黄色い救急車とかの話
ストック分を発見してしまったので忘れないうちに投稿しておきます。
「『 アタマのおかしな人を連れて行く黄色い救急車 』っていうの、日本には存在しないみたいですよ。いわゆる都市伝説、タダのウワサ話みたいです」
「へぇー」「そうなんだ」
いつもの夕食後の会話の中で雪奈が口にした言葉に、僕と春奈が普通な感想を口にするけれど。これはアレかな。こないだの、問題教師関係の記録動画で言ってたヤツかな。何か最後に言ってたような気がする。
「精神を病んだ関係の人ばかりを収容した病院だとか、本当に存在したかどうかも怪しいらしいですが。そういう関係の病院があったとしても、やっぱり日本には白い救急車しか存在しないらしく。黄色い救急車というのはタダのウワサ話のようです……しかも、地方によっては『 緑色の救急車 』とか『 紫色の救急車 』みたいなバリエーションもあるんですって!! 面白いですよね!! 」
「「 紫色 」」
それって赤紫かな。青紫かな。アジサイみたいな薄い感じの、明るい系の色なのかな。それとも、例の紫色のロボットみたいな色なんだろうか。色合いでもイメージ変わるよね。
「なんだか『 救急車 』っていう括りの、ケガ人とかを救急搬送する車両は、日本では白色って法律で決まっているみたいですよ。わりと前から」
「つまり、黄色い救急車は存在しない、っていう事だよね」
法律で決まっているんなら、存在する訳がないよね。
「外国では『 黄色い救急車 』が存在する国はあるみたいですが、その国では逆に救急車が黄色いのが当たり前で、白い救急車が存在しないみたいなんですけど」
「「おお―― 」」
もしかすると、黄色い救急車の都市伝説って、外国の救急車の色とかが元ネタなんだろうか。どうなんだろう。
「でもまあ、『 黄色いドクター車両 』は日本にも存在しますよね。もしかすると、あの『 黄色い車両 』って、そういう意味のギャグなんでしょうか?? 都市伝説の、黄色い救急車の。でも黄色い救急車の話はけっこう昔からあるハズですし、関係ないですかねぇ?? 」
「え――?! 何それ」「黄色いドクター車両?? 」
何だっけ。何か、聞いた事があるような……
「ほら、通称【 ドクターイエロー 】って呼ばれてる、黄色い新幹線があるじゃないですか。線路とか架線とかのチェックをする、鉄道路線のチェックをする試験車両です。在来線とかでも、そういう用途の黄色い車両が走ってるみたいですよ」
「「 ああ――――!! 」」「「 あれかあ!! 」」
あったあった!! 新幹線が友達との話題で流行った時とか、ときどき出てたから覚えがある。なんか、【 見ると幸せになれる黄色い新幹線 】みたいな話だったけど。そして雪奈の話を聞いていた父さん達も、いっしょになってリアクションを返している。
「見ると幸せになれる、とかいう話もあるみたいですけど。レアだからでしょうか?? それとも黄色いハンケチの話とかから引っ張ってきたんでしょうか?? どっちでしょうね」
「黄色いハンケチ?? 」「なにそれ」
「あー、今どきの子は知らないかな」
「私たちよりも前の世代の作品だものね。昔は教科書にも載ってたみたいだけど」
また大人に分かるネタかな。そして黄色い新幹線の黄色は、どうやって決められたんだろう。都市伝説の黄色い救急車だろうか。それとも黄色いハンケチ?? なのだろうか。それとも外国の黄色い救急車からだろうか。でも救急車は見たからといって幸運が訪れるとは思えないし、黄色い救急車に至ってはラッキーとか全然関係ないと思うんだけど。
「外国の鉄道チェック車両でも、黄色に塗られてるヤツはいくつかあるみたい、ですが。外国の場合は救急車も黄色だったりしますからね。外国の方はよく分かりませんよね」
「それでいいんじゃない?? 」「外国の例だよ」
いえいえ都市伝説の方かも知れませんよ、と言う雪奈。少しでも面白い方向に持って行こうとしている気がする。
「つまり、日本には存在しないはずの【 黄色い救急車 】が目の前に現れたら、それは完全にオカルトだという事です」
「「 うわぁ―― 」」「「 わぁ―― 」」
確かに。本当に存在するならタダの珍しい救急車なんだろうけど、あり得ないシロモノが現れたら、それは完全に『 怖い話 』になってしまう。きっとその救急車の中から出てくる救急隊員は、救急隊員に見せかけた別の何かだろう。
「黄色い救急車の中からは、屈強な男が現れて対象者を強引に捕まえ、問答無用で運び去ってしまう、という話だそうですが。まあ、実際に重度の精神病患者を拉致同然に連れて行くのは普通車両と家族や親類、みたいですね。外国だと警察官と犯人護送車、という場合もあるとか。あと、窓という窓に鉄格子がはまった、刑務所みたいな精神病棟、というのも伝説……なんでしょうか?? 普通にありそうな気もしますが。安全性のために」
「あー」「落ちたら危ないもんね」
「そういうのが都市伝説の元になりそうだよな」「都市伝説が残る理由かしら」
患者が間違って窓から落ちないように……っていう理由なら、2階から上の階の窓に格子がはまっていても、別におかしくないよね。小学校だって、落下防止のための安全バーが付いてるし。3階から上は開かないようにするべきだ、みたいな話もあったって聞くし。屋上は立ち入り禁止だしね。
「あのオバサンは、是非とも黄色い救急車で搬送して欲しい人でしたが。存在しない以上、仕方がないですよね。……いやむしろ、『 呼んでいないハズの黄色い救急車 』に、運び去られてしまった方が、良かったのでは……?? 」
「「うわぁー」」「「こわいこわい」」
そんな事件が発生したら、もう完全にオカルトだよ。闇から闇に葬り去られるような、ナゾの怪奇事件になっちゃう。そして雪奈、やっぱり『 あの人 』の事、かなり頭にきているみたいだった。
「やっぱり雪奈、例の事件、けっこう頭にきてる?? 」
そう言って聞いてみると。
「伊吹さんと若本くんは来年も同じクラスのクラスメートですし、加えてクラス替えから今までの間、同じ釜の飯を食ってきた仲間です。見捨てるような事などできませんし、そもそもああいう手合いは気に入りません。タダでもケンカを買ってやりたい連中です。いえ、拳に代金を握り込んで殴ってやりたい相手というべきでしょうか」
「あのねえ、雪ちゃん」
「雪奈は女の子なんだぞ」
「友達の事は分かります。でも、まずは自分の安全が第一よ」
「もう少し慎重に行動して欲しいと思うよ」
家族みんなで、雪奈をプチ説教する流れになっていた。あと同じ釜の飯…… って、ときどき出てくる『ごはんの日』の給食の事だとしたら、パンとご飯は同じパンセンターからの配食だし、ウチの学校の生徒全員が同じ仲間って事にならない??
「ここは褒めてくれる流れでは?? 」
などと雪奈が抗議していたけれど。我が家の総意……大多数の意見としては、いちばん小さい子の無茶な行動に関しては、少し意見しておきたい。そういう気持ちが大きかった。ヒーローもののアニメの主人公じゃあるまいし、皆のために自分の身を犠牲にするとか、そういうのは家族の誰もが望んでいないし、素直に褒めるとかできないから。雪奈はときどき、こうやって言い聞かせておかないと危なっかしい。そう思う。
「これ、お兄ちゃんだったら手放しで褒められてたハズですよ!! 『 異議あり!! 』と発言したいところです!! 男女差別というヤツじゃないですか?! 」
「いや、僕でも注意されてたと思うよ?? 」
そんなばかな。とか言う雪奈だったけど、けっしてそんな事は無いと思う。僕らはまだまだ子供。何かやらかしたら、何かトラブルに巻き込まれたら、親にも兄妹にも心配をかける。そこを少しは考えて行動するべきだと思うんだ。
「お兄ちゃんは長男ですし、ドラマ的に優遇されるハズです」
「ここ、長男って関係ある?? 」
長男だと何か違うのかな??
「ドラマ的には、お兄ちゃん以外のワタシ達が悪党の犠牲になって、復讐鬼と化した長男が家族の墓石の前で敵討ちを誓う、という流れが正道だと思います」
「「 また復讐鬼 」」
雪奈は本当に、復讐鬼ヒーローが好きだなぁ。昔はそういうのが定番だったのだろうか。いや、今でもときどき見かけるというか、話の途中で復讐鬼と化す主役級キャラとか、マンガでときどき見かけるけれど。
「昭和ペルソナファイター・シリーズの第三作の主人公が、そういう設定なのです。両親と妹を悪の秘密結社にサツガイされ、ただ一人生き残った主人公は家族の墓の前で復讐を誓うという、涙と怒りに燃える激アツの第一話から始まります!! 地獄の悪党、許すまじと!! 風の唸りに血が叫びます!! 」
うおー、と両手を振り上げて興奮する雪奈だった。暗い過去を背負った主人公としては設定に納得もいく気がするけれど、僕らの家族構成的には縁起でもない設定だ。それ、『実はみんな生きていた!! 』みたいなハッピーエンドにはならないのかな。
「復讐鬼の設定は燃えるじゃないですか。主人公が多少やりすぎたとしても同情的に見てもらえたり、行動を正当化してくれる素晴らしい設定です。まあ、現実世界でそれをやる連中は、たいがいちょっと頭のおかしい連中なので大問題ですが」
「「 問題あるじゃない 」」
ぇぇー。と鳴き声を上げる雪奈。他に何かないの、と適当に聞いてみれば。
「あと、悪の組織にサツガイされた親友の復讐のため、自ら改造手術を受けるペルソナファイターとか。父が悪の組織にサツガイされてしまって、父の遺産の秘密兵器で戦うペルソナファイターとか。良くしてもらった友人の御家族がサツガイされてしまったり、第一話で拉致された親友と殺し合う事になるペルソナファイターとか。ちなみに最後の人は人気が出たので2年目に突入しましたが、2年目は地球侵略を企む異次元人との戦争を影ながら展開する事になって、最終的には敵の異次元人を罪のあるなしに関わらず民族ごと全て抹殺したダークヒーローです」
「それみんな昭和ファイター?? 」
「昔のペルソナファイターって、そんなのばっかしなの?? 」
ふわっとした理由で命がけの戦いに身を投じるヤツなんか電波ですよ!! と吠えつつ腕を振り上げる雪奈だった。
「戦いには確固たる大義名分と強靭な意思の力が必要なのです!! 大切な人のために戦う、それこそが正義というものですよ!! 子供には、何が善で、何が悪なのかを教えてやる事が重要なのです!! ヒーロー番組は教育番組なのだと、赤い人も言ってました!! 」
そんな事を言う雪奈だったが。
「でも、小学生がやる事じゃないから」「小学生ならしないよ」
「まずは大人に相談する事です」「自分をだいじに」
やっぱり雪奈がプチ説教される流れになっていて、『世知辛いですねぇ』と、こぼしている雪奈だった。ともかく雪奈は今後もよく見張っておかなくてはならない。正義と愛のために戦うのだとしても、それは身の丈に合った行動であるべきだ。変身ヒーローじゃないんだから、まずは自分の安全を守る方向で行動して欲しいと、事ある毎にそう。
「天が泣く!! 地が泣く!! 人が泣く!! 正義の嘆きが、我を呼ぶッ!! 」
「また『 天・地・人 』だ。それ好きだよねー」
たぶん昔のヒーローのポーズだと思われる、何かの決めポーズをしながらセリフを言っている雪奈と、それを見ながら感想を言っている春奈。そんな二人の様子を見ながら僕は思う。
テレビのアニメでも「自分達で犯人を捕まえてやろうぜ」とか言い出す小学一年生がたいていピンチになってロクでもない目にあったりするし、そういう場面を見ては雪奈も『この子供たち、本当に懲りませんねぇ』とか言ってるくせに、どうも自分は別枠だと考えている部分があるのが問題なのだと思う。
雪奈だって『自分だけは大丈夫だと思うから事故は起きやすくなる』って言ってたし。確かに雪奈はちょっと普通ではない子供だし転生者かも知れないけれど。アニメの主人公みたいに超能力がある訳でもマッドサイエンティストの発明品を常に携帯している訳でもないんだから、もうちょっと自分を大事にしてもらわないと。
やっぱり雪奈は僕を含めて周りの人がちゃんと見ておかないと。今日も今日とて元気な妹を見ながら、あらためて思う僕なのだった。
いつ書いたかも覚えのないストック分をチェックしていたら、ここ最近で投稿していた話の後日談みたいな感じのヤツをたまたま発見してしまったので(本当にたまたま)忘れないうちに投稿しておきます。でも話としてはほぼ関係なくて、いつもの日常回なのですけれど。
まあ日本には存在しないハズの黄色い救急車が(らしきもの、が)の前に止まって中から屈強な男たちが飛び出して来たらコワイですよね。パトライトつきの黄色いクルマに『*』マークがついてたら……
なお、街中や高速道路で見かけるパトライトつきの黄色いクルマは(バンパーが赤白のトラもようのヤツとか)路面チェックとか道路整備関係の車なので全く関係ありません。ご注意ください。
当作品は、どこにでもいる子供の日常を描いた、ゆっくり日常系です。寝ながら読み流せる睡眠導入剤のような作風です。今後もゆるーくお付き合いくださいませ。