46 ピーマンは炒め物にするべき
ピーマン苦手な子供には……
「ピーマンってさ、どうしてピーマンなんだろう」
「ピーマンだからじゃないですか??」
なんだろう。春奈と雪奈が何か、哲学っぽい事を言ってる気がする。
実際のところ、『 哲学 』って何なの、とか聞かれると答えられないんだけど、なんだかよく分からない問題に対して色々と考えたり理屈をこねたりしているイメージ。きっと今の春奈と雪奈の問答みたいなヤツだろうと思う。たぶん。
「いや、そーいう事じゃなくてさ。【 ピーマンはどうして青臭くて苦いのか 】みたいな。ピーマンはどうしてピーマン味なのか、みたいな事だよ」
「そういう事でしたか」
今のは意味が分かりやすかった。そして僕も同じ疑問を持っている。なぜにピーマンはあんなにピーマン味なのか。もう少し苦味に手加減して欲しい気がする。もっと甘かったりすれば、世の中のピーマン苦手な子供もピーマン大好きになると思うんだよ。
「まあ、昔はともかく、今は食べられなくもないんだけど。あんまり美味しいとは思えないんだよねー」
「今も時々、ピーマンをタマネギとトレードしようとしますものね」
春奈が雪奈と、おかずの中身トレードを持ちかけたりするヤツだな。たまに見かける。母さんが見ていない場合に限るけど。そのたびに雪奈が少しだけトレードに応じるので、春奈もなかなかやめようとしない。そろそろ自分のピーマンは全部、自分で食べるべきだと思うんだけど。僕も食べてるんだから。
「ニオイはわりと平気なのになー。ニオイだけなら、ニンジンの方が苦手だなぁ……ニオイはピーマン、味はニンジンの野菜だったら良かったのに」
「それで両方の栄養素が取れればステキですねぇ」
それどんな野菜なの??ピーマンの姿をした野菜なの??それとも根菜なの??
「なんで苦いんだろうね」
「そりゃ、ひと昔前のトマトが青臭くて酸っぱい、という理由と一緒じゃないですか??」
「それどういう事??」
思わず二人の話に混ざる僕。今まではただ聞いてるだけだったけど、トマトの話となれば話は別だ。僕はトマトけっこう好きなんだけど、食べられないほど酸っぱいと思った事は無いし、青臭いと感じた事も無い。確かに少しは酸っぱいと思うけど、甘みもあるし気になった事は無いんだけど。
「昔のトマト……スーパーで売ってるヤツの事ですが、今の店売りのトマトとは比べ物にならないくらい、青臭くて酸っぱかったのです。昔はトマトがキライな子供も、今よりずっと多かったと思いますよ」
「「そうなの??」」
またいつものヤツだった。たぶんきっと。
「どうして昔のトマトは酸っぱかったの??」
すかさず春奈が僕の心を代弁してくれる。こういう所が春奈はスゴイ。まるで僕の心のマイクとつながっているスピーカーを装備しているようだ。
「青果……野菜類の運搬・流通・保管のシステムと直結した話です」
「??ええ――――??」
どういう事なのかな??
「昔はですね、収穫してから農家でサイズ選別されて、さらに農協を経由して事務手続きを経てから仲卸業者に行き、そこから小売業者へ卸されてから一般の販売業者へとたどり着く、という流れが、けっこう時間かかってまして」
「「…………おおー……」」
そんなに手間かかってたのか、野菜とかの流通って。学校の、生活とか社会の授業で何だか軽く教えてもらった気はするけど……昔と今は違うんだろうか??それとも今も同じなんだろうか。
「そのため、『 運搬中の品質管理 』が大問題でした。完熟トマトなんかを収穫しちゃったら、店頭に並ぶまでの間に追熟しすぎて柔らかくなりすぎちゃったり、割れちゃったりするのです。あ、『 追熟 』っていうのは、収穫後の野菜や果実の成分の変化が勝手に進む事です。一部の果物なんか、追熟させてから食べた方が美味しいのありますよね??」
「バナナ!!」
「メロンもそうだよね、確か」
これは聞いた事がある。メロンは丸のヤツを買ってきたら、常温で少しだけ放置しておいてから食べた方がいいとか何とか。甘さが増すとか。あとバナナは青いのを放っておくと黄色くなって食べごろになるヤツだよね。
「そんな訳で、トマトは店頭に並んだ時に丁度見栄えがよくなるよう、そして運搬中に食べごろの時期が終わってしまわないよう、早めに収穫されていたのです。ぶっちゃけ、ひと昔前のトマトは【 まだ青くて固い時期に収穫 】されていたのです。完熟トマトなんて、農家の人しか食べられなかった時代ですよ。いまどきのスーパーのトマトは、かなり完熟に近い状態だと思います」
「「そうなのぉ――?!」」
それって、さるかに合戦でサルがカニにぶつけた、固い柿とかそんなのと同じって事?!
「未熟なトマトは青臭くて酸っぱい。収穫して放置しておくと、追熟して赤くなりますし柔らかくはなりますが、甘味はそれほど増えませんし、青臭さもだいぶ残ります。昔の給食トマトっていえば、固くて青臭くて酸っぱいモノと相場が決まっていました。中のゼリー状のヤツが大キライな子供が多かったのも、これが原因だと思います。最近のトマトが美味しくなったのは品種改良もありますが、流通システムが色々な面で進歩して、完熟に近いトマトが収穫されるようになったからです」
「「そうだったんだ…………」」
今の店売りのトマトとは違う、もっと青臭くて酸っぱいトマトかぁ……想像もできない。青くて固いっていうし、なんだか酸っぱいピーマンを連想しちゃったよ。
「ちなみにピーマンもトマトも、ナス科の植物という括りでは仲間です。連作障害の起きる植物の仲間に入ってしまうので、同じエリアの畑では、ナス・トマト・ジャガイモ・ピーマン・獅子唐やトウガラシ等は2年連続で栽培してはいけません。翌年は豆でも栽培すべきですね」
「「仲間だったんだ――――!!!!」」
微妙に当たってた!!そういえば、断面の構造がちょっと似てる?!
「まあそんな訳です」
「ピーマンの話は??」
「ナス科の仲間っていう事しか分かんないよ??」
ピーマンの話がどこかへ行ってる気がするんだけど。
「【 緑色のピーマンは未熟な果実 】という事です。完熟させれば、ピーマンもちょっと甘くなりますよ??」
「「ええぇ――――?!」」
それってカラーピーマンみたいな事になるの??あの少し高いピーマン。
「それって、カラーピーマンみたいになる、っていう事??」
「というか、カラーピーマンそのものと言ってもいいのですが」
やはりこういう時、春奈は頼りになる。僕が言いたい事を代わりに言ってくれる……そしてカラーピーマンそのものって、どういう事かしらん。
「そうなの??」
「大型種のパプリカを含め、黄色や赤色のカラーピーマンは【 完熟したピーマン 】です。普段、ワタシ達子供の多数が『 苦い苦い 』と言って忌み嫌っているのは、未熟なピーマン、まだ赤や黄色に変わる前のピーマンです。そこら辺のピーマンも、収穫しないで放っておけば、そのうち赤っぽくなります。わりと甘くなりますし、青臭さも大幅に減ります。まあ、許容範囲は個人によってバラつきがあるので、カラーピーマンもダメだという人は無理でしょうが」
「なんで完熟させないの??甘くなるのに」
「完熟イコール、地面に落っこちる寸前という事でもあるのですが……大きな理由は、もちろんコレですよ」
人差し指と親指で丸を作るゼスチャー。お金??かな??
「お金??なの??」
「商売としての農業はコスト。費用対効果です。家庭菜園としての野菜栽培にもコストは大きく関わってきます。緑色のピーマンは、栄養と水があれば収穫期には毎日収穫できるほどに収穫できます。そして収穫期間は2カ月くらいは余裕であります。ですが、赤くなるのを待っていると、その間は収穫できません。収穫量に天と地ほどの差がつくのです。緑色のピーマンなら、春先にタネを植えれば真夏の2カ月は青い野菜が毎日食べられるでしょうが、赤くなるのを待っていたら秋になってしまいます。そして、1本のピーマンの株に吊り下げておける果実の量には限度があるので、不要な花はあとからあとから捨ててしまわないといけません。でないとピーマンの株が自重で倒れたり裂けたりしますし、栄養だって足りなくなります」
「どのくらい違うの??」
「肥料の量とか、水や天候にも左右されるでしょうが……赤くなるのを待ってたら一株で……いくつ採れるんでしょうねぇ。パプリカだと、実が出来始めてから3週間から4週間くらいは待たないとダメみたいですし、余計な花は取ってしまわないといけません。素人栽培のパプリカだったら、ワンシーズンに一株で数個、採れるかどうか……普通の緑色のピーマンなら、シーズン内でまず、二ケタ台は採れると思いますけど。小さくてもよければ、秋までに三ケタを狙えるかも。でも赤くなるまで待ってたら、とても無理でしょう」
「そりゃ割りに合わない」
「だからカラーピーマンは、お高いんですよ。甘くなってくると虫にも食べられやすくなりますから虫の防除にも気を遣います。収穫までの時間もかかれば、数も採れないし手間もかかる。トータルの収穫量と得られる栄養価を考えたら、素人栽培では全くワリに合いません。家庭菜園のカラーピーマン栽培は、観葉植物レベルの趣味だと思いますよ。個人的には手間もかからず大量に収穫できる獅子唐がオススメです。栄養価もいっしょですし」
雪奈ファームは労力と収穫量のバランスで栽培品目を決めてるところがあるからなぁ。今度の夏は獅子唐を栽培する事に決めたんだろうか。アレ、味はほとんどピーマンなんだけど。細長いピーマン。同じナス科なんだっけか。
「今年はプランターを一鉢、獅子唐に割り当てましょうか。うまくいけば夏の間、野菜炒めの緑色には困らなくなります」
「「うえー」」
獅子唐は味わいとしてはピーマンだから、あまりうれしくないなぁ……
「お兄ちゃんも、お姉ちゃんも。『 苦いの 』は、だいたい平気になったのでは??」
「そりゃ、ピーマンくらいはね」
「雪奈のおかげでね」
僕と春奈はもともとピーマンが苦手だった。今もそれほど好きではないけれど、あまり問題なく食べられる。……というのも、雪奈が以前にやってくれた事件のようなモノが原因というか理由というか。苦手をだいたい克服できたのだから、感謝すべき内容なのかも知れないけれど。
「もう、あの【 苦味汁 】はゴメンだよ」
「あれは……本当にね……もう口にしたくないよ」
それほどですか。と、そう言いつつ。少し考え込む素振りを見せる雪奈。
「確かに、アレは厳しかったですねぇ」
「本当にね」
「うん、本当に」
――――通称【 苦味汁 】と、僕ら兄妹の間で呼ばれている『 それ 』は、かつて雪奈が【 苦いモノは早めに体験しておいた方がよろしいです 】とか言い出して、母さんに色々と注文をつけて作ってもらった、汁物というか野菜の煮物というか、そんな食べ物だった。いや、僕と春奈にとって『 それ 』は、けっして【 食べ物などではない 】と評するようなシロモノだったのだが。
菊菜??とか何か、とにかく苦くてアクの強い緑色の野菜を数種類、砂糖・みりん等の甘くなる調味料を一切入れずに、しょう油のみで煮て、アクもすくわずに作った謎の煮物。とにかく苦くてエグくて、口に少し入れて味わった瞬間、体が硬直して動かなくなったのを覚えている。僕も春奈も、体の動きが完全に止まった。
かといって、雪奈が平気だったかと言えばそうでもなく。雪奈は雪奈で、口に入れた後、顔をしかめながら、ゆっくりと少しずつ飲み込んで。『ぐえー』とか『げえー』とか言いながら、小鉢の中身を汁も含めて全部食べて。
『うぅー。まずいぃ――。……もういっぱい』
と、なぜかお代わりをしていた。なぜだ。
とにかく、いちばん小さい子が食べているのに、上の子二人がそろって食べ残すのもやりづらくて……お代わりはしなかったけど、僕も春奈も『ぐえー』とか言いながら、どうにかこうにか一杯だけ、頑張って食べきったものだ。
『基本の五味、というヤツは早めに覚えていた方が、脳を活性化させる働きがある、と。以前、どこかの脳科学者か誰かが言っていたのを聞いた覚えがありまして。【 苦味のある食べ物 】は意識的に採らないと、なかなか子供のうちには経験できませんから。本当に苦いモノは薬だと思って、小さいうちに経験しておくべきだと思ったのです。苦い食べ物を小さい子供のうちに食べておくと、脳神経の発達に良い影響を及ぼすとか何とか』
とか言っていたはず。もちろん当時の事だから、ずっと舌ったらずだったけど。だからといってモノには限度があるだろう、と。当時の僕は思ったものだ。けれど、そのおかげでピーマンの苦味は『苦いと言えば苦いけど、まあ大した事は無い』というレベルで気にならなくなってしまった。本当にツラい事を知ると、多少の苦痛は気にならなくなるっていう事だと思う。
ただ、あの経験をしてから、苦い野菜は煮物にしないで炒め物にするべきだと思うし、できれば甘味や酸味を足していくべきだ、とは思った。もしもピーマンをしょう油で煮物にする人を見かけたら注意しようと思っている。そのくらいには厳しい経験だった。苦い野菜は雑に煮てはいけない。この認識は春奈と僕の共通認識となっている。野菜そのものよりも、煮出された煮汁がヤバいんだよ、本当に。
「ピーマンはやっぱり、チンジャオロースか酢豚ですよね」
「だよね!!炒め物だし、あのタレがおいしい!!」
「酢豚が正義だと思うよ、僕は」
甘酸っぱいタレのおかげで、ピーマンの風味も気にならない。ブタの唐揚げも素晴らしいと思うよ。ニンジンもおいしく食べられるし。お肉も野菜も入っていて、栄養バランス的にも味としても、カレーと同じくらい素晴らしいんじゃないかな、と思う。
「そういえば、お兄ちゃん。お兄ちゃんは酢豚が大好きですけど」
「うん??」
「【 酢豚に入ってるパイナップル 】って、どう思います??」
「なんなのそれ」
見た事ないんだけど。ネット知識なの??それとも実食した経験があるの??少なくとも家の食卓に出てきた酢豚にパイナップルが入っていた事なんてないし、家族で外食した時に食べた酢豚にもパイナップルなんて入ってた事は無いと思うんだけど。それ何料理なの??中華じゃないよね??
「酢豚にパイナップル??」
「最近はあまり見かけませんが、昔は定番だったのです。ワタシはパイナップルをおかずにして、ご飯を食べるのには違和感を覚えるのですが。お兄ちゃんはどう思いますか??」
食べた事ないから分からないよ僕は。
相変わらず、雪奈はときどき変なネット知識だか前世の知識だか、よく分からない知識ネタを披露する事がある。今日も結局のところ、そんな感じだった。
僕はその後、『 酢豚のタレで煮込まれたパイナップルって、どんな味なんだろう 』と考えていた。輪切りなんだろうか、それとも乱切りなんだろうか。パイナップルってわりと甘いよね。おかずになるのかなぁ??むしろサラダ的な、別皿でついてくるような付け合わせじゃないかな??と。
こんど中華料理屋さんへ外食に出掛ける事があったら、酢豚を頼んで確認してみようかと思う。もちろん店員さんに『パイナップルは入っていますか??』と聞くのを忘れないように。とても重要な事だから。
本当の苦味とえぐみを教えてやるべき。ぐえー。
生のピーマンなんぞ比較にもならない、本物の苦味とえぐみというモノを食らわせて…………
要は調理法ですよね。細切りにして油で炒めて味付けすれば、それなりになりますし。ピーマンの栄養価は加熱しても損なわれない!!ビタミンPのおかげ!!
苦くなる調理法、苦さを軽減する調理法はあるのです。どんな食べ物も調理次第かと。
当作品はお気楽に、ゆるーく更新していくつもりです。ネット小説大賞感想九のタグづけで、新規読者様数と評価ポイントが伸びないかなー、と期待する今日この頃でした。




