02 僕と妹には血のつながりがない
まとめ投稿2話目です。
僕の妹は、転生者かもしれない。
そんな事を考えている僕は『山村 大樹』。来年からは中学受験を考える事になる、小学5年生だ。
ちなみに『転生者』とは、誰かの生まれ変わり、という意味だ。死んだ人の魂だか霊魂だかというものが巡り巡って、また新しい人生を送る、という考え方に基づいている。基本的に全ての人類が転生者の可能性がある上、それを証明する事は人間にはたぶん不可能なのだけれど、ここで言う『転生者』とは、『前世の記憶がある転生者』の事を指す。もちろん僕には前世の記憶なんて無い。それが普通だと思う。
ここら辺の知識はインターネットで読める小説とか漫画で覚えた。
僕には妹が二人いる。上の妹は『春奈』。小学4年生だ。こちらは普通の小学生。もう一人の妹は【 雪奈 】。小学2年生。転生者ではないか、と疑っているのは雪奈の方だ。雪奈は転生者かもしれない――そう、思い始めたきっかけは去年、僕が小学校4年生の夏休み。雪奈が小学校に入学して初めての夏休みの事。
『しょうがくせいは、さいこうだぜ!!』
庭でバンザイのポーズをしながら、雪奈がそう言っていたのを見てからだ。
何を言っているかよく分からないと思ったけど、あとでインターネットで偶然に、けっこう昔からあるギャグ?ネタの一つであるという事を知った。あれ以降、雪奈の言動に注意を払うようになり、雪奈の数々の言動から、雪奈は転生者ではないのかと疑いを持つようになっている。……つまり前世の記憶があるのではないか、と疑っているという事だ。これは当時に読んでいたインターネット小説の影響が無くもない、と思う。
もちろんこの考えは誰にも言っていない。言ったら言ったで僕が変人扱いされる可能性が高いし、中途半端に信じられたら、雪奈が病院に連れていかれたり、場合によっては悪霊に憑りつかれたとか疑われて変な所に連れていかれる可能性もある。現状、雪奈は時々……僕が知っている限りだけど……時々、奇行を行う程度の、ちょっと子供らしからぬ言葉遣いをする子供だ。
見方によっては、大人ぶっているだけの子供と見えなくもないだろう。何より、雪奈の兄として、可愛い妹の不利益になるような発言をしてはいけない。この考えは僕だけが胸に秘めておかなくてはならない。だから誰にも言ってはいけないのだ。
僕ら兄妹と、雪奈には血のつながりが無い。
雪奈はまだ赤ん坊の頃に、僕の家にやってきた。父と母と共通の、学生時代からの友人の娘だ。確か、苗字は「藤宮」といったはずだ。家にも何回か来た事があるけれど……あるみたいだけれど、僕が小さかった頃だから、良く覚えていない。
藤宮さんと僕たちの両親はとても仲が良かったみたいだ。親友と呼べる間柄だったのかもしれない。雪奈、という名前も、妹の春奈の名前にあやかってつけたもの、という事らしい。
藤宮さん夫妻は、雪奈がまだ保育器から出られない間――雪奈は未熟児として生まれたから、けっこう長い間、保育器暮らしだったのだ――その間に、交通事故で他界した。
藤宮さん夫妻の奥さんの方は外国の人で、アメリカ生まれの人だったみたいだ。結婚する時に色々あったらしく、結婚を機に旦那さんの方は親戚と縁が切れてしまった、らしい。雪奈が両親を失った時、親族に引き取り先が無かった。間違いなく施設行きになるところだった雪奈は、僕らの両親の申し出により、僕の二人目の妹として、家にやって来たのだ。
『かわいい!!』
雪奈を見た春奈の第一声は、そんな感じだったと思う。
『今日からこの子は、うちの家族だ。お前たちの妹だよ』
『優しくしてあげてね。春奈ちゃん』
『ほんと?!ずっとうちにいるの?!やったあ!!』
父さん母さんの言葉に、春奈がキャーキャー言って騒いでいたのを覚えている。
それから色々あった。赤ちゃんの面倒を見る事の色々が。
赤ちゃんの面倒を見るのって大変なんだなぁ、と両親に対する尊敬の念を抱いたものだ。それでも雪奈は可愛い。今まで嫌いになった事は一度も無い。もちろん春奈も可愛いけど、雪奈は特別に可愛い気がする。単純に顔の作りがいいんじゃないかと思う。たぶん雪奈を生んだお母さんに似ているんだろう。
雪奈はおとなしい子で、ときどき鏡をじーっと見ていたり、ぼけーっと窓の外を見続けていたりする事が多かった。よく分からない理由で(もちろん僕らにとっての事だけど)泣き叫ぶ事は皆無で、泣く時は必ず用事がある時。それ以外の時はとても静かで、両親いわく『手のかからない赤ちゃん』だという事だった。静かすぎるので心配されたくらいだ。
雪奈は引き取られてくる前に何度か高熱を出して生死の境をさまよった事があるようで、父さん母さんは何度かお医者さんに相談して、脳に障害が無いかどうかを検査してもらっていたという。
結果は何も問題なし。健康そのもの、だという事だった。つまり、物静かなのも、ぼけーっとしている事が多いのも、単に「そういうのが好き」という事で片付いたわけだ。つまり、言葉を話すようになってから
『わたしはけっこうカワイイほうだとおもうのですが、どうでしょうか』
などと子供らしからぬ言葉遣いをするのも、本人の個性という事で片付いていた。
『雪ちゃんは可愛いよ!!』
『ありがとうございます。おねえちゃんもカワイイです』
『僕は?』
『おにいちゃんは、ふつうです』
『……そっか』
『まちがえました。おにいちゃんはカッコいいです』
こんな感じだった。
嫌われてるわけじゃないけど、なんだか雑。そんな感じ。しかし気配りされたりする。あと敬語で話す事が多い。本人いわく『テレビで覚えた』との事だったけど、今となっては前世の記憶があるせいではないか、と思う。
――ある時、何かで「連れ子の兄妹は結婚できる」という記事を読んだ。
でも、雪奈は連れ子じゃない。養女だ。確か法律上、本当の兄妹扱いされる事になる、というのも読んだ気がする。つまり僕と雪奈が何かの間違いで……恋愛、関係になったとしても、結婚はできない、という事だろうか。
――まあ、そういう気持ちは持ってないんだけど。少し残念な気持ちにもなった。
『もしものはなしですか?けっこんできますよ』
『え?でも、雪奈は妹だよ?』
どういう話の流れだったか忘れたけど、僕と雪奈が結婚できるかどうか、という話になった時、雪奈がそう言った。
『わたしはようじょです』
『うん』
『ちのつながりは、ありません』
『……うん』
『そのため、みんぽうじょうの、とくべつそちにより、けっこんがきょかされています。めいじじだいの、かとくそうぞくせいどをほしょうするほうりつの、なごりです』
『……そうなの?』
『まあ、いまのほうりつをちゃんとしらべたわけでは、ないですけど。たぶん』
『……そうなんだ』
『おにいちゃんは、わたしをねらっていますか?』
『そんな事考えてないから!!』
時々こういう事を言うから、やはり転生者ではないかと思ってしまう。しかし雪奈はこういう部分……転生者疑惑を持たれないような立ち回り、については無頓着な気がする。気にしてはいないのか、それとも本当は転生者では無いのか。雪奈は「なんでそんな事を知っているの?」と聞かれると、「テレビで」「ネットで」と答える。今の時代、言い訳は大抵この二言で済む。転生者には便利な時代だと思う。
ちなみに後でネットで調べたら、本当に、そういう事になっているらしい。男子が家督相続を行い、直系の血筋を絶やさないための養子縁組及び、実子との結婚を行うという手段を保証するための民法特別措置、というものらしかった。おかげで連れ子同士の結婚、養子と実子の結婚が認められている。古い制度の名残りというのも、悪い事ばかりじゃないな、と少し思う。別に恋愛感情は無いけれど、ちょっとうれしくなったから。
雪奈は時々変な言動がある以外は、ちょっと大人びているだけの子供だ。他の子よりも体が大きくてぽっちゃり体型なのも、食べるのが好きなのと、4月生まれという事が関係しているだけに過ぎない。日常的に雪奈へちょっかいを出して(あしらわれて)いた木村君が転校して以来、クラスも平穏そのものらしい。2年生はまだ1年生のクラスがそのまま持ち上がっているので、クラスメートとの仲も良好だという。
若干状況が変わったといえば、やんちゃな男子のボス役だった木村君が転校した事で、雪奈のクラス内カーストが上位確定した上、女子全般と、雪奈と仲の良かった男子の地位が向上した事らしい。雪奈は現在、クラスのまとめ役のような地位に居るのだという。
仮に雪奈が本当に転生者だったとしても、小学生は小学生という事なのだろうか。だとすれば、あまり気にするような事でもないのかも知れない。
そんなある日、大事件が起きた。
大竹さんちから電話がかかってきた。『雪奈ちゃんの事で、とにかく来て欲しい』という内容だった。大竹さんは町内でも外れの方にある家だ。何が起きたのかと、早めに帰宅していた僕、土曜休みで家にいた父さんも含めて、三人で大竹さんの家に行くと。
泣きじゃくる2人の女の子を、どうにか落ち着かせようとしている大竹さんのおばさんと、困った表情の大竹さんの姿があった。女の子達は揃って『雪ちゃんがああああ』と泣き叫ぶばかりで、何が言いたいのかまるで要領を得ない――そして少しの時間をかけて、女の子達がどうにか話せる程度に落ち着くと、何が起きたのかを知る事ができた。
――雪奈が、誘拐された。
雪奈が友達と三人で下校中、後ろから近付いてきたワンボックスが停車。中から出てきた男二人が雪奈以外の二人を地面に引き倒してランドセルから防犯ブザーをストラップごと引きちぎると、雪奈を捕まえて車に乗り込み、すぐに発車したのだという。
二人はしばらく茫然としていたが、状況を理解すると大声をあげて――いちばん近い、大竹さんの家まで走って助けを求めて、現在に至るという。
――その後すぐに、父さんが警察に通報。
――――警察との応対の後、眠れない夜が明けて、日曜日の朝。
――――――まだ、雪奈は家に帰ってきて、いない。
ハードな設定があったり、展開があるような気がするのは気のせいです。もう1話あります。