15 兄妹でアニメ鑑賞
未練を絶つ。
雪奈が、録画したTVアニメを見ている。
ただし、1.3倍速で。オープニングとCMはスキップして、本編とエンディング、次回予告を高速処理で見ている。日曜の朝にやっている女の子向け長寿アニメシリーズ、『パティキュラ・シリーズ』の、今やってるやつだ。飲み物を手に、黙々と鑑賞している。
「めんどくさい仕事です」
とは、雪奈の言葉。雪奈にとっては『日曜の仕事』なのだそうだ。
「ホントはほかの事に、じかんを使いたいのですが」
「パティキュラ、キライなの??見なきゃいいんじゃない??」
「そういうワケには、いきませんよ……これを見ておかないと、クラスの女子と話がつうじない事があるのです。好きキライでは、ありません」
「そうなんだ……。あたしは、けっこう好きだったけどなあ、パティキュラ」
春奈が雪奈と話をしているけれど、感覚は微妙に違うようだった。
「ひとつひとつの話を見るぶんには、それなりに面白いですよ」
「じゃあ、何がイヤなの??」
「あの小動物です。ひねりつぶしてやりたくなります」
「えええええええ」
雪奈はマスコットのポジションにいる、しゃべる小動物がキライなようだった。僕はけっこうカワイイと思うんだけど。ちっちゃくてコロコロしている所とか。
雪奈が言うには、『捨てゴマをスカウトする時点で、連中の性根は腐っている』みたいな事が理由みたいだった。魔法を使えるなら支援くらいはできるんじゃないか、むしろ自分に魔法をかけて変身してみせろ、そして力尽きるまで戦うべきだ。と。
「どちらかというと、男の子向けの、『なっとくずくで戦うヒーロー』の方が好きです。あの女の子たち、ひゃくパーセントだまくらかされて戦ってますよ。おそらく自分がやっている戦いが『ほんしつ的に戦争』だという事を理解している子は、いないでしょう。いちおう『大しゅうごうシリーズ』でも変身しているところを見ると、にんきが終わった後も変身のうりょくを使えるのかもしれません。それが命に見合うほうしゅうかどうか、という点は人によるのでしょうが」
「命の対価か……」
変身ヒロインに変身する能力、命がけの戦いに対する報酬としては、どうなんだろう。
「やっぱり、中学生くらいのとしごろだと、仕方ないんですかねえ。『キミだけがたよりなんだ』『キミしかできない』『キミがやらねば、だれがやる!!』『世界をすくえるのは、キミだけなんだ!!』……とか言われると、リアルちゅうにびょう年代だと、あらがえないんですかねえ」
「僕には分からないなあ」
だってまだ小学5年生だからね。もしかすると、中学生になったりしたら分かってしまうのだろうか、そんな気持ちが。
そんな話をしながらも、雪奈の『毎週の仕事』は終わった。
「ここからはワタシの時間です」
「例のロボのやつ??ちょっと待ってね。飲み物を持ってくるから」
「僕も見るよ」
ここからは、ここ最近ネットで無料放送(期間限定)している、有名アニメのTVシリーズを見る時間だった。雪奈の意見が採用された結果で、ネットの画面をリビングのTVに出力して観る事になっている。
ちなみにこちらのTVアニメも、主人公は中学生だったはず。だというのに、登場人物の必死さとかには雲泥の差というか、ジャンルが違うとここまで命の扱いが違うのか、という凄まじい落差がある。ロボットものだから、なんだろうか。
なお、R15指定に近いエピソードもあるという話だと思ったけど、今のところ父さん、母さんに視聴禁止を言い渡されていないので、兄妹そろって観ている。
「当時も夕方にやっていた番組ですから、だいじょうぶです。でも、映画ばんの、ラスト2話は見てはダメです。ざんこくシーンもありますし、別の意味でも、ぜつぼうします」
「「そうなんだ」」
なぜ知ってるの、とはもう聞かない。たぶんネットで見たんだろうし。
「ワタシは赤スーツ派なんですけどね、かわいそうすぎて、もう見てられませんでしたよ。あの白カラスども、ひねりつぶしてやりたいです」
よく分からないけれど、そういう事らしかった。あと、『ひねりつぶす』というセリフをまた聞いた気がする。お気に入りになっちゃったのかな??可愛い顔でそのセリフはどうなのかな、と少し思う。
「どうじ上映の、バカアニメに心を救われたものです」
「ふーん??どんなアニメなの??明るいやつなんでしょ」
ちょっと興味を引かれたのか、春奈が質問していた。
「巨大びじょの、おっぱいがポヨンポヨンゆれるアニメです」
「なんなのそれ」
「どういう方向にバカなのそれ」
どのくらいバカなのか、僕もちょっと興味を引かれたよ。
「映画ばんの最終回は、しょうじき気にいりませんけど。まあ、このロボアニメのTVばん最終回も、心から受け入れられるようになったのは、あの映画ばんの最終回があったからですし。悪いところばかりでもないです。……まあ、TVばん最終回を受け入れられるようになったのは、ゲームのおかげもありますけどね」
「へー。どんなゲーム??」
また春奈が質問している。
「そりゃもう、いち時期やりこんでいた、これです」
雪奈が、よく分からないゼスチャーをしていた。
何かを右手で鷲づかみにして、右へ回転させるようなゼスチャー。なんだろう。プールのシャワーのバルブを掴んで回す……みたいな動作だな。ゲーム??どんなゲームだろう。ゲームセンターのゲームかな。
「さいしょにアニメで観た時は『なにがおめでとうだ!!』とか思ったものでしたが、ゆうぎじょうで見た時には、主人公じゃないですけど『ありがとう!!』って気持ちになりましたからね。あ、ワタシ、ビームクリスタルが巨大化するプレミア見たことありますよ!!ホントですから!!」
むふーん。と、何か得意そうにしている雪奈だったけど。全然意味が分からなかった。
あと、前世の記憶系の隠蔽工作のようなもの、もう完全にガバガバな気がする。興奮しているせいかもしれないけど、少し落ち着こうよ雪奈。
「もちろん今はやってません。ご安心ください」
「うん。わかった」
「良く分からないけど、わかった」
良く分からないけどね。いつか謎が解ける日がくるんだろうか。
そんな訳で僕ら3人は、紫色で目つきの悪いロボが大暴れするロボットアニメを仲良く鑑賞した。あと、赤スーツの子は普通に可愛いと思う。茶髪で青い目なのもポイント高いと思った。
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鑑賞が終わって、お菓子を食べて一息ついていたところ。
「そんなワケで、じつはリメイク版には、きたいしていたのですが」
「あ、そういえば。やってたね」
「まだ完結してないんだっけ。4部作??だったかな」
確か、すごい人気が出て温泉名物とかにもなって、制作会社の一大コンテンツになってその関係でリメイク版が制作されたんだったかな。僕はあんまり興味なかったから、DVDレンタルで2部まで1回ずつ見ただけだけど、今はどうなってるんだろう。
「なんだか『マボロシの大団円』にたどり着ける気がしなくなってきたので、もうどうでも良くなってきました。かつては、『この物語のエンディングを見るまでは、しねない』とか。思っていたじきも、あったんですけどねえ」
「「そうなんだ」」
それは初耳だよ。まさかと思うけど、前世の記憶を持って転生してしまった原因って、そのアニメが理由じゃないよね?!そう考えると、このロボアニメの影響力が、何やらそら恐ろしく感じてくる。人の魂を縛る力でもあるんじゃないだろうな、このアニメ。
「リメイクばんも、第2部は、すごくもりあがったんですけどね」
「どんなとこが??」
僕も聞きたい。どのシーンがお気に入りだったんだろう。
「『ともだちの歌』が流れるシーンです」
そこなの?!確か、主人公が絶望の叫びを上げながら戦うシーンじゃなかったかな?!あと、お気に入りの赤スーツの子が再起不能にされるシーンじゃなかった?!
「あまりにもえんしゅつが素晴らしすぎて、もう、うなる他ありませんでした」
「「そうなんだ……」」
「お米がかわいそう、とは思いましたけど」
「「そうなんだ」」
ロボが戦ってる場所、足元が田んぼだったっけ。
ものはついでだと、第3部はどうだったのか、第4部に期待するところはあるのか、とか聞いてみたけれど、『万能宇宙戦艦のテーマ』が流れるシーンは良かった、とか。強引にハッピーエンディングにする事ができれば監督は天才だ、とか。話の筋に関する評価みたいなものは聞けなかった。どうやら、このロボアニメに関する雪奈の未練は、ある意味で綺麗に絶たれた、と言ってもいいようだった。
未練だとか、恨みだとか。そういうものを残したり持ったりしたまま、死にたくはないなぁ……と、ちょっと思う僕だった。転生に関わる雪奈の真実は、本人にも謎なのだろうけど、今の雪奈の人生、小さな事でも、悔いやら未練やらを残さないよう、楽しく生きて欲しいと、そう思った。
――それにしても。
雪奈の『あのゼスチャー』、いったいどんなゲームの事なんだろう。世代が上なら、分かるようなものなんだろうか。父さんが帰って来たら、ちょっと聞いてみようかな。
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その後。
父さんに『これやってみたい』と、例のゼスチャーをしてみた僕は、父さん母さんに聞き取り調査という取り調べを受け、その過程でちょっと怒られた。
今回の一件で、『うかつな行動はしないで、まず自分で色々と調べてからにしよう』その事を学んだ僕なのだった。
未練を絶ってこそ、新しい道に光が差す――事もあります。
人によって何が未練となって残るのか、そんな事は誰にも分かりません。ええ。
文字数的に規定に達したら、集英社のイベントタグを登録しようかなー、と。締め切りまであと1か月……宣伝効果としては、微妙かな……??