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14 みんなで海水浴 ~幼女の怒り~

みんなで砂あそび。

 夏休みが始まり、間もなくの事。


「お父さーん。みんなで、海水よくに、いきましょうよー」

 雪奈が物ではなく、海へ遊びに行くのを、おねだりしていた。


「海水浴かあ」

「海の水につかると、体によい、と。おおむかしに言っていたらしいですよ。新ちんたいしゃが良くなり、体の汚れもおちるそうです。外国の人が言い出したことみたいですけど」

「ほおー。そうなのか」

「でもじっさい、そういう効果はないみたいです。そもそもそういう事を言いだしたころは、外国じゃ『水につかるのは体にわるい』とかいう考えが根っこにあったころじゃないですかね??海水よくがレジャー化したり、にゅうよくが当たり前になってからは消えたみたいですけど。日本では、かんがえられませんよね。みそぎは良いことです」

「海水浴がしたいんじゃなかったの??」

「ハッキリ言えば、大きなすなばで遊びたいのです。砂のおしろとか作りたいです」


 どうやら、砂遊びが目的のようだった。海はオマケらしい。


「つりして、おさかなをやいて食べるとか。貝をみつりょうしてやいて食べるとか。ひょうちゃくしたワカメをにて食べるとか。そういうのなら、きょうみありますけどね」


 部分的に問題のある発言をしているけれど、雪奈はいつも通りに食べ物に弱い感じだった。結局、あまり大した我が儘を言わない雪奈の『たまのおねだり』という事と、春奈も一緒になって『遊びに行こうよー!!』と要求した事もあって。日帰りの海水浴、ちょっとした家族旅行みたいな遠出の計画が成立した。

 朝早く出て、夕方に帰ってくる。けっこう大変な感じになるかも知れないけれど、去年までは雪奈もまだ小さいからと、お盆とかの親戚集合の機会以外、遠出もしなかった。はじめての家族全員での海水浴、ちょっと楽しい。


「水着を買ってもらわなきゃ!!」

「ワタシはいりません。がっこうのがありますから」

「えぇー。お出かけなんだし、可愛いの買ってもらおうよ」

「ワタシはけっこうです。おべんとうのレベルアップに、しきんとうにゅうすべきです」


 その後も雪奈は『そんなお金があったら、海鮮丼が食べられますよ!!』みたいな事を言っていたが、父さん母さん、春奈の説得を受けて『今年と来年の共用なら』という条件付けで、しぶしぶ水着を購入する事に同意していた。やはり雪奈は花より団子。とりあえず物欲よりも食欲を満たしたい年頃??のようだった。


※※※※※※※※※※※※


 そして、よく晴れた週末。雪奈のリサーチにより『砂の質が良くて砂遊びに適した海水浴場』が選ばれて、そこへ遊びに行く事になった。基本的に雪奈の提案が採用された結果『海水浴と称する砂遊び』という小旅行になっている。

 父さん母さんにしてみれば、あまり派手に遊びまわられると付き合うのが大変だから、近くで遊んでいてくれるなら、わりと楽なものだろう。とはいえ、僕が妹2人の面倒を見ないといけない。別に嫌なわけじゃないけど、責任重大だ。気を付けないと。


 ――当日。出かけに何だか色々とゴタゴタして、現地到着が当初の予定時間の7時ごろから、10時ごろにまで、遅くズレ込んでしまったのだけれど……


「……ふぅ――」

「雪ちゃん、元気出そうよ」

 雪奈が移動中の車内で、凄まじくテンションダウンしていた。


「こんなじかんに、ばしょがあいているワケ、ありませんよ。ちゅうしゃじょうは見つからず、見つかったと思えば、ぼうりをむさぼるかかく。しかも遠いというのがおやくそく。どうにか海水よくじょうについてみれば、レジャーシートを広げるスキなど、どこにも見あたらないのです。もう、おわりです。しゅうりょうしました。わがままを言って、ほんとうにもうしわけ、ありません」

 そんな事を言い、少しだけ死んだ魚のような眼をしている雪奈だった。


 けれど――


「お父さん!!お父さん!!ちゅうしゃじょうがあいてます!!ほらそこ!!」

 現場に比較的近い駐車場が空いているのを発見すると、テンション爆上げ。


「あー、やっぱり、そこそこ混んで……」

「ひゃ――!!すいてます!!すいてますよ、お父さん!!海がみえます!!」

 海が見える、という理由でテンションMAX状態になった雪奈だった。


 詳しく聞いてみれば、雪奈が想像していたのは『安全な浅瀬は海面が見えないくらいに人がギュウギュウ詰めになっている光景』だったのだという。もちろん砂浜は波打ち際近くまでレジャーシートが敷き詰められ、足の踏み場もない状態になっている様子なのではないか、という想像図だったらしい。


「でも、よくある海水浴の写真は、そんなに酷くないと思うよ??」

「あんなの、せんでん用のCGだと思ってました」

 広告写真はまるで信用していないみたいだった。


「でも、それでどうやって砂遊びをするつもりだったの?」

「あさ早くにばしょ取りをすれば、ワンチャンあるかと思いまして」

 まるで花火大会の場所取りのような感覚だったらしい。


「かくほしたばしょを、てんばいする人はいないんですか??」

「それ、見つかったら捕まるやつだから」

 花火大会だったら、やる人はいますよ。みたいな事を言う雪奈だった。やはり転生者目線なのか、色々と厳しい見方をしている気がする。


 家族の場所を確保して、レジャーシートとパラソルを展開する。砂浜までは少し離れているけれど、視線は通っている。父さん母さんが休みながら子供を見るのには悪くない場所だった。


「おねえちゃん!!てはずどおりに!!」

「がってんだ!!」

 雪奈と春奈が、荷物からナイロンロープと手製の立て札を持ち出して走りだす。波打ち際から充分に離れた場所に、ロープでナワバリを作っていく。そして四隅に立てられた立て札には、『建設予定地』と書かれていた。どうやら、あそこに『砂の城』を建設するらしい。二人はさっそく、プラスチックのスコップとバケツで作業を始めた。まずは足元を水平にならしつつ、海水を運んで固めている。整地作業のようだった。


「本当に海を無視してるんだけど……」「名目は海水浴よね??」

「まずは砂場を確保するんだってさ」

 それじゃ僕も行ってくるから。と、父さん母さんに一声かけて。お茶のペットボトルが入ったクーラーバッグを持つと、僕も建設予定地へと向かった。


※※※※※※※※※※※※


「おにいさん、ちょっとそこのおにいさん」

「……んん??俺達の事かい??」

「はい、そうです。ちょっと見ていってくださいよ」

「……子供なのに、何かのキャッチみたいだな……」「……だな」

 若い男の二人連れは、金髪で青い目の幼女について行った。


「おねえさん。ちょっとそこのおねえさん」

「え……??あたし達の事??」「わー、かわいい子ね。日本語も上手」

「ありがとうございます。ちょっと見ていってくださいよ」

「なんだろ」「何かのイベントかな??」

 若い女性の二人連れは、金髪で青い目の幼女について行った。


「おじさま。そこのダンディーなおじさま」

「……おや。私の事かな」「なに言ってるの、あなた」

「ちょっと見ていってくださいよ」

「何か催しものかな??」「新しい海の家かしら??」

 中年夫婦の二人連れは、金髪で青い目の幼女について行った。


「ボーヤ。ちょっとそこの、かわいいボーヤたち」

「なに言ってんだこいつ」「俺達より小さいじゃん」「でもカワイイな」

「ちょっと見ていってくださいよ」

「日本語うまいなー」「なんかやってんの??」「名前なんてゆーの」

 地元民らしき子供の三人連れは、金髪で青い目の幼女について行った。


「ワンちゃん。そこの、かい主を連れたワンちゃん」

「へっへっへっへっ」「うちの子に何か用かい??」「かわいい子ねえ」

「ちょっと見ていってくださいよ」

「へっへっへっへっ」「何かやってるのかな」「ちょっと見に行きましょうか」

 飼い犬とその飼い主の連れは、金髪で青い目の幼女について行った。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 周囲の人を少しだけ巻き込んで、雪奈と春奈が『砂の城』を完成させてから、少したって。


「お集まりいただき、まことにありがとうございます」

 ぺこり。と、雪奈が頭を下げて挨拶する。


 ギャラリーからパチパチ、と。まばらな拍手が返って来た。……そう、ギャラリーが……観客がいる。正確には、もともと周囲にいた家族連れとかに加えて、雪奈がどこからともなくキャッチしてきた観客が追加されていて、けっこうな人出になっていた。何か小イベントのような感じになっている。中には、手に持ったスマホで動画を撮影??している人までいるくらいだ。


「これが!!ワタクシたちのせいさくした、『砂のお城』です!!」

 おおー。パチパチ。と、ギャラリーから拍手。


 ちなみに、この『砂の城』だけど……城、というか。なんというか。どこかで見たような少し洋風の建物で、僕の記憶によれば、お城では無かった気がするんだけどなあ。


「ねえねえ、お嬢ちゃん。ちょっと聞いていいかい??」

「はいよろしいですよ、おじさま。なんでしょうか」

 もしかして僕と同じ疑問を持ったのだろうか。ちょっと年配の夫婦のおじさんが、雪奈に質問しようとしていた。


「これ、なんてお城なんだい??」

「日本でいちばんゆうめいなお城の、『国会ぎじどう』ですよ」


 ちょっと音が消えた。ような気がした。

 ざざー。という波の音と、ワンちゃんの『へっへっへっへっ』という息遣いだけが聞こえる。そして。


「この子、なかなか言うな!!」『へっへっへっへっ。わん!!』

「ご家庭の教育レベルが高い!!」「中継とか見てるのかしら」

「やべえ。なんかツボ入った」「この子いくつ??」

「ブラックジョークてやつ??」「マジでウケる」

 主に大人の人から、大きな拍手とともに歓声が上がった。


「さーらーにー」

 雪奈が少し『砂の城』から離れて、何か変なポーズをしながら、何かを言い出した。


「よくみて、聞いてくださいねー」

 すーっ。と、大きく息を吸い込む雪奈。そして。


「ケンカするのは、よさんかいぎが、おわってからにしろ――!!」

 と、叫んだかと思うと。


 助走をつけて飛び上がり、そこそこの滞空時間の後、ドロップキックが『砂の城』の中央部に炸裂した。『ようじょロケット!!』みたいな事も叫んだ気がする。砂の城の中央部は少し吹き飛び、無残な形に歪んだ。砂の城の上に落ちた雪奈は、すっと立ち上がる。


「マジメにかいぎしろ――!!ヤジをとばすな、大人のくせに!!」

 ようじょスタンプ!!みたいな事を言いながら、雪奈が砂の城の残った部分を踏みつける。


「ヤジをとばすやつは、げんぼうしょぶんだ――!!」

 スタンプ!!スタンプ!!じゅうろくもんキック!!と、またも攻撃を繰り返す雪奈。


「くだらない足のひっぱりあいをする前に、まずはしごとをしろー!!そんなんだから、しじりつがさがったり、せいけんがとれなかったりするんだ――!!まずはしごとをしろ――!!とにかくしごとをしろ――!!話はそれからだ――!!!!」

 ようじょエルボー!!ようじょニークラッシュ!!ようじょヒップアタック!!


 全身砂だらけになった雪奈が、息を荒くしながら立ち上がり、バンザイのポーズを取って、ギャラリーにこう言った。


「いじょう!!『ようじょのいかり』でした!!」

「「「「おおおお――――!!!!」」」」「わんわんわんわん!!」

 観客から大歓声と、大拍手。

 ワンちゃんも尻尾をブンブン振っている。とか思ったら、次の瞬間ダッシュして城の残骸を猛然と掘り始めた。どうやら雪奈の言葉を理解していた訳ではなさそうだった。



※※※※※※※※※※※※


 その後。


『もっとでかいの作ろうぜ!!』

 みたいな事を誰かが言い出して、『砂の城・バージョン2』が建設される事になった。そして、盛り上がった観客の力によって、さらに大型化された城の前で、みんなで記念撮影をすると、観客総出で派手に城は解体工事され、みんなが笑顔で帰路についた。


「なかなか、じゅうじつした砂遊びでした。皆さん、しょだい『グジラ』みたいなかんじで、楽しんでましたねえ」

「グジラ??ちょっと前にやってた怪獣映画??アニメの方は見たけど」

「口と尻尾からビーム出すやつかな」

 確か、そんな感じの映画だったと思うけど。


「しょだいの『グジラ』は、ほうしゃのう火炎を、はくんですよ」

「「なにそれこわい」」

「あと、国会ぎじどうをハデにはかいするシーンがあります」

「「へぇ――」」

「とうじも政治ふしんだったらしいので、かんきゃくウケを狙ったんでしょうね」


 やっぱり雪奈は時々物知りだなあ。どこで覚えたの??みたいな事、最近は知り合いの人は、あまり聞かなくなったけど。

 ともかく、そんな感じで。僕ら家族が皆そろっての、はじめての海水浴旅行は終わった。さすがに帰りの車内では、雪奈は途中から爆睡していて、何やらモニョモニョと寝言を言うだけだったけど、とりあえず楽しそうで良かった。


 まだ夏休みは始まったばかり。こんな感じで、色々な思い出を作っていけたらいいな、と。そんな事を考えながら、僕もいつの間にか、眠っていた。

でも幼女は、食堂だけは壊さずに残したという。

『おいしい物を出すところに罪はない』と言って。

海水浴は?砂むし風呂?落とし穴?それとも離岸流??

皆さん、安全に楽しく迷惑をかけないように遊びましょう。怒られない程度に。

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[一言] どっかの甲子園行った女子高生と政治家への不満が全く同じやぞこの幼女
[一言] 昭和も割とバブルな時代のイメージじゃろソレw 下層な大衆でも車買えて遠出でレジャー出来た時代のw 肌を出したがらないと言えば、偉い学者の先生が大真面目に研究した話によると 景気が良くなるに…
[良い点] 海水浴のイメージが昭和! 完全に昭和ですよこの自称幼女!!
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