30 夏休みの終わり 教師の日常の一幕
もちろん、この作品はフィクションです。
私こと、市立・青山第二小学校の教師、大村 良子は今現在、とある建物の大会議室にいる。大勢の県内教職員といっしょにだ。夏休みはもう終わり。来週からは新学期が始まる。昔の小学校の先生は生徒と同じく長期休暇としての夏休みをもらえたそうだが、今どきの先生は新しい授業の内容などを学習する『先生の勉強会』をする時間が夏休みという期間であり、先生に生徒ほどの長期休暇など無い。
そして今日は夏休みに何度かあった、県内の教師の学習交流会のシメとしての、ちょっとしたイベント。
子供の普段の様子を、観察して理解を深める。という、誰が通したのかよく分からない企画の学習会だ。
先生がいないところで、生徒が何をしているのか……隠しカメラを仕掛けた教室の様子を観察する、などという企画だ。もちろん外部流出するような事は無い。ただ、今どきの子供がどのくらい自制がきくのか、教師のいない時にどんな行動を取っているのかと。教師の側からの生徒への理解を深める……小学生という生き物を理解するための資料としての、『教師の学習教材』としての資料としての調査、という名目のものだ。もちろん教師の普通の授業風景を俯瞰して見る、という資料も存在してはいるが、今回は自習を指示した時の様子だ。
現場の人間として理由は理解できる。だが、今回の資料収集先として白羽の矢が立ったのはウチの小学校……それも低学年の資料として、私のクラスが選ばれた。これは学校側が『間違いなくイジメが無く、問題のない学級』を選んだ結果、そうなったらしい。
今日は夏休みを利用した、県の教職員の合同学習会。これから、県の職員が集まっている大型会議室で、私の教室の、生徒だけの様子を録画した映像が流されるのだ――――
もちろんこの現場には、ウチの学校の先生の皆さん、校長先生や教頭先生もいらっしゃいます。どんな映像が流れるのか、今からドキドキしているのは、私だけではないかも知れない。ちなみに編集工作をしない、させない、という理由で録画機材の搬入やら回収やらは県の教育委員会の人が行い、録画内容も今の今まで確認していない、という事らしい。いったいどんな内容が記録されているのか、とても気になる。もっとも、イジメだけは存在しないはずなので、そこだけは心配していないけれど。
例年通りであれば、ちょこっと映像が流れて、あとは検討会に移るはず。ちょっとだけの映像鑑賞だ。ちょっとだけ。
そして、上映が始まった。ウチのクラスの、1学期のおしまいくらいの授業だ。
※※※※※※※※※※※※
――自習を言いつけられて、担任の先生が出て行って。
少しだけ静かにしていた生徒達が、次第にざわついてくる……と、その時。
「自習って、なにするの??」「遊ぶのはダメっていってた」
「ねーユッキー、なんかやって」「ユッキーが先生のかわりすればいいよ」
そんな声がした後。
ユッキー、ユッキー。生徒達のユッキーコールが大きくなる。
まさかイジメか、と。映像を見ている他校の先生達のまわりの空気が緊張感のあるものに変わった後。
「しょーがないですね。ちょっとだけですよ」
くすんだ金髪と青い目の、山村 雪奈ちゃんが自分のイスを持って前に出てきた。教壇の上に上がると、イスを踏み台にして教卓の向こうに立つ。
「それでは授業を始めます!!」
ワーイ、と生徒の歓声が上がった。
「――ここにピーマン3個、ナスビ4個、スイカ3個、メロン2個、イチゴ10個、リンゴ5個があります」
カッカッ、と。テンポよく黒板に文字を書いていく雪奈ちゃん。
「――それでは、『 果物 』は、全部でいくつあるでしょうか??」
「えーと、えーと」「3たす4たす……」
カリカリ、とノートに筆算を書きながら計算していく、あるいは暗算で計算しようと、黒板を見ながら口に出している生徒たち。
「はい!!」
「はい美由紀ちゃん速かった!!お答えは?!」
「20個です!!」
「ブブー!!はい間違いです!!ざんねんでした!!」
「ええぇ――?!」「えー」「ぼくも20こだとおもった……」
えー、わかんない、と口々に言う生徒たち。引っ掛け問題というか雑学問題ひどい。これは算数というより社会の問題だ。
「答ぁえぇは………………5個!!リンゴだけです!!」
「「「「ええええええええええええ」」」」
変なタメを作って、引っ掛け問題の答えを言う雪奈ちゃん。『ひどい!!』と、先生方の中からも声が上がる。映像の中の雪奈ちゃんが、体をゆすりながら『……クイズだポンポコリン』と、何か変な歌のフレーズを歌っていた気がした。
「ここは日本です!!」
「「あ、はい」」
「日本の農林水産省、というお役所の決めたルールでは、『タネをまいて1年以内に果実が収穫できるものは野菜』そして『2年以上かかって果実が収穫できる植物は果樹、採れるのは果物』という事に決まっています。そのため、タネをまいて半年以内に収穫できるピーマンその他はぜんぶ野菜です!!この中で果物は、リンゴの木から採れるリンゴだけです!!ざんねんでした!!」
「「そんなぁ――――!!」」「「ひっかけだ――!!」」
「スーパーの果物コーナーにスイカやメロンやイチゴが並んでいるのは単に『甘くておかずにしないから』というのが理由のようなモノです。もっとも、外国では扱いが違うかもしれませんので、このルールは日本国内のもの、と理解してください」
「うおー。日本ルールかぁ」「日本人だからしかたないなぁー」
自習と言えば生徒が好き勝手に遊んでいたりするのが普通なのに、私の教室では雪奈ちゃんが何やら算数の授業のような事をしていた。あーもう、あの子供大人はまったく。
「ちなみに『果実』を食べる野菜の事を『果菜類』と呼びます。けっして、果物みたいな野菜の事ではありません」
カッカッ、と、黒板に『 果菜 』『 果物 』『 野菜 』という字を書いていく雪奈ちゃん。ちょっと思い起こしたように、ついでに『 葉菜 』『 根菜 』と付け加える。
「このように『食べる部分』によって分類する名称が変わるのですが、果菜類、という分類ではピーマンも果菜なのです。花が咲いた後にできる果実ですからね。まあ、野菜と果物では生産者の方から小売業者までの間の流通ルートがそれぞれ違いますので、その点ではハッキリ分かれていますね。まあ、昔から、スイカは野菜か果物か、みたいな問題はよく持ち上がっていて、外国では『トマトは野菜か果物か』というネタで裁判も起きた事がありますよ」
「えー?!なんでー!!」「トマトは野菜じゃん!!」
「はい。結局は裁判でも『トマトは野菜です』と判決が下りました。……ここだけ聞くとバカ話みたいに聞こえますけど、実際は大問題だったのです。判決に至る内容ではなく、最初に『トマトは野菜だ!!』と主張する人たちの理由ですよ」
「えー??」「ただのクレーマーじゃないの??」
小学2年生でも、もうクレーマーとか知ってるんだなぁ。
「当時その国では、トマトはほとんど外国からの輸入品ばっかりでした。ですが、外国からの輸入品には『 関税 』というモノがかかって、輸入する時は国に税金を払わないといけません。ですがその当時、野菜よりも果物の方が関税が高くて、トマトは最初は果物扱いの食べ物だったのです」
「トマトって、くだものだったの?!」「お金のはなしだ!!」
「当時の税金の違いは実に5パーセント!!野菜が10パーセントで果物は15パーセント取られました!!100万ドル分のトマトを買った時、税金を10万ドル払うか、15万ドル払うかでは大きな違いです!!ケチャップ製造業者にとっては材料費が減るかどうかの死活問題です。そりゃあ必死にもなりますよ!!毎年大量に買ってるんですからね。サラダにトマトの切り身を少し乗っけるような食べ方をするだけの、家庭消費とは話が違います!!」
「「うおー」」「「そういう話かぁ」」
算数ではなく社会の授業だ。最初からそうだったのかも知れない。生活、の授業だったのかも。
「ちなみに『ドル』とは、アメリカなんかで使われている通貨の単位で、今だと1ドル100円くらいの価値になります。さて美由紀ちゃん、5万ドルって何円ですか??」
「500万円です!!」
「はい正解!!普通乗用車が2台くらい買えますね!!」
「「おお――」」「たかいな!!」「やさいにしたいわけだよ……」
社会かな。算数かな。
「1ドル200円くらいだった事もありますが…………まあともかく、日本では野菜と果物については『植物としての分類』と『商品としての取り扱い』は別のモノとして取り扱われていたりします。主に『糖度』と呼ばれている、『食べ物の甘さ』によって、果物として販売するかどうかを決めている感じですね。甘いものは果物コーナーに、甘くないものは野菜コーナーに、という感じです。……そのため、最近どこかの農場で作ったコダワリのフルーツトマトが糖度15くらいで、果物のカテゴリーに入れた方がいいんじゃないかという話も持ち上がっていますね。ちなみにスイカは糖度10度前後くらいだそうで、安売りのスイカより甘いトマトだという事です。お高いですけどね」
「「ええ――!!」」「くだものじゃん!!」「フルーツだ!!」
フルーツトマトかぁ。確かにお高い。あれ食べるくらいなら果物を買うのが、普通の地方公務員なんだよなぁ。
「はい、ユッキーせんせい」
「なんでしょうか、静香ちゃん」
「甘いのがくだもの売りばにあるなら、レモンはどうしておいてあるんですか??」
「レモンは甘いですよ。糖度は10度くらいで、並みのスイカぐらいはあります。ただ、それ以上に酸っぱいので甘さがよく分からないだけですね。まあ、酸っぱいリンゴも置いてありますし、酸っぱいのも果物でオッケーなんじゃないですか」
「「「えええ――――?!」」」「「レモンて甘いの?!」」
「レモンは酸っぱいだけでなく、甘みもあります。だからレモンは疲れた時に都合がいいんですよ。酸っぱいのも疲れに効くし、甘いのも疲れに効きます。ダブル効果です。まあレモンの100パーセントジュースとか酸っぱくて飲めたもんじゃないので水で薄めて、薄くなりすぎた甘味をハチミツで補強した、はちみつレモンで飲んだりしますけど。そういえば、昔はずいぶん流行った覚えがありますねー。『はぁーちみつレモン♪』という歌がアタマに残ってます」
「「おおおお」」「「レモンすげえええ」」「その歌なに」
近くの先生方からの視線を感じる。『古いなー』『先生のネタかな』とかいう声も聞こえるんだけど。けっして仕込んでいませんよ。そして先生のネタでもありません。
「はい、ユッキーせんせい」
「なんでしょうか、拓馬くん」
「すっぱいと言えば、ビン入りの『す』は、何の汁なんですか??」
「拓馬くんの言っているのは、『 酢 』でしょうけど、モノによってちがいます。『ツンとしないお酢』とか書かれているヤツは柑橘類、つまりレモンの仲間の搾り汁が材料になっています。レモンや柚子とかですね。でも、ラベルのどこかに『穀物酢』とか『醸造酢』とか書かれているのは主な材料が、お米や麦ですが、搾り汁ではありません」
「「ええ――」」「おこめ――??」
カリカリ、と雪奈ちゃんが黒板に字を書いていく。カメラは教室の後ろに仕掛けられているので距離があるけど、雪奈ちゃんが漢字で『 醸造酢 』と書いているのは見えた。
「まあ他にもリンゴ汁を材料にしてたりする場合もありますけれど、ポイントはラベルのどこかに『 醸造酢 』と書かれているかどうか、です。この『 醸造 』っていうのは、お味噌やお酒なんかを『発酵』させて作る事を指します。発酵させたお酢は、酸っぱさの成分のほとんどが酢酸という酢なので、ツンとしますし、飲むと咳きこみますよね」
「はい、ユッキーせんせい」
「なんでしょうか、加奈子ちゃん」
「『はっこう』って、なんですか」
「人間に都合よく食べ物を腐らせる事です。食べられない腐り方を『腐敗』と言い、食べられる腐り方を『発酵』と言います。完全に人間の都合ですね。お酒、お酢、お味噌、お醤油、納豆、チーズ、ヨーグルト、あとは……お漬物も、まあ半分くらいは発酵食品です」
「はい、ユッキーせんせい」
「なんでしょうか、加奈子ちゃん」
「どうして『ふはい』したものは、食べられないんですか」
「死ぬほど毒がたくさん入っていて、かつ、マズいからです。ちょっとくらい毒が入っていても、美味しくて死ななければ食べてしまうのが、食い意地の張った人間という生き物です。人間が地上でアホみたいに数が増えているのは、自分で食べ物を畑で増やしたりする知恵がある事と、自然界の食べ物が少しずつ持っている毒物への耐久力が色々と高いからです。なんでも食べられるのが人間のいいところです。猫や犬が食べると死んじゃう食べ物も、人間は喜んで食べてますからね」
「「おおお――」」「「にんげんつよいな!!」」
この子いくつなの??上級生??みたいな声が聞こえる。クラスの子と同級生なんですよ。しゃべりで判断しづらい子ですけど。
「はい、ユッキーせんせい」
「なんでしょうか、幸恵ちゃん」
「うちのタマが食べると死んじゃう食べものって、なんですか」
「幸恵ちゃんちはネコさんを飼ってましたね。色々あるので、ワタシもぜんぶは覚えてません。あとで自分で調べてください。でも、代表的なところだと長ネギ、玉ねぎ、ニラ、ニンニクみたいな、生だとちょっと辛味のある野菜とかですね。ネギの仲間はぜんぶダメだったはずです。ネコさんにも個体差がありますけど、基本的にこれらを食べると血液か何かの機能が壊れて死ぬ……という話だったと思いますね。ちなみにどれだけ煮込んでも焼いても、結果は同じです。人間の食べ物をうかつに与えてはいけません。スープやハンバーグにもタマネギは入っている事が多いですから、欲しがったからといってハンバーグを半分あげたりしてはいけません。ネコさんの耐久力を超えたら、1日くらい後にフラフラしだして、バッタリ倒れて動かなくなる可能性もあります。知らなかったではすみませんよ。自分のお皿に乗ったものは、ぜんぶ自分で食べないとダメです」
「きをつけます。ほしがってもあげません!!」
「はい、ユッキーせんせい」
「なんでしょうか、翔太くん」
「犬を飼う事になったんですけど。こないだウチに来ました」
「ほほう。なんという種類のワンちゃんですか??」
「えーと……たしか、ビーグルです!!」
「イギリス原産のワンちゃんですね。お名前は??」
「まだ決まってません」
「そうですか。そのうち見に行きたいですねー。ちなみに、ワンちゃんにあげてはいけない食べ物は、ネコさんにあげてはいけない食べ物と、かなり共通しています。でも、少し違うところもあったはずなので、それぞれ調べてくださいね。えーと、代表的なところでは、ネコさんと同じく、ネギ関係は全部ダメです。あと、乾しブドウも食べると死ぬ可能性が高いです。あと、チョコレートも死にますね」
「「ええ――」」「「チョコたべられないの?!」」「「ブドウもー??」」
「はい、死にます。チョコの匂いがする程度のクッキーでも微妙ですが、固まりのチョコをあげたら間違いなく死ぬと思います。基本的に人間のお菓子は、人間が食べる事を前提として作られています。犬猫に食べさせる事は、これっぽっちも考えられていません。気を付けてくださいね」
「「「はぁ――――い」」」
「というか、翔太くんの家のお菓子は、今後は厳重に管理する必要があります。翔太くんがテーブルに置きっぱなしにしたチョコ菓子をワンちゃんが勝手に盗み食いして、見つけた時には冷たくなっている、などという事にもなりかねません。チョコ菓子、レーズンパン、乾しブドウなんかは買わない方がいいかもしれません。もしくは戸棚の中ではなく、冷蔵庫に入れて管理しておくとかですね。かしこい犬だと、オーブンや戸棚くらいなら開けて中のモノを取っちゃいますから。外飼いの犬ならいいんでしょうけど、座敷犬だと危ないです」
「ひゃぁ――――!!」
翔太君の悲鳴が聞こえた。どうやら室内犬だったみたいだ。
「そういえば、イギリスで犬、といえば。こんな言葉がありますね」
ユッキー先生が語り出す。映像を見ている先生方の中から、『まさか』という言葉が漏れるのが聞こえた。
「『子供が生まれたら犬を飼いなさい。子供が赤ん坊の時は、子供の良き守り手となるでしょう。子供が幼い時は、子供の良き遊び相手となるでしょう。子供が少年期の時は、子供の良き理解者となるでしょう。そして子供が青年になった時、犬は自らの死をもって子供に命の尊さを教えるでしょう』……という言葉です。犬も猫も、人間の4倍の速さで歳をとるといいます。中型犬や猫の寿命は、せいぜい14年程度。20年生きる犬猫なんて、滅多にいません。幸恵ちゃんちのタマが何歳かは知りませんが、幸恵ちゃんや翔太くんが高校生か、大人になる頃には、いずれも死んでいる事でしょう」
「「わぁあああ――――!!」」「「ギャー―――!!」」
生徒たちの悲鳴。そして、そんな事を言わんでも、みたいな声が先生方の中から聞こえる。
「フランダースの犬みたいな大型犬なら、7年くらいで死にます!!生き物を飼うという事は、死ぬまで責任を持つという事です!!人間だったら知恵をつけて独り立ちもできますが、犬猫は人間社会で勝手なマネをしたら保健所に送られて殺処分です!!飼い主が守ってあげなくてはならないのです!!飼われている犬さんも猫さんも、飼い主の事が大好きです。ですから、飼い主の方も犬さん猫さんの事を、大好きでいてあげてください。彼らは、飼い主の事が大好きです。ですが、それは『飼い主がそうさせた事』だという事を忘れてはいけません。先に『ペットを飼いたい』と言い出したのは、飼い主の方なのですよ。彼らはその気持ちに応えてくれているのです。大事にしてあげてください。最後まで」
「「はぁ――い……」」
生徒たちが静かになる。動物を飼う覚悟、というものを教えている。優しくも厳しい授業。……教えているのは、同学年のクラスメイトなのだけれど。
「なお、猫は20年生きるとシッポが二つに分かれて2本になり、『猫又』という妖怪になるという言い伝えがあります。人の言葉も話したりしますよ」
「「まじでぇ――――!!」」「「ネコすげぇ!!」」
急にテンションが上がる生徒たち。妖怪マンガとかゲームとかアニメの影響だろうか。
「犬も『 犬又 』という妖怪になるといいますが、こちらは30年くらい生きないとダメらしいので、猫さんよりもハードルが高いですね」
「「うぉぉ――――!!」」「「いぬがんばれ!!」」
「猫又を目指すにしろ犬又を目指すにしろ、毒を食べさせてしまったらアウトです。人間と同じように、毒を食べさせないように気を付けてあげましょう。人間の赤ちゃんにも食べさせてはいけない食べものがあるんですから、食べものに関しては、人間の赤ちゃんのつもりで気を遣ってあげてくださいね」
「はい、ユッキーせんせい」
「なんでしょうか、京也くん」
「ウチに今、もうすぐ1さいの赤ちゃんがいます。食べさせていけないのは何ですか??」
「人間の赤ちゃんだと、有名どころでは……」
私のクラスの『自習』は、そのままチャイムが鳴るまで続き――いつもならば適当なところで早送りしたり中断したりするところを、今日は録画映像を最後まで見てしまった私たちだった。
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「ヤラセじゃないんですよね??」
「あの子、本当に2年生なんですか??」
「上級生の子じゃないんですか??ホントに??」
「ハーフの子でしたよね。帰国子女ですか。もとはどこの学校で??」
「発表形式の授業を、2年生からもう行われている??」
「色々としっかりしている空気でしたが、普段はどのような指導を」
「ウチの低学年は落ち着きがなくて……相談に乗ってもらえませんか」
「あの授業内容、実質的に4年生以上の社会と理科ですよね」
「『生活』の授業の進行が速いんですか??どのような方針で??」
「ときどき古いネタ挟んでくるのは、先生の影響ですか」
「ご出身は東海地方ですか??」
などと。
資料映像の視聴後、私を中心として、ウチの学校の先生が質問攻めにあっていた。いえ学習指導要綱に従ってやっているだけで、特別な事は何も、とか応対するも、『またまたぁ』とか言われて、なかなか解放してもらえない。どこの先生方も生徒の指導には苦労しているらしく、生徒が自主的に規律を守れる、学習意欲を持つような学級にしたい、という事なのだろうと思う。気持ちはとてもよく分かるけれど、私の学級には特別な子供が混ざっているんですよ。ただ、それだけなんです……先生の代わりに子供の面倒みてくれる大人が混ざっているだけなんですから。たぶん。
ここで雪奈ちゃんを『前世の記憶を持つ子供なんです』と説明して『彼女が代わりに面倒を見てくれているんです』とか言って納得してもらえればいいんだろうけど、そんな事を言えば、有給を強制的に取得させられた上で、精神科への通院記録と診断書の提出を義務付けられる事は間違いない。やれやれだよ。
私の担当クラスを基準にして、ウチの学校を測られても困る。雪奈ちゃんが卒業するまで、ウチの学校を資料対象にするのはやめて欲しいなぁ、と。そう思う私だった。
フィクションです。
教育委員会が盗撮まがいの資料を作ったりしませんし、実在の団体、個人、名称、地方番組などに一切の関わりはございません。現行でのクイズ番組の最長長寿番組はアタック25らしいですね。クイズ番組関係の何かも、そのうちやってみたい気がします。
多少の問題は、ゆるーく読み流す感じでお願いいたします。良くも悪くも無害。それが当作品でございます。今後ともよろしく。




