44 プログラミング授業と雪奈 その2
前後編の後編(的なもの)です。
「そもそも、タブレットを使った授業、というのが予想外でした。いまどきと言うか、何と言うか。これも時代の流れですかねぇ……」
自分もそのうちに体験する事になるであろう(今のところ4年生から、という事になっているけれど、もしかしたら3年生から体験授業とかあるかも知れない)プログラミングの授業について、雪奈がなにやら愚痴のようなものを、こぼし続けていた。
「雪奈は、どんなのをイメージしてたんだい??」
「ノートパソコンの方かしら??雪奈はタイピングが得意だし」
それまで僕らの話を「ほおー」とか「へえー」とか言いつつ、面白そうに聞いていた父さんと母さんが、相槌を打つように雪奈に聞いていた。雪奈のイメージするモノ、というのには僕も(春奈も)興味があるので、ナイスな質問だった。雪奈のイメージするプログラミング授業って、どんな感じなのだろうか。
「学校に、『 視聴覚室 』って、ありますよね??」
「うん、あるよね」
「防音教室だっけ??床がフワッとしてる部屋」
音楽室の親戚、広い意味では家庭科室と図工室の友達。いわゆる『 特別教室 』という部屋だよね。滅多に使わないから、どういう用途で用意されてるのか、今一つ理由がよく分からない教室だ。
「ああいう感じの部屋で、もっと無機質で冷たい雰囲気の部屋に、長机の上に据え置きPCが、ズラ――――っと並んでいる、パソコン授業専用の部屋で、与えられた課題を順次こなしたり、プログラミングの書式や歴史を学ぶ授業だと思ってました」
「パソコン・ルームか?!」「それ、高校の設備だったわ……!!」
父さん母さんが、『ああいうヤツかぁ』という感じで声を上げていたけれど、僕と春奈は何となく想像するしかない。視聴覚室の長机にはヘッドホンとか何か色々あったような気がするけれど……あの机の上に、ノートパソコン……いや、雪奈のイメージだと、モニターとキーボードかな??が、ずらーっと並んでいる様子なのだろうか。ちょっとカッコいい気がする。ロボットアニメとかの、指令室みたいな感じかな。
「もちろんモニターは緑色のグリーンディスプレイで、カラーモニターは先生の机にしかありません」
「ちょっと待て雪奈」
「はい??何でしょうか、お父さん」
「緑色って、画面が緑色なのか……??それってもしかして……ブラウン管モニター??」
「もちろんです」
「そんな化石じみた設備、いまどき無いぞ」
ブラウン管のモニター??
画面の隅にチャンネルのスイッチ??がついてて、モニターの大きさに対して画面が小さい、箱型のヤツ。小さい頃に何度か近所で……公民館に置いてあったっけ??あと、社会の教科書にも載ってた気がする。ウチでは見た事ないけど。
「でも公立の小中学校なんて古い設備を大事に使っているものですし、高校からのお下がりを大事に使っているんじゃないかと。だって所詮は子どものプログラミング教材じゃないですか。高度な機材なんて必要ありませんし、タダなら結構な事です」
「それにしてもグリーンディスプレイは無いだろう。父さんの学生時代だって、ジャンク屋みたいなところでデモ機が動いてるのを見たくらいだぞ」
「では、FDDのパソコンはもう、そこら辺には無いと??」
「いや、それはもしかしたら……あるかも知れないな。セキュリティに関して言えば、今や強い方かも知れないしな……」
雪奈が言ってるのは、放送機材とかそこら辺の話じゃないのかなー。確かに体育とか全校集会の時に使うようなマイクとスピーカーのセットとか、古臭い雰囲気のするのを使ってる気がするし。プログラミングの授業は新しい授業なんだから、設備は新しい方が正しいんじゃないのかな。
「ところでさ、雪ちゃん」
「なんですか、お姉ちゃん」
「教室はそういう感じ、だったとしてさ。その授業で、何をやるの??課題って、4年生みたいに音を鳴らして『 かえるの歌 』を演奏したりとか??どんなイメージ??」
「最初は『 点 』を描くところから、じゃないですかね」
「点??」
父さんと雪奈の会話に割って入った春奈だったけど、よく分からない答えが返ってきた。点って。点を描いてどうするの??
「まず、画面に対して座標を指定し、点を表示させます。これが基本です」
「うん」
「その次に、二つの点を指定し、指定した座標の間を連続で表示させます。これが線です」
「ほうほう」
「さらに別の命令を使えば、『 指定した座標から、指定半径の円を描く 』事も可能になります。さらには角度指定で円弧も描けますよ」
「おおー」
「これを組み合わせると……カタチはイビツながらも、『 国民的に有名な青タヌキ 』の絵を描くことが可能になるのです!!これが『 さいしょのグラフィック 』と言うモノですよ!!」
「青タヌキの絵描き歌だね。ちょっと面白そう」
お絵描きかー。でも未来道具で無双する青タヌキって、絵に描くとけっこう難しいんじゃないかなあ。どんな形してたっけ。特に目の周辺とか。絵描き歌とか、たまーに見かけるけど、ここ最近は珍しく感じる。最後に絵描き歌で落書きしたのって、いつだっけ。
「他にも『指定した文章を表示させる』とか『単純なキー入力の結果を判断する』とか、『特定の場所を通過した時、代数の計算を行う』または『BEEP音を鳴らす』などの命令を使えば、【 テキスト・アドベンチャー・ゲーム 】を作れますし、PCの処理能力さえあれば、青タヌキのグラフィックすら表示する事も可能になります!!カンタンながら、【 ゲームを作る 】事を体験できる、というワケですよ!!」
「おおお――――!!」
「いきなりスクリプト使ってアクションゲーム作るとか、ふざけるなって話です。最初は誰もがテキストアドベンチャーから!!これ基本ですよ!!ツールを使いこなせるヤツがエライのではなく、自分で命令文を構築してシナリオ作って打ち込みのできるヤツが一番エライのです!!」
「また愚痴が出ちゃった」
何かまた、過去のウラミみたいなものとか、余計な記憶に心を支配されている気がするんだけど。
「まぁ一般的には、ツールを使いこなせる人が重宝されるんですけどね。職種にもよりますけれど。基礎設計業務の人以外、あんまり関係ない事でもありますか…………」
「今度はションボリしちゃった」
過去のしがらみだとか、イヤな思い出なんかで感情が上下する雪奈は、時々めんどくさい。それでも可愛い妹には違いないけれど、もっと心を自由に解き放って欲しいと思う。子供なんだから。
「どうせ、こういうツールを使う子供は、『 プログラムが重くなる 』という事の厳しさを、なかなか理解できないでしょうし……どう軽くするか、メモリを確保するか、単位時間の負荷を低減するか。それこそが大変だというのに。……でもまぁ、教材は教材ですからねぇ。仕組みを知る事が優先で、実務の大変さを知るのは後回しにするのが、現在の教育のやり方ですか……おのれ」
またブツブツと文句を言ってるし。仮にも現代っ子なんだから、現代教育のやり方に合わせようよ。きっと慣れれば快適だと思うよ。たぶん。
「メモリも処理速度も有限なんですよ!!冷却能力だってハードディスクの容量だって、すぐに頭打ちになるのです!!」
「その通りだ」「単位時間の仕事量は考えるべきよね」
何やら大人(と子供1人)が、意気投合してしまっている。何となくだけど、プログラミングの授業から脱線している気がする。何なんだかなぁ。
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その後、また少し『小学生のプログラミング教育に関して』という感じで検索してみた結果、『プログラミングを体験して、論理的思考を身に着ける』のが目的なんだとか、そんな事が書かれていたりした。その結果。
「だったらテキストアドベンチャーを1本作らせればいいでしょう!!必ずフラグ管理を5つくらいは入れさせるようにすれば、チャート不具合によるバグも一定数発生して、どこで不具合が起きたのかを調べることによって学習も進むはずです!!クラス全員の作ったヤツを繋ぎ合わせれば余計に不具合が増えて、どこでバグが発生したのかを検討する授業だって出来るはずですよ!!答えの分かっているパズルを解かせるようなモノが、望まれている勉強だと言えるのですか?!」
「そんな事を言われてもなぁ」
「パズルの方がとっつきやすいよー」
雪奈はプチ切れしていたけれど、雪奈が普段いじくっているプログラム画面??を見ても何が何だかよく分からない僕らとしては、入門編は簡単であれば簡単であるほど助かる。これに関しては春奈も同意見のようだった。……でもまぁ、青タヌキの絵描き歌、というか、お絵描きに関しては少し楽しそうだったので興味ある。それを言ってみると。
「アレ楽しいですよ!!命令文を書ききって、実行した瞬間!!意図したのとは全然違うワケの分からない奇っ怪な化け物の絵が出来上がったりして、爆笑必至です!!どれだけ上手に描けたかよりも、どれだけウケを取れるかが勝負ですよ!!まさに電子福笑いと言うべきモノです!!」
「なにそれちょっと楽しそう」
意外に、小学生の教材として役立ちそうなネタかも知れなかった。僕が言うのもなんだけど、子供って感覚的にバカバカしいネタは好きだからなぁ。うんこネタとか、低学年の子は大好きだし。それ系の学習ドリルなんかも売ってるくらいだし。
ちなみに、ネット検索でヒットしたプログラミング教育の体験問題(ブロック状の命令文を組み合わせて問題を解くやつ)を、いくつか解いてみた雪奈だったけど。
「……要はBASICの打ち込み労力をカットしたようなシロモノですね……数の整理に関しては、表計算ソフトのマクロ組みの練習みたいなモノですし……」
などと、やっぱり大人な意見で愚痴のような言葉を口にしていた。が。
「この『公倍数の問題』楽しいです!!クラスの生徒が盛り上がる様子が目に浮かびます!!」
と、手のひら返しのような意見を急に言い出した。そんなに面白い要素あったっけ。
「これって、このBOT(画面で動くキャラクターの事を指しているようだ)に、『何かエロい言葉やバカなセリフを言わせてウケを取るゲーム』ですよね!!男子がふざけてゲラゲラ笑う様子が目に浮かびます!!先生に怒られてチョップをもらうところまでがセットですよねー!!」
何か、『いかにもありそう』な事を楽し気に言う雪奈。……というか、僕らの教室で、実際にあった。一部の男子生徒がエッチな単語や、バカなセリフをキャラクターに言わせるように入力して、ゲラゲラ笑っていたのだ。当然ながら同じグループの女子にヒンシュクを買い、速攻で先生を呼ばれて『まじめにやりなさい!!』と怒られていた。なんでそういうの、分かっちゃうのかなぁ……どうしてそういうの分かるの、と。雪奈に聞いてみれば。
「それが男子の習性だからです。あと、特定の数字の倍数や公倍数でアホになる芸人って、昔いませんでしたっけ。このキャラの行動、それそのものですよ??」
「あぁ――――!!」「いたわ――!!」
父さん母さんが手を叩いて『確かに!!』みたいなリアクションをしていた。このキャラ、そういう感じで作られてたの?!いや、そんな事ないと思うんだけどな。たまたま公倍数の判別問題が、キレイにはまっただけで。ですよね??
「とりあえず、『特定の条件で自分の名前を言わせる』という部分に、寿限無さんの名前を全部入れてみましょう」
どうも雪奈はこういう教材の場合、率先して遊びを推し進めるタイプみたいだった。でも授業でそういうのやっていいの??と聞いてみると。
「何をおっしゃいますか、お兄ちゃん。『与えられた条件で仕様を満たす』というのは確かに必要な事ですが、限られた命令語で、どこまで脱線……実行可能な行動、いわば『可能性』を追求する、というのがプログラミングの楽しさではないですか。小学生の授業なのですから、こういうのが教育の本質ではないですか??……とりあえず、このBOTが無限ループに陥って動けなくなる可能性を追求してみましょうか。できなければ最速仕様でどこまで処理時間を稼げるか、負荷を最大限にかけるプログラムを組みましょう。この、6年生向けの順番入れ替えプログラムの構築問題、使用許可されたコマンドで、どうにかなりませんかね……あと、この公倍数を求めさせる問題、公倍数なんぞはどうでもいいので、1万までの数の素数を選別するプログラムでも組ませたりとか」
「あたしもやるー!!いじくるの楽しそう!!」
春奈が授業でメチャクチャやらない事を祈りたい。いちおう予習みたいな事になっているから、いいのかな……??チラリと画面を見ると、雪奈が『特定の条件を満たしたときに発言するセリフ』の部分に『おっぱい』と入力しているのが見えた。クラスの男子か。
――僕の結論としては。雪奈はやっぱり、クラスの『ちびっ子先生』として、先生の助手をしてもらった方がいいんじゃないかなぁ。
そして雪奈のクラスの先生、プログラミングの授業の指導がすごく楽そうな気がする。あくまで想像だけど。もっとも、『現代風のやり方』について時々反発したりする事もあるし、全部が全部、うまくいくかは分からないけれど。
と、プログラム処理のキャラクターをどれだけ困らせる事ができるか、という遊びに熱中している妹たちを見ながら、そんな事を考える僕だった。
『プログラミング』という行為、仕事、あるいはプログラミングをする『機械』に対するイメージって、世代によって違うと思うんですよね。あと、PCと聞いてどんな機械を連想するか、とか。
真っ先に連想するのが据え置き型なのか、ノートなのか。どうなんでしょうねー。
当作品はごくごくまれに残酷表現などが発生する可能性があるので(今まで1回あったか無かったくらいだけど)いちおう15禁ですが、それでも全年齢仕様に近い、ゆるーい作風となっております。寛容なお気持ちで、のんびり気分でお付き合いくださいませ。




